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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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伝えるラーラ、受け取るバル

 バルに名を呼ばれ、ラーラは視線を上げて「うん」と応えた。

 それにバルは微笑んで返す。近過ぎて目の周りしか見えないけれど、そのバルの顔全体の様子をラーラは脳裏で補完出来ていた。いつもバルが自分に向けてくれている表情だ。


「俺は正直に言ったから」

「うん?・・・何を?」

「リリ殿を嫌いだと言えばラーラは安心したのかも知れないけれど、正直に、今は好きでも嫌いでもないと言ったんだよ」


 額を付けたままバルが喋ると、顎と喉の動きで頭が揺れて、二人の鼻が触れ合う。

 その付いたり離れたりの動きが、自分の言葉を誘い出す様にラーラには感じられた。

 しかし、自分の中の思いを口にする事は、ラーラにはまだできなかった。


「・・・そう」

「だからラーラも正直に教えて欲しい。それでもやっぱり不安に思う?もちろんリリ殿以外の人でも事でも良いよ?」


 そうバルに言われ、ラーラはまた目を伏せる。

 そのままラーラの言葉を待ちながら、ラーラの心の蓋を開かせる方法が何かないのか、バルは探り続けていた。


 しばらく経って、それでも自分の思いを口に出来ないラーラは、嫉妬の種に付いてだけをバルに伝えてみる事にした。


「あの、バルに何かして欲しい訳じゃないのよ?」

「ラーラがヤキモチを焼いても?」

「うん」

「分かった。構わないよ。それで良いから、教えて欲しいな」


 ラーラが話してくれそうになっている雰囲気を感じて、バルはラーラの話から何か言い訳や対応を思い付いても、口にしない様にと自分に言い聞かせる。

 口にしてしまえばまた、ラーラには違う違うと繰り返されてしまうだろう、とバルは考えた。


「ラーラの思っている事、感じている事を俺は知りたい。どの様な事でも良いから、俺に話せる事があるなら話して欲しい」


 これくらいの言葉までなら大丈夫だろう、と思ってバルはラーラを促す。


「・・・うん・・・あのね?」

「ああ」

「後見人の件でバルは、レント殿からリリ・コーカデス殿を庇っていたでしょう?」

「うん?後見人?」


 バルはラーラの言葉を全て受け止める積もりだったのだけれど、後見人とは何の話だったか覚えていなかった。


「リリ・コーカデス殿がレント殿の後見人になったのでしょう?」

「ああ」

「でもそれは、レント殿が未成年である事の後見人であって、コーカデス家の当主やコーカデス領の領主の後見人ではないって、レント殿が言っていたじゃない?」

「ああ、あの事か」

「うん」

「それで?」

「え?それでって?」

「俺がリリ殿を庇ったと言うのは?」


 バルが惚けているのではなく、本当に思い当たってなさそうな事に、ラーラは少し呆れる。


「後見人のリリ・コーカデス殿の意見に対して、しっかりと向き合う様にとレント殿に意見をしていたでしょう?」

「ああ、そうだったな。確かにそう言った」

「あれって、レント殿からリリ・コーカデス殿を庇ったのでしょう?」

「なるほど」


 思い出したバルにはやはり、庇った意識はなかった。

 そんなバルの見せる様子が、惚けている様にも見えたので、ラーラは少しムッとする。


「お菓子作りに関してでも、リリ・コーカデス殿にセンスがある事を褒めていたわよね?」

「ああ、それは覚えている」


 バルはリリにはセンスがあると、本当に思っていた。


「それで?」


 ラーラの言葉が途切れていたので、自分が途切れさせたのかと思ったバルが、先を促す。

 しかしラーラは今の言葉で、バルに気持ちを伝えられた気になっていた。それが伝わっていなそうな事に、ラーラは少し動揺する。


「それで、バルがリリ・コーカデス殿を褒めたから・・・」

「ああ、そう言う事か」


 他の女性を褒めたと思ったからラーラはヤキモチを焼いたのか、とバルは思った。

 バルに取っては、リリにセンスがあると言うのは単なる事実で、褒めた事にはなっていなかった。

 その事を言い訳しようとして、バルは思い留まる。ここで反論して話しが逸れたりしたら、折角開いて来ている様に思えるラーラの蓋が、また閉じかねない。


「それで?」


 バルのその声の調子に、ラーラは自分の思いが伝わっているのか不安になる。


「レント殿のミリへのプロポーズも、バルとリリ・コーカデス殿とが息を合わせて反対していたでしょう?」

「・・・なるほど」


 バルからすると、レントからミリへのプロポーズなど反対するに決まっている。それなので、リリと息を合わせるも何もなかった。リリの立場にしても反対するのに決まっているのだから、向こうもバルにわざわざ合わせていたりはしていないだろう。

 一つの事を同じ様に反対しているのなら、一緒に反対を口にすれば、意見が合っている様に見えるのは当然の筈。それは息を合わせている訳ではないとバルは思ったけれど、その事はやはり口に出さなかった。


「恋愛の果ての誰からも祝福されない結婚って、リリ・コーカデス殿は言っていたけれど」


 この時点でバルは小首を傾げる。その様な事をリリが言っていた記憶がバルにはない。


「あれって私達の事でしょう?」

「私達?」

「うん。バルと私の事」

「俺達の結婚は親族に祝福されていただろう?」


 ラーラの気持ちを引き出す為に反対意見を口にしない様に気を付けていたのだけれど、バルは思わずラーラに同意を求めてしまった。


「でも、反対していた人は多いでしょう?」

「そう言う人間もいたけれど、でも誰からもではないだろう?」

「少なくとも、リリ・コーカデス殿は反対だったから、ああ言ったのよ」

「う~ん?・・・それで?」


 自分達の結婚を祝福してくれている人達はいる。それはラーラも同意した。それなら何故、リリがそう言った事をラーラが持ちだして来たのか、バルには分かっていなかった。

 その為、話の続きがあるのだろうと考えて、バルはラーラに先を促す。


「神様も私達の事を祝福してはいないと、言いたかったのかもね」


 ラーラは戸惑いながら、そう続けた。

 ラーラは自分達の結婚に、リリがケチを付けたと感じている。そしてこの話を出せばその事をバルが思い出すと思ったし、バルがあの時にケチを付けられたと感じていなかったとしても、敢えて話題に出す事でバルからの共感を得られるとラーラは思っていた。

 けれど何故かバルの反応が弱い。その事にラーラは戸惑ってしまう。


 バルはラーラがこれを言いたかったのか、疑問に思っていた。

 バルに取っては自分とラーラの結婚に付いて、リリに何と思われていようと関係がない。リリに限らずバルに取っては、ラーラを幸せにする事だけが大切なので、他の誰かに何と思われようと、全く関係がなかった。

 しかしラーラが言いたい事が、他の皆にも祝福して欲しいと言う事ならば、ラーラが望む通りに祝福させたい。


「そうか」


 バルは短く応えて小さく肯いたけれど、ラーラが望むなら大神殿で祝福を受ける事を叶えようと決心していた。

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