表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
571/652

ヤキモチとスウィーツ

 バルの反応がないので、ラーラは目を閉じて、バルの呼吸と脈拍を確かめた。分かったのは、バルが生きている事と興奮気味な事。

 目を開けたラーラはバルの胸から顔を上げてバルを見上げ、バルの様子から、バルが懸命に考えている事を知る。

 この状況に、ラーラはバルが愛おしくなる。そしてそれは、少しの淋しさを伴った。


「ごめんなさい」


 ラーラにそう言わせたのは、その淋しさだった。


「え?何が?」


 バルは顔を下げてラーラと目を合わせる。


「う~ん。なんとなく」


 そう言うとラーラは、またバルの喉元に頬を付けた。


 ラーラが謝ったのは、リリ・コーカデスがバルの幼馴染みだと思ったからだ。

 今のバルとリリとの関係がどうあれ、過去のバルの友人関係を批判したりする事は、自分はすべきではないとラーラは考えた。

 しかしそれを口にすれば、バルにリリとの思い出を思い出させてしまうだろう。それはラーラは嫌だった。


「ラーラ?」

「・・・なに?」

「もしかして、ヤキモチを焼いていた?」

「・・・なんで?」

「あ、いや、あれだよ?責めてる訳じゃない・・・」


 そこまで言って、ラーラに全く違う様に受け取られる可能性に、バルは気付く。


「いや!あの!ラーラに対して後ろめたいところは俺にはないからね?先ずね?」

「え?どう言う事?」


 バルの「後ろめたい」の言葉を不穏に感じたラーラは上半身を逸らし、眉を(ひそ)めた顔をバルに向けた。


「だから、ヤキモチを焼かれる根拠は思い付かないけれど」

「根拠?」

「そう、根拠。根拠は思い付かないけれど、根拠のない事で俺を疑うなって言いたい訳じゃないんだからね?」


 バルが焦って早口になるけれど、その理由がピント外れの様に思えて、ラーラはクスクスと笑い始める。

 体を少し上にずらして頭を持ち上げ、今度はラーラはバルの顔を正面から見下ろした。


「それ、私の事、責めてるじゃない」

「え?」


 バルの驚いた顔でまたクスクスと笑いながら、ラーラは顔を下ろして、バルの頬に自分の頬を付けた。


「冗談よ。分かっているから」


 バルはラーラの言葉にホッとしたけれど、でもそんな場合ではない。


 バルはラーラに嫉妬された事がないと思っていた。

 しかしそれは単に、ラーラが自分に嫉妬を見せなかっただけなのではないか?とバルは今初めてそう考えた。

 ラーラの心の中に、嫉妬がなかった訳ではなかったのだとバルは思った。それはただ、ラーラが嫉妬に蓋をして、自分に見せなかっただけなのではないか?そしてさっきはその蓋が少し開いたのだ。


 バルに取っては、ラーラが嫉妬を感じている事は問題だ。自分の気持ちが疑われているのかも知れないし、自分が信じ切られていないのかも知れないのだから。

 けれど、ラーラの気持ちに蓋がある事の方が、バルにはもっと重要な問題だった。

 なにせ、さっきは開いている様に思えたその蓋は、今はもう閉じてしまっているのだ。そしてその中には、ラーラの気持ちが閉じ込められている筈なのだ。

 そこに何が閉じ込められているのか、嫉妬だけなのか他にもあるのか、それはバルには分からない。なにせラーラの蓋の存在を今日初めて意識したのだから。


「ラーラ?」

「・・・なあに?」

「話が少しずれるけれど、俺はラーラに嫉妬されたのだとしたら、少し嬉しい」

「え?なに?」


 ラーラはまた頭を持ち上げて、バルの目を合わせた。

 

「ずれてないじゃない?嫉妬の話でしょう?」

「いや、そうだけど、そうではなくて、嫉妬して欲しいんじゃないんだ」

「え?でも、嬉しいんでしょう?」


 ラーラは首を傾げながら少し体を下げる。そしてバルの胸に頬を付けた。

 バルは言葉を伝えるのに、もう一度ラーラと目を合わせたいと思う。そしてラーラの体を持ち上げようかなどと悩んで、しかし代わりにラーラの背中を撫でた。


「ラーラに嫉妬なんてさせたくない。それは本心だ。ラーラに不安を感じさせるなんて、俺は望んでない。でもね?ラーラがヤキモチを焼いてくれたら、それは嬉しいと思ってしまう」

「・・・良く分からないのだけれど?」


 バルの言葉がラーラには、上手く噛み砕けないし飲み込めない。


「上手く言えないけれど、こう、俺の中には嫉妬の周りに、こう、二つのスイッチがあって・・・いや・・・違う・・・そう!俺が作ったスウィーツをラーラに食べて貰うとして」

「スウィーツ?」


 ラーラには桃のパイが浮かび、そこからリリ・コーカデスの顔をラーラは思い浮かべてしまう。


「ああ。俺はラーラを喜ばせたくてスウィーツを作るし、美味しいと言って貰えるともちろん嬉しいのだけれど、今度はもう少し甘さを抑えてとか、クリームはもっと軽い方が良いとか、ラーラに率直な意見を言って貰うのも嬉しいんだ」


 バルは、自分が伝えたいのはまさにこれだと思った。


「え~と?それは?」


 上半身を逸らして頭を上げたラーラの顔には、困惑の表情が浮かんでいた。


「それは分かるし、バルはまさにそうだなって思うけれど、でも、それとヤキモチと、なんの関係があるの?」


 バルのヤキモチの話の後にリリの顔を挟んでしまったラーラには、バルのスウィーツ評価に例えた例の、どこがヤキモチと繋がるのかが少しもピンと来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ