御令嬢達とミリ
「サニン殿下の懇親会に参加した時、立ち居振る舞いがミリ様より勝っている御令嬢はいませんでした」
レントにそう言われ、レントの叔母リリ・コーカデスは、今日のミリの所作の美しさを思い出していた。それと共に、レントを鍛え直す必要がある事も、リリは思い出して小さく肯く。
それにレントは肯き返したけれど、まさか叔母が自分をしごく事を考えているとは思っていない。
「会話は交わしてはいませんけれど、あの様子では他の御令嬢達は、教養もそれほど期待出来ません」
ミリの頭の良さも、リリは今日しっかりと感じていた。しかしサニン王子の懇親会に参加した令嬢の中ではミリは最年長だった筈だし、ミリ以上の令嬢がその場にいなくても不思議ではない。
「けれど、懇親会に参加していない御令嬢もいます」
リリの言葉にレントは「はい」と肯く。
「その通りですけれど、家格が下の貴族家の御令嬢達に、ミリ様以上を期待したりは出来ないのではありませんか?」
「確かにそうかも知れません」
リリは小さく肯いて、「ですけれど」と続けた。
「今のミリ様の優秀さが御親族達の教育の成果なのでしたら、同じ様な教育を受けた御令嬢が存在していても、おかしくはありません」
「その可能性はありますし、懇親会ではわたくしが一番年上でしたので、わたくしより更に上の、既に就学なさっている方達の中にでしたら、ミリ様の上を行く御令嬢もいらっしゃるかも知れませんし、他国にまで広げれば、可能性は高まるでしょう」
リリの想定とは少しずれた話をレントは返した。
リリはミリが一番とは言い切れないと伝えた積もりなのに、レントはどこを探せばミリより上がいる可能性が高いかを語っている気がする。
「ですが、ソロン王太子殿下にもチリン・コーハナル様にも気に入られていて、その才能を各貴族家にも示していて、更に自身でも投資をして利益を上げている程にこの国の経済の実態を把握している御令嬢は、他にはいない。叔母上?違いますか?」
「そうですけれど、でも・・・」
「やはり、ミリ様の出自の件ですか?」
リリは躊躇って躊躇って、そして「ええ」と肯いた。レントは小さく肯き返す。
「確かにミリ様も、御自分の出自は変えられないし、生理的嫌悪を感じる人を変える事も出来ないと仰っていましたね」
「今日、私はミリ様は本当に素晴らしい人だと、本当に思ったのです。思ったのですけれど、ミリ様の言う通り、私の心の底には、ミリ様への本能的な嫌悪が潜んでいるのかも知れない。どうしてもそう思えてしまうのです」
少し苦しげに訴える様にそう告げるリリに、レントはまた小さく肯いてみせる。
「叔母上」
「え?ええ」
「叔母上は、ラーラ様が被害者だと言う事も、ミリ様には何の罪もないと言う事も、もちろん分かっていらっしゃるのですよね?」
「ええ、もちろん。もちろんです。でも・・・」
「なるほど」
レントは眉尻と口角を下げ、そして、これが生理的嫌悪ですか、と思った。
そして自分の事を振り返るけれど、自分の中にはミリに対してもラーラに対しても、それらしきものは見当たらない。もちろんバルに対してもだ。
もしかしたら自分では見えない心の奥の奥に潜んでいるのかも知れないけれど、もしそうだとしたら自分でも分からないものに対して、ミリが分かった様に指摘して来た事は納得がいかない。
「叔母上」
「ええ」
「わたくしはコーカデス領を再興させる為に、ミリ様の時間を可能な限り占有したいのです」
リリはレントの言う事の内容は理解しているけれど、賛成は出来ないので肯く事は出来なかった。
「占有ですので、ミリ様が他領を助ける為に使う時間も与えたくない。奪いたい」
「当主様?」
リリはレントの目に、不穏な光が見えた気がした。
「叔母上?他領がミリ様の助けを受けて栄えると、コーカデス領の再興が邪魔される事があるかも知れないと、叔母上は考えた事はありませんか?」
そう言って微笑むレントの目は、普段通りの様に見えて、リリは体から少し力を抜く。
「そしてミリ様を独占する為にはわたくしも、他の誰かと交際練習をしたり、縁談を進めたりする暇はありません。わたくしが領政に全力を注ぎ、それをミリ様に可能な限り手助けして頂く為に、ミリ様とわたくしの交際練習がコーカデス領には必要なのです」
リリはレントが言う事は分かる。けれどやはり肯けない。
「そして他家からわたくしへの縁談を遮る為に、ミリ様へのプロポーズも必要なのです」
「不要です!必要ではありません!」
「いいえ、必要なのです」
「その様な事をしたら、当主様には縁談が来なくなると言ったではありませんか!駄目なものは駄目です!」
「縁談を来させない為にそうするのですから、狙い通りなのですけれど」
「いいえ!領地が再興した後でも、まともな縁談が来なくなります!」
「そうかも知れませんね」
「そうかもではありません!当主様?当主様にはより良き跡継ぎを儲けなければならない義務もあるのですよ?」
「領地が再興しさえすれば、わたくしは結婚しなくても良いと考えています」
「え?・・・コーカデス家を途絶えさせると言う事ですか?」
「いえいえ、違いますよ、叔母上」
リリが驚いた様子にレントは慌てた。
「わたくしの子ではなく、養子を迎えてもよろしいではありませんか?」
「養子って、血縁者からですか?」
「ええ。それが望ましいでしょうね」
「わたくしを嫁に出すのではなく、わたくしに婿を迎えると言う事ですか?」
「・・・え?」
レントの頭にはその考えが全くなかったので、レントは直ぐには答えられない。




