されて嬉しいけれど、させたくない
バルはラーラの体を少し持ち上げ、自分の体を仰向けから横向きに倒し、ラーラの体を脇に降ろした。自分の腕はラーラの頭の下にして、反対の手の手のひらはラーラの腰に当てる。
「ラーラ?」
ラーラと目を合わせてバルは、真剣な声で呼び掛けた。
バルにもラーラにも、部屋の灯りがバルの体で影になっているので、お互いの顔は影の中だけれど、間近に正面から向き合う体勢にしたので、表情はお互いに窺える様になった。
「うん」
ラーラは小さくそう返して、目を伏せる。
「俺はラーラに嫉妬なんてさせたくない」
バルの言葉にラーラは目を閉じた。そして一拍置いて、バルに返す。
「分かっているわ」
「いや、待って」
バルはラーラの顎に指を当て、ラーラに顔を上げさせた。ラーラは目を前に向けて、二人の視線が合う。
「俺はラーラに嫉妬させる積もりはないけれど、ラーラに・・・いや、逆か」
「逆?」
ラーラがほんの僅か、首を傾げた。それにバルは少しだけ首を縦に動かして、「ああ」と返す。
「ラーラに嫉妬されるのは嬉しいけれど、俺はラーラに嫉妬なんてさせたくはないんだ」
「・・・そう言う事ね」
「ああ。最初からこう言えば良かったんだな」
「そうね。そうかもね」
ラーラが微笑むのがバルには見えた。
「ラーラに嫉妬させたくない。だから、ラーラが嫉妬を感じているのなら、それを感じなくさせたい。ラーラの不安を取り除ける様に対応したい」
ラーラは頭を小さく左右に数回振る。
「・・・対応なんて、いいのよ」
バルは頭をゆっくり大きく左右に一度振った。
「いいや、よくない。俺がラーラに不安を与えているのなら、俺がそれを取り除くべきだろう?」
バルの言葉から一拍置いて、ラーラは目を伏せる。
「でも、ヤキモチを焼いてるのは、私の方の問題だし」
「いいや。俺とラーラ、二人の問題だよ」
「・・・でも」
バルはラーラの頬に手のひらを当てた。
「ここで生きて来るのが、俺がラーラにヤキモチを焼かれると嬉しいって事だ」
「え?生きて来る?」
ラーラは視線を上げて、バルと目を合わせた。
「ああ。ヤキモチを焼かれたのは嬉しいから、どこにヤキモチを焼いたのか教えてよ」
「え?そんなの・・・」
ラーラの眉根が寄る。
「リリ殿を呼び捨てにした事は、今後は注意する。もちろん、ラーラがいない場でも呼び捨てたりはしない」
「・・・そう」
ラーラの視線が下がったので、バルはまたラーラの顎に指を当てた。顔を上げさせられたラーラは視線も上げて、またバルと目を合わせる。
「ああ。もちろんリリ殿にも呼び捨てにさせたりはしない。呼び捨てにされたらちゃんと抗議する」
バルの言葉にラーラは応えず、バルの指に顔を上げさせられたまま目を伏せて、バルから視線を外した。
「・・・ラーラ?」
「・・・うん」
「何か・・・俺の対応が違う?間違った?」
「そうではないけれど」
「では何?ヤキモチじゃなくてもいいよ?ラーラの感じた事を教えて」
「・・・でも・・・」
「でも?」
「・・・バルがリリ・コーカデス殿を呼び捨てにしないでくれるのは、嬉しい」
「そうか。うん。でも?」
「・・・また、会うんだなって思って」
「え?また会う?俺とリリ殿が?何故?」
「何故って・・・リリ・コーカデス殿に呼び捨てにさせたりしないって事は、また会って話をしている状況って事でしょう?」
「いや違う違う。会わないよ」
「いえ、違うの」
ラーラは目を上げてバルを見る。目が会うとバルは小さく肯いた。
「いや、迂闊だった。リリ殿とは会わないから、心配しないで」
そう言ってバルはラーラに微笑みを向ける。ラーラは小さく頭を振った。
「違うの。会わないで欲しい訳じゃないの」
「うん?俺とリリ殿が会うのは、嫌なんじゃないのか?」
「嫌か嫌じゃないかって言われたら、嫌なのだけど」
「そうだよな」
肯くバルの胸に片手を当てて、ラーラはバルを見詰めたまま、また頭を振る。
「違うのよ。私が嫌がるからって、バルに何かを我慢させるのも嫌なの」
「我慢などではないよ」
「違うんだってば!」
ラーラは目を伏せ、拳を作ってバルの胸を叩いた。
「ええと?何が?」
ラーラは拳を解いて、またバルの胸に手を当てる。
「・・・会って欲しくなんてないけれど、会わないで欲しい訳じゃないの」
「・・・でも、会わなければラーラは、逆か。会えばラーラは不安になるんだろう?」
「そう、だけど、そんな事を言って、バルの言動を縛りたくなんてない」
バルはラーラを抱き寄せた。
「ラーラ?」
「・・・うん?」
「ヤキモチを焼いてくれて嬉しい」
バルのその言葉は、今のラーラの気持ちとはそぐわなかった。
「俺の望みはラーラの幸せだから、ラーラから不安を取り除く為なら、リリ殿と会う事を避けるのなんて、行動を縛られている事にはならない。俺がそれを望むのだから」
「でも、リリ・コーカデス殿はバルの幼馴染みよ?」
「幼馴染みだろうがなんだろうが、関係ない」
「あるわ。私が好きになったバルは、バルが過ごしてきた過去があるからバルなんだもの。そのバルに過去を切り捨てる様な事はさせられない」
「俺はラーラと出会ってからだけで充分だよ。だから過去なんていらない」
「だから違うんだってば」
ラーラはバルの胸を押して体を離し、バルを見詰める。




