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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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流れる様な結論

 レントの叔母リリ・コーカデスには、当主で領主のレントに挙げる条件は、もう他に思い付かない。

 そしてここで言い切らなければ、自分には猶予が出来るけれど、それはレントにも猶予を与える事になってしまう。

 リリは自分も戻れなくなるけれど、レントもこちらの道に戻って来させない様にする為に、通行止めをする覚悟を決めていた。


「お疑いですか?」


 リリの問いににレントは眉尻を下げ、「そうではありませんが」と返す。


「しかし後から条件を追加されますと、途中で領地の再興策を練り直す事になりますし」

「なんでしたら紙面に残しましょうか?」


 リリは自分の言葉に舌が痺れた気がした。


「その必要まではありませんけれど、そうですね。お祖父様とお祖母様に伝える時にも、叔母上に書いて頂いたものがあれば説明しやすいので、お願いできますか?」

「ええ。構いません」


 紙面に残せばもう引き返せない。けれど今後レントが道を間違えても、その紙面から再スタートさせられるとリリは考えていた。


「それでしたらわたくしは直ぐに領地に戻って、お祖父様とお祖母様と話をして来たいのですが、叔母上より先に帰ってもよろしいですか?」

「ええ。もともと馬車と馬で、別々に帰る予定だったのでしょう?」

「はい」

「それでしたら当主様には、直ぐに出立して頂いて構いません」

「ありがとうございます」


 レントの笑顔に、リリの不安が膨らむ。特別に、急ぐ理由があるのだろうか?

 しかしレントが少しでも早い領地開発への着手を求めていた事を思い出して、リリは「いいえ」と応えて肩の力を少し抜いた。


「あ、それと、叔母上の縁談を領地の為に利用しても良いとの事ですけれど、つまりは叔母上にはわたくしの領政に協力して頂けると思ってもよろしいですか?」

「もちろんです。お祖母様に当主代理で、わたくしに領主代理をさせる件ですか?」

「それもありますが、他にも色々とお願いする事は出て来ると思います」


 レントの言う色々の言葉に、またリリは緊張する。

 しかし人手が足りないのはリリにも分かる。レントの父スルトが領主だった時には、レントが領政を手伝っていた。そのスルトはいなくなった上に、今度は領地の再開発までしようと言うのだ。

 人手はいくらあっても足りないだろう。


「ええ、もちろんです。当主様の御依頼には、全力で応えさせて頂きます」

「ありがとうございます。その事も併せて記して頂いてよろしいですか?」


 リリは危険を感じた。その様な事をわざわざ明記させるのなど、怪しいとしか思えない。

 その様な事はわざわざ書かなくても、リリはレントに力を数積もりだ。当然だ。

 しかし当然だからこそ、書かないとも言えない。


「はい。もちろんです」


 リリの声は少し低くなった。それに横に立つレントが上から声を被せて来る。


「あ、待って下さい」


 リリに悪い予感がした。そう言えばレントに道を引き返させてから、レントとの遣り取り自体はやたらと順調な気がする。


「領地の開発をミリ様に手伝って頂く件が条件に入っていませんでしたが、それは禁止ではなくてよろしいのですか?」

「禁止した方が良いですか?」

「いいえ。チャンスがあるならやはり、ミリ様には手伝って頂きたいと思います。それなので叔母上がよろしければ、禁止にはしないで頂きたいと思いますが、いかがでしょう?」

「構いませんけれど、ミリ様が出した条件は、当主様からミリ様へのプロポーズに付いて、わたくしとお祖父様とお祖母様が賛成する事ではありませんでしたか?」

「それは交際練習を受け入れて頂く為の条件ですよね?」

「そうでしたでしょうか?」

「はい。領地の再開発に付いては、これからミリ様に協力をお願いする事になりますので」

「分かりました。領地の再開発をミリ様に手伝って頂けるのでしたら、それは領地の為になりますし、禁止する積もりもありませんでしたから」

「わたくしがミリ様に領地開発に協力して頂く事に、叔母上も力を貸して頂けますか?」

「ええ。当主様や領地の為に、わたくしに出来る事でしたらなんでも致しますので、ミリ様に協力頂く為に行える事があるのでしたら命じて下さい」

「ありがとうございます、叔母上」


 そのレントの笑顔に、やはりリリは何故か危機感を覚える。

 確かに今日一日の会話の重さに対して、今のこの結論までの流れは速過ぎる様にリリには思えた。

 それなので、自分の口にした条件を紙に書き出しながら、何か不足がないか、リリはもう一度考え直した。今ならまだ、条件を付け加えるのも出来なくはない。最後のチャンスだ。

 しかし、新たには何も思い付かない。これだけで問題ない様に思える。そもそもこの条件は自分が口にしたのだし、レントが罠を張る事も出来ない筈だ。本当に?


 根拠のない不安が残るけれど、だからと言って今からもう一度、レントとの議論などリリはしたくはなかった。


 リリは疲れていた。くたくただった。

 ラーラに挨拶をした時に、今日の仕事が終わった気になっていたけれど、それからの方が何倍も濃くて長かった。

 それなので、疲れ切った今のリリには、自分が条件を書いた紙をもう一度見直す事がせいぜいだった。


 リリはその紙をレントに手渡す。


「ありがとうございます、叔母上」


 そのレントの笑顔も、リリが書いた内容をレントが読み直さない事も、リリの不安を煽ったけれど、リリの心には直ぐに達成感が溢れて来て、それがリリの気持ちを押し流した。


「どういたしまして」


 そうレントに返した事で、リリは自分がもう戻れなくなった事を改めて意識したけれど、もういいや、と自分の心の達成感の表面に僅かに立つ小波を無視する事にした。

 リリはここに来て、ヤケクソになったと言える。

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