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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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パートナーとして立つのは

 宿で、レントの叔母リリ・コーカデスの部屋に入ってから立ったままだったレントは、テーブルを挟んでリリの向かいの席に腰を下ろした。


「叔母上」

「え、ええ」

「わたくしは、わたくしがいない間の領地の事は、叔母上にお任せしたいと考えています」

「え?領地の事をわたくしに?」

「はい」

「わたくしは領政の経験もないから、領政の後見人にはなれないのではなかったかしら?」


 バル達の前でレントに言われた事をリリが口にする。


「あの言葉は言い過ぎでした。申し訳ありません」


 頭を下げたレントに、リリは「良いですけれど」と返すけれど、その声には不機嫌さが含まれていた。

 レントは頭を下げたまま苦笑をして、しかし顔を上げた時には殊勝な表情を作っていた。


「わたくしがいない間の叔母上のフォローに付いては、お祖父様にお願いしようと思っています」

「そう」


 レントの不在時に間違えがあってはならないのだから、補佐が付けられる事も当然なのだとは頭では分かっているけれど、リリの声には不機嫌さがまた滲んでいる。


「もちろんお祖父様にはわたくし自身のフォローもして頂きますけれど。そしてその間の家の事は、お祖母様にお任せしようと考えているのです」

「それは、わたくしが領主代行、お祖母様が当主代行と言う事ですか?」

「はい。そしてお祖父様には、お二人とわたくしのフォローをお願いする積もりなのです」

「確かに、当主様が領地を留守にする間の備えも必要ですけれど」


 リリの声色が落ち着いた事を感じながら、レントは「はい」と肯いた。


「叔母上とお祖父様とお祖母様に留守を任せられるので、わたくしは王都での社交に集中出来ると思っています」


 微笑みながらのレントの言葉にリリは「そう」とだけ返す。そして小さく息を吐いた。


 確かにレントの祖父リート・コーカデスも祖母セリ・コーカデスも、長い期間領地に引き籠もっている。何もなかったとしても、その座を既に譲っている先々代の当主夫妻が社交をしても、まともに相手にはされないかも知れない。その上レントの父スルト・コーカデス先代当主が、領主としての社交らしき事を一切行わなかった事も、これからのコーカデス家の社交の足枷になるだろう。リリ自身、レントの社交を助けられる自信はなかった。

 そう考えるとコーカデス家の社交は、新当主レントがゼロから築いた方が、早くて確実なのかも知れない。



「領主としての社交の場に、わたくしの同伴者としてミリ様に参加して頂ければ、コードナ侯爵御夫妻にもコーハナル侯爵御夫妻にも、わたくし達の味方になって頂けると思いますし、ミリ様に好意的な他の貴族家にも、少なくとも敵対はされないと考えています」


 そう言うレントに、リリは「それは分かります」と肯いて、「ですけれど」と続けた。


「ミリ様自身が攻撃される事もあるのではありませんか?」


 ミリは生まれる前から目立つ存在だったけれど、その生まれ自体が弱点だ。

 そして最近のミリの活躍に対しても、賞賛ばかりではないだろう。賞賛の声が上がれば上がる程、嫉みや妬みからの批判の声も上がり易くなる。

 そして家同士の敵対も、ミリを攻撃する切っ掛けになる筈だ。


「ええ。そうですね」


 レントもそれを分かっているとはリリは思っているけれど、そうだとしてもレントのこの軽い返しに、リリは不安になるしイラッともする。

 リリの語調は強くなった。


「その事に当主様が巻き込まれたら、領地の為にはマイナスではありませんか」

「ええ。そこに付いてはソロン王太子殿下に、抑えて頂くしかないと思っています」


 レントがソロン王太子を話に出した事に、リリは「えっ?」と驚く。


「公平公正なソロン王太子殿下ですよ?社交の場で、ミリ様だけを助けたりはなさらないでしょう?」


 レントは「そうですね」と肯いた。


「一方的にミリ様の味方をなさる事はないでしょう。しかしソロン王太子殿下はミリ様の能力を高く買っている筈なのです。もしミリ様がこの国に居辛いと思えば、他国に移住してしまうかも知れませんので、もちろん公平公正を崩さない範囲ででしょうけれど、ソロン王太子殿下はミリ様を気に掛けると思います」

「確かにソロン王太子殿下は優秀な人がお好きですから、ミリ様を気には()っているでしょうけれど」


 眉を少し(ひそ)めるリリに、レントは「はい」と肯く。


「そしてミリ様の隣にいるわたくしも、その恩恵にあずかれると考えています。ソロン王太子殿下にわたくしも、気に掛けて頂いている様に、(はた)からは見える筈ですから」


 レントの言葉にリリは、更に眉を顰めた。

 レントの話を裏返せばつまり、ミリへの攻撃をレントも受けると認めると言う事だ。


「その様に上手く行くでしょうか?」


 ミリにはコードナ侯爵家やコーハナル侯爵家などの後ろ盾もある。対してレントには、後ろ盾と呼べるものはない。ミリが狙われている筈なのに、レントばかりが攻撃を受ける可能性だってある。

 しかしレントは「もちろんです」と強く肯いてみせた。


「わたくしは最年少領主ですし、ミリ様は最年少参加者となるでしょう。もしかしたらわたくし達が参加すれば、サニン殿下も参加なさるかも知れませんけれど、それでも年少者への心配りとしての多少の優遇は、常識的な範囲で見逃して貰えるでしょう。そしてその為にはわたくしの隣には、ミリ様に立って頂く必要があるのです」


 確かに二人とも子供なら、何かと気に留めても貰えはするだろう。


「でもそれでしたら他の御令嬢でも」


 リリの言葉を「いいえ」とレントが遮った。


「ミリ様はピナ・コーハナル様に礼儀作法を仕込まれ、デドラ・コードナ様から教養を授かりました。お二人のネームバリューもありますが、領主達が集まる場で、ミリ様以上に社交を熟せる御令嬢は、今現在はいないのではありませんか?」


 そう言われてしまうと、リリは現在の令嬢達と面識がないので、反論が出来ない。


 レントはミリに、他の令嬢とミリを比較などしていないと言っていたけれど、実はやはりしっかりと比較をしていた。

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