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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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反対と代替

 領民全員ではないのだとしても、神殿信徒の追放などレントにさせない為にはどうしたら良いのか?

 レントの叔母リリ・コーカデスは、もう少しミリの事を理由にして、レントに考えを改めさせる様に試してみる。


「当主様はミリ様が、領民を追い出す事に反対するとは思うのですね?」

「はい」

「そうすると、追い出すならミリ様に領地経営を手伝って頂くより前になりますね?」

「ええ、そうなります」

「ですが当主様は、なるべく早くミリ様に、領地経営を手伝って頂きたいのですよね?」

「もちろんです」

「そしてミリ様も、手伝うとなったら手早く着手なさるのではありませんか?」

「それはそうだと思います」

「それですと、ミリ様が気付く前に領民を追い出すなど、実際には不可能なのではありませんか?」

「実際には移動が完了していなくても、書類上は移動させてしまっておけば良いのですけれど、叔母上?」

「え?はい」

「叔母上はわたくしがミリ様にプロポーズするのは反対なのですよね?」

「え?」


 リリの話の組み立てを壊す様に、レントが話題を戻そうとする。

 レントの言葉を肯定したら話が逸らされてしまうのは分かっていたけれど、リリは「ええ」と肯くしかなかった。


「叔母上はわたくしとミリ様の結婚も反対なのですよね?」

「当然ではありませんか。そう言いましたでしょう?」

「それなので、ミリ様にプロポーズするのも反対だと」

「もちろんです」

「そしてわたくしがプロポーズの振りをするのも、反対なのですよね?」

「その通りです」

「わたくしの体面に傷が付くから」

「ええ、その通りです」

「そしてミリ様との交際練習に付いても、反対だと仰いましたよね?」

「そうですね」

「それなのに、ミリ様に領地経営を手伝って頂くのは賛成なのですね?」


 リリは返事が出来なかった。レントはそれ程待たずに、次の問いをリリに掛ける。


「もしかしたら、領地経営をミリ様に手伝って頂くのも反対ですか?」


 感情的には賛成ではないけれど、ミリに手伝って貰えば助かる事はリリも分かっている。リリはこれにも答えられない。


「ミリ様の助言を受けるのも駄目ですか?それとも助言なら構いませんか?」

「今も手紙を通して、助言して頂いているのですよね?」

「はい」

「それでしたら、このまま助言は頂いてもよろしいのではありませんか?」

「なるほど。ミリ様にはなんの利益も渡さずに、助言だけを受けるのですね」

「え、いえ。それなりの何かと引き換えに」


 リリは「対価」とは言えずに「何か」と言った。コーカデス家には支払える対価がない事は、リリにも分かっている。


 レントが小さく息を吐く。


「叔母上はわたくしからミリ様へのプロポーズは不誠実だと仰いましたが、等価な利益も渡さない取り引きも、不誠実ではありませんか?」

「それとこれとは、話が違います」


 リリは自分でも、理屈になっていないと分かって言っていた。


「そうですね。領民を追い出さないから、代わりにアドバイスをしろとでも言えば、ミリ様は今まで通りに助言してくれるとわたくしも思います」

「・・・え?」


 レントのその言葉にリリは、領民排斥が誰の利益なのか見失い、分からなくなって混乱した。でも、それは違うと言う事だけは分かる。


「その様な交渉をしなくても、今まで通りで良いではありませんか」

「その今まで通りと言うのも、かなりミリ様の御厚意に縋ったものです」

「え?色々とミリ様に贈ったりしていたのではありませんでしたか?」

「しおりとしおりの材料ですね。叔母上の目にはミリ様の助言の価値は、その程度だと映っていますか?」

「いえ、特産品とかでも良いではありませんか」

「ミリ様一人用ですか?それとも売り捌いて換金して貰える様にですか?それよりは、もうミリ様には頼まない方が誠実なのではありませんか?」

「ですがそれでしたら、ミリ様との交際練習は、ミリ様からの助言に匹敵する経験をして頂けるのですか?」

「もちろんではありませんか。ミリ様は結婚しないお積もりなのですから、交際練習で得られる経験は、ミリ様に取って貴重なものになります」


 レントと結婚すれば、ミリは貴族でいられる。レントがプロポーズすれば、ミリはその権利を手に入れた事になる。これはミリにとって、充分な利益になるとリリには思える。

 プロポーズの振りは微妙だが、結婚しないと明言しているミリには不利益はない。交際練習だけをするのと同じだけの利益はある。

 だが振り返ると、ではレントの利益はどうなのだ?


「叔母上の仰った通り、わたくしの配偶者としてミリ様よりも相応しい方が現れるかも知れません。しかしそれはいつですか?」

「ですから、ミリ様との結婚など、当主様の不利益にしかならないではありませんか」

「叔母上の言う通りミリ様との結婚が、直接わたくしに取っての不利益になるとしても、ミリ様との結婚はコーカデス領の利益になりますし、それはつまりはわたくしの利益になります」

「ですが」

「犯罪者の血をコーカデス家に入れたくないと言うのでしたら、ハクマーバ伯爵家にお願いして、跡継ぎに養子を迎えます」

「それは駄目に決まっていると言ったでしょう!」

「チェチェ叔母上の子供には、犯罪者の血は流れていません」

「そう言う事ではありません」

「叔母上のお相手に跡を嗣いで頂くのでも構いません」

「それもあり得ないと言っているではありませんか」

「それならミリ様を説得して、わたくしの恋人に産ませた子供を跡継ぎにします」

「え?」

「それなら、問題ありませんね?」

「そんなの!不誠実ではありませんか!」

「不誠実?誰に対してですか?」

「ミリ様に対してに決まっているでしょう!」

「ミリ様は結婚しないと言っています。それは子供は作らない事も含まれているでしょう。それならわたくしと結婚しても、子供を産まない事には賛成してくれると思います」

「そんな、そんなの、駄目に決まっています!」

「あるいは子供を産まない事を条件にした方が、ミリ様には結婚を受け入れて頂き易いかも知れません」

「・・・え?」

「ミリ様も御自分の子供に、犯罪者の血が流れる事を望まないでしょう」

「何を言っているのです?」

「何をって、代替案なのですけれど?」

「そんなの、駄目に決まっているではないですか」


 リリの言葉に、レントはまた小さく息を吐いた。

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