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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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違うと言うのは何との比較?

 ラーラは小さく息を吸った。胸がキュッと痛む。


「バルは私のヤキモチが嬉しいって言ってくれたけれど、私のヤキモチはそんな風に、私が間違ってるのよ」


 ラーラは微笑んでみせるけれど、鼻の奥はつんとするし、目の奥は熱いしで、上手く表情が作れない。


「ラーラ」


 バルはこんな時なのに、ラーラが苦しんでいるのが分かっているのに、そんな様子のラーラに愛おしさを感じてしまった。そしてその事自体に対して、昏い歓びを感じる。


「ねえ?ラーラがどんなヤキモチを焼いたのか、俺に教えてくれないか?」

「え?・・・いやよ」

「え?なんで?」


 バルは素で何故かを尋ねた。ラーラは先程から感じている、バルの気持ちとの乖離に心を揺らしていた。

 視線をまた下げたラーラに、バルは自分の過ちを悟る。


「ラーラ?」

「・・・なに?」


 ラーラの返しは低く重かった。


「俺はラーラのヤキモチを嬉しいって言ったけれど、それはまあ、そうなんだけれど、でも今はラーラの気持ちが知りたいんだ」

「・・・そう」


 素っ気ないラーラの返事に負けてしまわない様に、バルは自分の中の昏い気持ちを燃やして挑む。


「ああ。俺は今日まで、ラーラがヤキモチを焼くなんて知らなかったから」

「・・・それで?」


 ラーラの口調は冷たいけれど、自分の話を引き出そうとしてくれているのだとバルは思い込む事にする。


「つまり俺は、ラーラの事をこれまで思い違いをしていたのかも知れない」

「・・・だから?」


 ラーラの言葉が冷た過ぎて、それはそれでなんだか、バルは気持ち良くなって来てしまった。


「改めて、ラーラの事を知りたい。そしてラーラの事を理解したい」

「私の事、理解してどうするの?」

「え?いや、なんで?」


 ラーラの言葉に、バルはかなり慌てた。


「理解したいのに理由なんていらないだろう?俺はラーラの夫だよ?自分の愛しい奥さんの事を理解するのに、理由なんて必要ないじゃないか?」

「・・・でも・・・」


 言い淀むラーラがバルは可愛い。


「でも?」

「私の事、バル・・・幻滅したでしょう?」


 驚いたバルは目を大きく見開いた。そして慌てて早口にラーラに問う。


「え?なんで?どこが?いつ?」


 ラーラの言葉はバルに取って、一番ぴったり来るのは冤罪だ。


「ミリが褒められてバルが喜んだのに、その笑顔の向け先にまでヤキモチ焼いたし」


 ラーラの言葉が理解できた事に、バルはホッと息を吐いた。


「あ~、まあ、そんな観点、俺にはなかったから、正直驚きはしたけれど、でも、もう覚えたから大丈夫だよ?」

「違うのよ」


 ラーラは頭を左右に振る。


「それでバルに他の女性に笑顔を向けないで欲しい訳じゃないの」

「でも、俺が他の人に笑顔を向けたら、ラーラは不安になるのだろう?」


 ラーラはまた頭を振りながら「なるけれど」と言った。


「でもバルの笑顔を制限したい訳じゃないの。違うのよ」


 バルは先程からラーラが、違う違うと言っている事が、何と比較して違うのか少しも理解できていなかった。

 その違うと言う何かは、ラーラの気持ちの蓋の下にある。バルにはそう感じられている。

 だが、それをどうすれば紐解いていけるのか、バルには分からない。対応策も思い付かない。少なくとも、今すぐに何かを解決出来たりはしないのだろう。しかし今だからこそ、ラーラの気持ちの蓋は開き易いのかも知れない。

 リリと会った今日の一連の出来事がラーラの中で消化されてしまったら、今まで以上に蓋が固く閉まりそうにバルには思えていた。


「ラーラ?」

「・・・うん」

「俺の人生はラーラに捧げている積もりなのだけれど、それは信じて貰える?」


 ラーラははっと顔を上げて、バルと視線を合わせた。


「バルの気持ちを疑ったりはしてないわ」


 ラーラの真剣な表情に、バルは微笑んで「うん」と返す。


「でもバルの気持ちに、私は報いられてはいないの」


 気持ちを返すでも応えるでもなく、報いると言うラーラにバルは違和感を抱いた。

 自分のラーラに対しての気持ちには、ラーラは充分に返してくれているとバルは思う。自分の気持ちにもラーラは充分に応えてくれている。

 しかし、報いるとはなんだ?


「ラーラ?報いるって何?」


 バルはストレートにラーラに訊く事にした。


「ラーラから見て、俺は報われてないって事?」

「違うの。バルが報われてないんじゃなくて、私がバルに報えてないの」


 いや、全然分からない。

 バルは顔を少し上に向けて、目を固く閉じた。いや、本当に分からない。今のこの動作も考えている振りになるかも知れないけれど、バルの頭は回っていなかった。


 バルは大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。それをラーラが待っていてくれている事に、バルは歓びを感じる。


 基本的にバルはラーラにチョロいけれど、バルはそれを自覚していない。

 ラーラにはバルが自分にチョロ過ぎると思えているので、その事に注意をしているけれど、実はそれがバルとの間に隙間を作っている事にラーラは気付いていない。何故ならその隙間はラーラの中にあって、ラーラから見えるバルの中にはないからだ。

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