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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ヤキモチを喜ぶとは?

 素晴らしい例えが出来たと思ったバルの高揚感は、ラーラの困惑した表情に冷まされた。

 バルの顔にも困惑が浮かぶ。どこがラーラには分からないのだろうか?


「え~と、つまりね?」


 ラーラはバルに先を促す為に「ええ」と肯く。


「ラーラの為にスウィーツを作る時って、ラーラの好みに合う様に俺は目一杯考えて、全神経を集中して全力で作るんだけれど」


 バルの集中する姿を知っているラーラは、賛意を示す為に「ええ」と肯いた。


「それはもちろんラーラに喜んで貰う為だし」


 その気持ちをいつも受け取れているラーラは、微笑みながら「ええ」と返す。

 そのラーラの表情はバルを勇気付けた。バルの声のトーンが少し上がる。


「そこでラーラに喜んで貰えたら、それだけで満足なんだけれど」


 ラーラは「ええ」と言いながら、小首を傾げた。話が搦まって来ている気配をラーラは感じる。

 ラーラの表情は僅かに、苦笑い寄りになっていた。


「それでもやはり、俺に気を遣って喜んでくれたり褒めてくれたりするのよりは、感じた事を率直に言ってくれたり、ダメならダメで食べ残してくれたりする方が、ありがたいと思っているんだ」

「褒めたらダメなの?」


 またラーラが困惑顔に戻る。それを目にしてバルは少し慌てた。


「いや、褒められたら嬉しいよ?嬉しいけれど、そうではなくて、不味くても俺を気遣って褒めてくれるよりは、不味いと正直に言ってくれる方が、俺は助かるって話だから」

「不味かった事なんてないけれど、それは分かっているしそうしている積もりだけれど?」


 ラーラの表情が困惑から疑問を浮かべたものに移る。


「ああ。それだからラーラには、ヤキモチもそうして欲しいと俺は思うんだよ」


 ラーラの表情が困惑ではなくなった事で、バルの緊張は少し解けた。

 しかしラーラが疑問を抱いているのなら、まだ問題を乗り越えられていない事をバルは忘れてしまっている。


「ううん。そこが分からないの。ヤキモチをどうするの?」

「どうって」


 どうと訊かれると、バルは戸惑った。少し頭がスイーツに寄り過ぎてしまっていて、嫉妬の話に戻り切れていない。


「ラーラにヤキモチを焼いて欲しいや違くて!ちょっと待って」


 バルは例えのスイーツの話と原形の嫉妬の話を頭の中で対比して、自分が本来伝えたかった事を手繰り寄せる。


「俺はラーラに不安を感じて欲しくないし、俺の事を信じて欲しいと思っているんだ」

「・・・ええ」


 肯いてはみたけれど、ラーラにはまだ、嫉妬とスウィーツが結び付いてはいなかった。


「それは私も分かっているわよ?」

「ああ。それでその為の努力もしている積もりだ」

「ええ、分かっているわ」


 それはラーラも分かっている。バルが自分の為に、それこそ尽くしてくれていると言えるほど良くしてくれている事は、ラーラはいつも感じていた。


「ありがとう。でも、それはそれとして、ラーラにヤキモチを焼かれると、結構嬉しいんだ」

「え?・・・なんで?」


 ヤキモチを焼かれて喜ぶ男のイメージとバルが、ラーラの心の中では重ならない。


「なんでって、良く分からないけれど、ラーラに『バルは私のものよ!』って言われてるみたいで」


 ラーラはバルの話に違和感を抱き、言葉を返せなかった。ラーラに自分のものだと言われて喜ぶバルの気持ちが、ラーラには想像出来ない。


「だからと言ってラーラにヤキモチを焼いて貰う為に、他の女性に手を出したり声を掛けたりなんかしないぞ?そう言う事ではないからね?」

「あ、うん」

「いや、ホント、違うから」


 ラーラはもう一度「うん」と返すけれど、バルの話から気持ちは離れていた。ラーラの心は『バルは私のものよ』で喜ぶバルの気持ちの事に、引っ掛かったままでいる。

 バルはラーラが付いて来ていない事は感じていたけれど、それがラーラの心の中に非難とか忌避とかが生まれたからだと考えていた。


「あ~もう!違うけれど、ラーラにヤキモチを焼かれるのが嬉しい事が伝えたいだけだから。良い?それが言いたい事ではなくて、言いたい事を理解して欲しいから、ラーラにヤキモチを焼いて貰うと嬉しいと言っているのだからね?」

「あ、うん」


 バルはラーラに伝わっていない事は感じていた。

 一瞬、お菓子作りで計量などの下準備が大切な事を例えに出そうかと思ったけれど、さっきの渾身の例えが上手く伝わっていなかったので、()めておいた。


 バルがラーラに言いたいのは、ラーラが嫉妬を感じたらバルにそれを伝えて欲しいと言う事だ。

 それだけの事を回りくどく組み上げ式で説明しようとしているのは、ラーラがこれまで嫉妬に蓋をしていた事にバルが気付いたからだ。

 なぜラーラが蓋をしたのか、バルには分からない。それなので単に嫉妬を感じたら教えて欲しいと言ったところで、嫉妬なんてしていないと更に蓋をされたら、ラーラの本心が二度と分からなくなりそうだ。

 これまでバルは、ラーラの事を懸命に考えて来た積もりだった。それなのにラーラがバルに感情を隠していたかと思うと、今までラーラの気持ちを察していた積もりだったけれど、全て間違いだったのかも知れないとバルには感じられた。


 ラーラに関してならどの様な事でも、間違えているかも知れない事をそのままにしておく事は、バルには出来なかった。この様な問題を後回しにするなど我慢は出来ない。

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