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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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搦め手

「わたくしには、コーカデス家に犯罪者の血を入れず、なおかつミリ様に最大限のコーカデス領開発をお願いするには、この方法しか思い付きませんが、叔母上は別の考えをお持ちなのですね?」


 レントにそう言われ、レントの叔母リリ・コーカデスは細かく左右に首を振る。


「そんなの、ミリ様のメリットがないではありませんか」

「犯罪者の血を引く御自分の子供を産まなくて済むのは、叔母上的にはミリ様のメリットなのではありませんか?」


 リリはレントがなぜその様に受け取るのか、まったく分からなかった。ミリは結婚しないと言う。バルもさせないと言っていた。それなら子供などもともと産まないのだ。ミリのメリットでもデメリットでもない。


「何を言っているのです?そんな訳はないではありませんか」


 リリは「叔母上的には」の部分を否定して返す。しかしレントは子供を産まない部分の否定として扱った。


「と言う事はつまり叔母上は、わたくしが相手ではなければミリ様が結婚して、犯罪者の血を引く子供を産んでも良いのですか?」

「それは、でも・・・バル様達が決める事で、わたくしが口を出す事ではないではありませんか」


 他の誰かと結婚するなら、ミリが子供を産むかどうかなど、当事者達で決めれば良い。

 リリはミリが子供を産む事にフォーカスして答えるが、レントはミリが結婚する事に付いて言葉を返す。


「わたくしは困ります。何故なら、ミリ様を迎えた他領の発展が、コーカデス領の発展を阻む可能性が高いからです」

「だからと言って・・・」


 レントの言う事はリリにも伝わっている。

 コーカデス領の衰退は、なんと言っても人の流出が決定打だ。もちろんそれには原因があるけれど、領民の人数で領地の繁栄を語る事が出来るし、コーカデス領の再興とは、コーカデス領の領民を増やす事に他ならない。そしてその為には、他領と領民を奪い合って、勝ち取らなければならないのだ。

 その事はリリも分かっている。


「だからと言って?なんでしょうか?」

「他領を発展させない為に、ミリ様が嫁ぐのを阻止するなんて、駄目ではありませんか。ミリ様を他領に嫁がせない為に、ミリ様と結婚するなんて」

「ミリ様と結婚するのは、飽くまでもコーカデス領の為です。そしてコーカデス家の為に、ミリ様とわたくしの間には、子を儲けません」

「そんな結婚、不誠実です」

「どこが不誠実なのですか?」

「ミリ様のデメリットがメリットより多過ぎます」

「なぜです?もしかして叔母上は勘違いなさっていませんか?」

「勘違い?・・?何がですか?」

「ミリ様と結婚出来たなら、わたくしは全力でミリ様を愛します」

「・・・え?」

「当然ではありませんか。ミリ様と結婚したならわたくしはミリ様の夫です。ミリ様を愛するのは当たり前ですよね?」

「・・・え?」

「まさか叔母上?わたくしがミリ様を愛する事も、駄目だとは仰いませんよね?」


 リリが返事を返さない事に、レントはまた小さく息を吐いた。


「分かりました」

「え?」


 リリには嫌な予感しかしない。訊きたくないけれど、だが、聞かないのも恐い。


「何がですか?」

「わたくしは自分の中に本当にミリ様への嫌悪があっても、領地の為ならそれを必ず消し去る積もりでおりました。しかし叔母上の中のミリ様への生理的嫌悪は、当然わたくしには消し去る事は出来ません。そしてミリ様に頼るしかないわたくしの領政案が、事ある毎に叔母上の中のミリ様の生理的嫌悪に否定されるのでしたら、わたくしはミリ様に頼る事は()めます」

「え?それって、当主様は、それでよろしいのですか?」

「叔母上」

「え?はい」

「わたくしはミリ様が利用価値があるから、ミリ様に領政支援をお願いしようとしている訳ではなく、いえ、もちろんそれもありますけれど、でもそれよりも、ミリ様が素晴らしい方だと思いますし、ミリ様と共に過ごすのはわたくしに取ってはとても楽しい時間ですので、ミリ様ミリ様言っておりますけれど、でも、ミリ様よりも、叔母上やお祖父様やお祖母様の方が、わたくしに取っては大切なのです。それはお分かり頂けますか?」

「・・・当主様」

「そして、もちろん自分もですけれど、それよりも叔母上やお祖父様やお祖母様がコーカデスを大切になさっていると思うからこそ、コーカデス領を再興させたいと思うのですし、コーカデス家を守って行きたいと思うのです。その事は叔母上?信じて頂けますか?」


 レントが搦め手で来ているとリリは感じていたけれど、これには「はい」と肯く事しか出来なかった。


「信じて下さってありがとうございます」


 レントは微笑んでから頭を下げ、そして上げた顔には真剣な表情を浮かべる。


「これからは叔母上の仰る通りに致します」

「・・・え?」


 ぐるぐると搦め取ろうとして来るレントを想定して構えていたリリは、急に引かれて心の中で蹈鞴を踏んだ。


「それは、当主様?どう言う意味ですか?」

「言葉の通りです。ミリ(さま)式ですね?」

「ミリ様?え?ミリ様がどうなさるのですか?」

「いいえ。ミリ様がバル様とラーラ様の命じるままに生きる様に、わたくしも叔母上の命じるままに領地を治めて参ります」

「・・・え?・・・なぜその様な事に?」

「わたくしは領地再興の為には、とにかく素早い対応が必要だと考えていました。しかしわたくしが考える方策では、その初手さえこの様に反対をされて、代替案も通りません。これでは時間が無駄になるばかりです」

「いえ、無駄になど、その様な訳はないではありませんか」

「はい。ですので指揮系統を整理して、叔母上が素早い対応が必要だとお考えの時にはわたくしも素早く動きますし、叔母上がまだ時間を掛けようとお考えの時には、わたくしは命令が下りるまで待機する事に致します」

「え?・・・え?・・・」

「あ?間違えました。申し訳ございません」

「え?何が間違えなのですか?」

「叔母上の命じるままに領地をわたくしが治めるのではなく、叔母上に治めて頂いて、わたくしがその御命令を実行します。言葉を間違えました。叔母上を混乱させてしまい、申し訳ございません」

「え?違います!混乱はしていますが、でも、違います!わたくしは領主にも当主にもなりません!」

「分かっております。領主も当主もわたくしが続けます」

「え?」

「ですから、何かありましても、叔母上の責任になる事はございません」

「え?何を?当主様は、いったい何を仰っているのですか?」

「叔母上が望んでいる事を叶える為に、体制を調える必要があると思うのです」

「レント殿。ふざけないで下さい」

「え?・・・ふざけてなどおりませんが?これなら叔母上の望み通りにコーカデス領を運営して頂けるとわたくしには思えるのですが、不足がございましたら御指摘下さい」

「冗談ではありません!」

「え?もちろんです。冗談などではございませんが?」


 困った様なレントの微笑みに、リリは背筋が冷たくなった。

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