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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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今と交際前と

 バルは幼い時、いきなりリリ・コーカデスにプロポーズをした。そしてリリに断られてからもずっと、バルはリリにアプローチを続けていた。日に何度も交際を迫っていた。


 バルと見詰め合っていたラーラは、顔を俯かせながら「そう」と呟く。

 そのラーラの様子が、ラーラにプロポーズをした時の事を思い浮かべていたバルに、違和感を与えた。


「ラーラ?」

「・・・なに?」


 ラーラの声が思ったより低く、バルは首を捻る。


「俺は何か、ラーラの気に障る様な事を言った?」

「・・・別に」

「でも、何か、機嫌を悪くしてないか?」

「・・・別に。バルも子供の時に好きになったんだなって、改めて思っただけ」

「もちろんだよ。そしてそれは今も続いているだろう?」

「え?」


 バルがリリの事を思い浮かべていると思っていたラーラは、ラーラの前でバルが開き直ったのかと驚いて、また顔を上げてバルを見た。

 目が合って微笑むバルを見て、ラーラは自分が思い違いをしている事に気付く。


「それ、私の事?」

「え?当たり前じゃないか」

「え?・・・子供の頃からって、どうして?」

「いや、俺、ラーラに始めて会った時に、一目惚れしていたみたいだって言ったじゃないか?」

「あ・・・うん」


 ラーラは自分の勘違いと、バルとの認識違いがある事におかしくなって、目を伏せて口元に手を当てて、くすりと笑った。その姿がバルの目には、少し寂しく映る。


「ラーラ?どうした?」

「ううん。あの時、バルは子供だったなって思い出して」

「そりゃそうだよ。俺もラーラも子供だったじゃないか?」

「え~?私はもうレディだったわよ?」


 そう言いながら、ラーラはクスクス笑って、再びバルの肩に額を付けた。


「確かにラーラは、年下なのにしっかりして見えていたけれど、俺は子供扱いで自分は大人振るなんて、却って子供っぽいんじゃないか?」


 そう言いながらバルがラーラの背中に手を回す。今度はラーラはそれに逆らわず、バルの体に寄り掛かった。



「機嫌、直った?」


 しかし、そのバルの一言は余計だった。ラーラの脳裏に、自分の機嫌に影響を与えているリリの姿が浮かぶ。そしてその名がラーラの口から呟かれる。


「リリ・コーカデス殿」

「うん?」


 ラーラがリリの名を突然だした事に、バルはかなり驚いた。それを感じ取ったラーラは、やはり自分が思い違いをしていた事を実感する。


「相変わらず、綺麗よね」

「え?」


 ラーラにそう言われて、今日のリリの姿をバルも思い出す。そして何の警戒もせずに、素で答えた。


「そうだったか?」

「ええ。学院で見掛けた時も綺麗な人だと思っていたけれど、久し振りに見たら、透き通る様な美しさだったわよね」

「そうか?確かに少し痩せたみたいではあるけれど」


 バルに取ってはラーラの見た目は「可愛い」なので、「君の方が綺麗だよ」と言うセリフは口から出て来なかった。バルから見たラーラは可愛いし愛おしいので、リリと並ぶ事はないから、二人を比較する事自体がバルの頭には浮かばない。

 それなのでバルは、リリ単体への感想を口にしている。

 そしてそのバルの言葉が、ラーラの胸にチクリと刺さる。


「心配?」

「心配?何が?」


 そう返してからバルは、ラーラの今の様子に付いては心配しているのだから、それを伝えるべきだろうかと思ったけれど、その考えが纏まるより先に、ラーラが口を開く。


「リリ・コーカデス殿が痩せていた事に付いて」

「え?リリの心配?俺が?なんで?」


 バルはやっと、自分が危険地帯に立っている事に気付いた。


「何でって、幼馴染みでしょう?」

「いや、そうだけれど、幼馴染みなんて他にもいるし。パノとか」

「そうね。でもバルは、リリ・コーカデス殿にはずっとアプローチをしていたんでしょう?」

「それはパノも他の女の子も一緒だし」

「そうだったわよね」

「でもラーラ?ラーラに交際を受け入れて貰ってから、俺は他の子に声を掛けたりしていないからな?」

「それは知っているけれど」


 バルはホッと息を吐いた。だが、安心するのはまだ早かった。


「でも、リリ・コーカデス殿がバルの一番のお気に入りだったのでしょう?」

「いや、違うから」

「え?他にお気に入りの女性がいたの?」

「いや、違うって。そんなのはいないって」

「やっぱりリリ・コーカデス殿が、一番だったのよね?」

「いや、だから、俺の一番はラーラだし、俺が愛しているのはラーラ一人だよ。知っているだろう?」

「でも、私と出会う前は、リリ・コーカデス殿が一番だったから、ずっと交際を申し込んでいたのよね?」

「いや、だから」

「いたのよね?」

「いや、いたけれど、他の女の子にも、ラーラと出会う前は声を掛けていたけれど、それは桃のパイが好きって言うのと同じだって説明したし、ラーラも納得していたじゃないか?」

「お菓子に対してと同じ感覚の好きなんだって言っていたけれど、好きは今も好きなのよね?」

「好きも嫌いもないだろう?今日会うまでは、リリの事なんて忘れていたんだから」

「でも会ったら思い出したでしょう?」

「そりゃあ、まあ、顔は覚えているし」

「久し振りにお気に入りのお菓子を食べた時みたいに、やっぱり好きは好きなのよね?」

「俺が女性として好きなのはラーラだけだし、女性として愛しているのもラーラだけだ。それは分かって貰えていると思っていたけれど?」

「でも、バル。バルがお菓子の事を考えている時って、私が声を掛けても気付かなかったりするじゃない?」


 バルにはそんな覚えはない。

 しかし覚えがないのは、ラーラに声を掛けられても気付いていないからかも知れないと思うと、バルはラーラの言葉を直ぐに否定出来なかった。

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