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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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始められた説得

 宿に戻り、レントは叔母リリ・コーカデスの部屋を訪ねる。


「叔母上、お時間を頂けますか?」

「もちろんです、当主様」


 リリは護衛達も下がらせていて、部屋にはリリ一人だった。

 レントを室内に通すと、リリはテーブルに戻り、椅子に腰を降ろす。その所作には疲れが滲んでいた。


「プロポーズなど許しません」


 レントが扉を閉めると直ぐに、レントが座る間もなく、いきなりリリが主題に入る。

 レントの顔に苦笑いが浮かぶ。


「その前に、ミリ様の素晴らしさに付いて、叔母上に御理解頂きましょうか」

「当主様」

「はい。何でしょうか?叔母上?」

「ミリ様は当主様もミリ様を嫌悪していると言っていましたよね?」

「ええ。仰っていましたね」

「当主様の中の嫌悪をどうにかしない限り、ミリ様が当主様からの交際練習を受ける筈などないではありませんか」

「叔母上はわたくしの中に、ミリ様への生理的嫌悪が本当にあると思っているのですか?」

「それは、分かりませんけれど」

「少なくとも叔母上には、そうは見えないのですよね?」

「ええ」

「わたくしの中のミリ様への生理的嫌悪に付いては、わたくしもミリ様に言われるまで、その様なものがわたくしの中にあると考えた事もありませんでしたし、今でもわたくし自身は、ミリ様を尊敬していると思っています。それなので、その問題の確認や解決は後回しです」

「え?いえ、先に確認するべきでしょう?色々準備してからミリ様への嫌悪を自覚したら、準備に使った時間が無駄になるではありませんか?」

「叔母上。わたくしはコーカデスを侯爵領に戻したいのです」

「え?ええ」

「その為には、ミリ様に協力して頂く必要があるのです」

「それは、ミリ様が優秀だとわたくしも思いましたので、分かりますけれど、ですが、協力者がミリ様でなければならない訳ではありませんよね?」

「侯爵領に戻す事だけを考えるなら、叔母上の仰る通りです。しかし掛かる時間を考えると、ミリ様がどうしても必要なのです」

「それは、でも、例えばソロン王太子殿下を頼る事も、当主様には出来るではありませんか?」

「え?・・・わたくしがお目に掛かったソロン王太子殿下は、コーカデス領の為に何かをして下さる様なお方ではありませんでしたけれど?」

「え?でも、今回の脱税の件では、色々と相談に乗って頂いたのではありませんか?」

「はい。しかし今回の件は国全体に関わる問題でしたし、その中でコーカデス領はテストケースの扱いもされていましたので、そう言う意味での下準備をソロン王太子殿下と一緒に進めた認識でわたくしはいます。叔母上が御存知なソロン王太子殿下は、特定の領地を私心で優遇する様なお方なのですか?」

「それは、いいえ。ソロン王太子殿下は公平で公正な方でしたし、それはきっと今もそうだと思います」

「そうですよね。ですのでまた国全体に関わる問題が見付かれば、ソロン王太子殿下に報告や相談をする事はあるでしょうけれど、それまでは私的な交流などはしない積もりでわたくしはいるのです」

「でも、だからと言って、ミリ様ではなくても良いではありませんか」

「叔母上」

「え?ええ」

「わたくしは一刻も早く、コーカデスを侯爵領に戻したい。わたくしが領主の内に侯爵領とする事がわたくしの夢ではありますけれど、それが難しい場合でも、将来侯爵領に戻れる為の筋道を付けたいのです」

「え?ええ。それは分かります」

「その為にわたくしは、領政に全力を傾けたい。その為にわたくしは、縁談などに時間を割きたくない。それだからわたくしはミリ様と交際練習をする必要があるし、ミリ様にプロポーズをする必要もある。ミリ様との交際練習もプロポーズも、領政を円滑に進める為なのです」

「ですが、ミリ様と交際練習を行えば、当主様の時間が取られるではないですか。婚約が調ったらその(かた)とはまた、一から交際をするのですから、交際練習など無駄な時間でしかありません」

「その様な事はありません。ミリ様と交際練習をする事で、領政に掛ける時間は増えます」

「増える筈はないでしょう?ミリ様と交際練習をするのでしたら、王都と領地の往復だって、かなりの時間が取られるではありませんか」

「その往復の時間をミリ様との交際練習に使ったり、領政の相談に乗って頂くのに使ったり出来るではありませんか」

「え?ミリ様は王都ですし、当主様は領地が多いでしょうから、当主様は交際練習の為に、領地と王都を往復する事になるのではないのですか?」

「交際練習を始めたら、ミリ様にはコーカデス領に来て頂きますし、領主としての社交も必要ですから、ミリ様と王都にも来る積もりです」

「え?もしかして、社交をミリ様と行う積もりなのですか?」

「はい」

「それってもう、交際練習ではなくて、ただの交際ではありませんか」

「いいえ。以前に交際練習が流行った時にも、交際練習相手と社交の場に出る事は良くあった様です」

「いいえ、それは、独身者が出席する様なパーティに付いての筈です」

「調べましたが、そうでもありません。正式なパーティにも、パートナーとして交際練習相手と参加する事はありました」

「そう、なのかも知れませんが、当主様は今、領主としての社交と言いませんでしたか?」

「はい」

「それはつまり、王国主催のパーティなどではありませんか」

「はい」

「それにミリ様と参加する積もりなのですか?」

「わたくしが調べた範囲ですと、その様なパーティは男女同伴で参加する必要があるものばかりです」

「え、ええ。それはその通りです」

「通常は配偶者との参加で、婚約者との参加や恋人同伴の場合もあるそうですが」

「え?恋人と?」

「はい。昔の話の様ですけれど。そしてわたくしには配偶者も婚約者もいないのですから、ミリ様と交際練習をしているのでしたら、ミリ様に同伴をお願いするのが道理ではありませんか?」

「でも、他の方を頼む事も出来るではありませんか」

「お祖母様か叔母上に同伴して頂くのですか?」


 レントの問いに、リリは答えられなかった。


 その様なパーティでは、レントの祖母セリ・コーカデスと同世代の人々も、多く出席している筈だ。もちろんセリの知人も多いだろう。

 しかし縁の切れた家の人間が多いし、新たにコーカデス家に近付いて来る家があるなら、そこには下心がある筈だ。

 そもそも侯爵家から子爵家にまで落ちたコーカデス家は、社交界の笑い物になっている筈だ。その様なところにセリが参加しても、コーカデス家やコーカデス領の役に立つ様な社交が上手く出来るとは思えず、侮辱を受けて終わるだけになりそうだ。そして過去に社交を熟していたセリでもそうなのだから、社交らしい社交を経験していないリリがレントに同伴したなら、レントの足を引っ張る事しか出来ないかも知れない。


 そしてレントも、言葉に詰まったリリと同じ様な事を考えていた。

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