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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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嫌悪と動揺

「ミリ様とお忍びで視察をおこなった時、ミリ様の前でミリ様の事を悪魔の子と言った領民がいます」

「え?」


 レントの叔母リリ・コーカデスの目が、今日イチ見開く。


「ミリ様に対して、直接ですか?」

「はい。ミリ様は平民の格好をしていましたので、ミリ様をミリ・コードナ様だとは分からずに言ったのですが、それでもミリと言う名は悪魔の子と一緒だと言って、我がコーカデス領の領民が、ミリ様に向かってミリ様の事を侮蔑したのです」


 リリは眩暈を感じた。

 本人とは知らなかったとは言え自領の領民が、侯爵家に連なる令嬢に面と向かって侮辱をしたのだ。通常ならコードナ侯爵家から厳重な抗議が来る案件だ。

 それなのに、コードナ侯爵家に顔を出した時も、バルとラーラを前にしても、リリはその事に付いて謝罪したりはしなかった。それはそうだ。今初めて知ったのだから。


「それって・・・ミリ様は?何か、仰ったり、なさったりは?」

「わたくしがその者を叱責しようとするのをお止めになりました。いつもの事だと、慣れているから大丈夫だと仰って」


 リリはミリが、生理的嫌悪は消せないと言っていた事を思い出した。いつもの事と言うのが、その生理的嫌悪をミリが日常的に向けられている事を指すのだとしたら、あまりにもやるせない。


「わたくしはとても情けなかった。領民にその様な事を言わせておいて何も出来ないでいるなんて、恥ずかしくて恥ずかしくて、思い出すだけでも涙が零れそうになります」


 レントは一度上を見上げ、また顔をリリに向けて「泣きませんけれど」と微笑んで見せた。

 レントのその様子にリリは、レントが領民の不始末を利用しようとしている様に感じてしまう。それに反感を覚え、ミリを悪魔の子と呼んだ領民に対して膨れた怒りをレントに向けそうになってしまい、リリは慌てた。

 レントはそのリリの動揺を感じ取る。


「その時わたくしは、わたくしが領主となった暁には、その様な領民を改心させるか、それが無理なら追い出そうと決めたのです」


 リリはレントの目に、また不穏な光を感じていた。それは先程リリが刹那にレントに感じた光より、強く昏い。

 しかし直ぐにその光は薄れ、普段のレントの微笑みに戻る。


「ですがミリ様の説では、生理的嫌悪は消せないのですから、結局は全員を追い出す事になるかも知れませんね」


 そう微笑むレントに、リリは何も言えなかった。

 言いたい事は山ほどある。しかし一切伝わる気がしない。

 自分では駄目だ。リリはそう思った。

 では誰なら?


 リリの脳裏には先程と同じ人影、ミリの姿が浮かんでいた。


「当主様」

「なんでしょうか、叔母上」


 自分に向けられたレントの目が、普段通りの様に見えるのを確認して小さく肯いて、リリはレントを止める為にミリの事を利用しようと決める。


「当主様は領民ゼロなどと言う案に付いて、ミリ様から賛成を得られるとお考えですか?」


 リリが今日知ったミリなら、きっと反対する。


「領民ゼロは先程も言いました通り、私の決意を示す為の言葉です。案そのものではありませんので」

「その言葉をスローガンやキャッチフレーズにする事自体、今日のミリ様を見た限り、わたくしにはミリ様が反対なさる様に思われます」


 これはレントを止める為に口にしたと言うより、リリのミリへの素直な評価だった。


「当主様からみても、ミリ様はそう言う方ではありませんか?」

「それはそうでしょう」


 そう言うレントの表情に、自分の言葉がレントに伝わっていないとリリには感じられる。


「もちろん領民ゼロなどと言う言葉は表には一切出しませんし、確かにミリ様にも伝えない方が良い様に思えます」

「しかし実際に当主様がその様な領民を追い出す政策を実施しようとしたなら、ミリ様は止めようとなさるのではありませんか?」


 リリが今日知ったミリなら、きっと止める。


「そうですね」

「わたくしにはミリ様が、たとえ御自身を悪魔の子と呼ぶような相手でも、排除したりなさる方には思えません」

「だからわたくしが排除するのです」


 レントの目が、リリにはまた怪しく見えた。


「ミリ様の目に触れない様に予め狂信者達を排斥しておけば、ミリ様は気付く事はありませんし、傷付く事もないでしょう」


 レントなら本当にやりそうにリリには感じられる。

 しかし、とリリは思う。当主様は本当にミリ様を傷付けたくないのだろうか?それともミリ様を守る事を言い訳にして、自分の施策を推し進めようと考えているのだろうか?


「ミリ様は優秀な方です。気付かない訳はありません。きっとその事に付いて、当主様を責めると思います」


 もしかしたらミリ様は、言い訳にされた事で当主様への嫌悪を強くするかも知れない、とリリは考えた。


「しかし既に追い出した後です。ミリ様もわたくしに頭を下げさせて、狂信者達に戻って貰おうとは考えないでしょう」


 そうなってしまえば、それはないだろうとリリも思う。

 貴族が平民に頭を下げるなどあり得ない。ましてやレントは領主だ。いくらミリに貴族の血が流れていなくても、貴族の令嬢として教育をされて来たのだ。その様な事をレントにさせる筈がない。

 そうリリは納得してしまうけれど、領民排斥など実施するのはやはり間違っているし、そもそもレントにその様な暴挙を行わせたくはない。

 リリの中にはミリを言い訳に使わせたくないとの思いも強くなって来ていた。それはミリの為と言うよりは、その様な事を行うレントを認めたくない気持ちの方が強かった。

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