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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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言及

 レントの叔母リリ・コーカデスの言葉に、バルは反論できなかった。

 バルが言葉に詰まった様子を見て、ミリがリリに呼び掛ける。


「リリ殿?」

「はい。なんでしょうか?ミリ様?」

「リリ殿はプロポーズだけではなく、レント殿がわたくしに交際練習を申し込む事も反対なのですね?」


 リリはそれに付いて、自分の中でははっきりとは結論を出せていなかった。

 感情的には交際練習には反対だ。あり得ない。しかし、交際練習を断れば、ミリは一切コーカデス領に関わらなくなるかも知れない。領地の為には、ミリに協力して欲しい。だがさすがに、領地の再開発だけ助けて欲しいなどとの本音を口には出来ない。

 その躊躇いが、リリに断言を避けさせた。


「その、先程も申しました通り、わたくしはミリ様を素晴らしい(かた)だと思っております。しかし、レントと交際練習をして頂くのはあり得ないと思いますし、ミリ様にもよろしくない影響があると考えているのです」


 歯切れの悪いリリの言葉に、ミリは「そうですか」と言いながらも小首を傾げる。


「つまりは、反対なのですよね?」

「あの、はい。賛成は致しかねます」

「レント殿の祖父君、リート・コーカデス殿も、祖母君セリ・コーカデス殿も、父君スルト・コーカデス殿も、反対なさいますよね?」

「あの、はい」


 コーカデス家から離籍したスルトの名が挙げられて、リリはまた少し言い淀んだ。

 しかしミリは、リリが言い難そうにしているのは、別の理由だと考えて肯いた。そしてミリはレントに顔を向ける。


「レント殿」

「はい、ミリ様」

「御家族全員に反対されているのに、わたくしとの交際練習など、無理ではありませんか?」

「いいえ。その様な事はありません」

「それはレント殿が、コーカデス家の当主でありコーカデス子爵本人だから、と言う事ですか?」

「はい」


 レントはミリに強い目を向けて肯いた。

 ミリの眉尻と口角が僅かに下がる。


「コーカデス領を訪れた際に、わたくしはリート・コーカデス殿ともセリ・コーカデス殿ともスルト・コーカデス殿とも挨拶致しませんでした」


 ミリの言葉にレントの顎が少し下がる。


「リリ殿と言葉を交わしたのも、今日が初めてです」


 ミリは微笑みを作ってリリに向け、再びレントに顔を戻す。


「無理ではないかとは言いましたけれど、コーカデス邸を訪ねる事も出来ないわたくしとの交際練習など、実際には不可能ですよね?」

「いえ、しかし、あの時と違い、今はわたくしがコーカデス家の当主です。次の機会には、ミリ様を邸に招待させて頂きたいと考えています」

「そしてやはり、リート・コーカデス殿ともセリ・コーカデス殿ともスルト・コーカデス殿とも、顔は合わせられないのですよね?」

「それは、あの、いいえ。皆にもミリ様に挨拶させて頂きます」


 スルトの名にレントも言い淀む。スルトが離籍した事を隠す積もりはないけれど、この場で話題に出す事にはレントは躊躇った。伝えるのなら、話が一段落してからだ。

 しかしミリにはその様子が、レントに迷いがある様に受け取れた。


「当主権限でですか?」

「え?ええ」

「無理矢理にと言う事ですか?」

「あ、いえ」

「その様な場で、わたくしはどの様な顔をして、皆様に挨拶をすればよろしいのですか?」


 レントは直ぐには答えられず、替わりに唾を飲み込んだ。

 ミリは表情を消してレントを見詰める。


「わたくしも嫌な思いを致しますけれど、レント殿の御家族に嫌な思いをさせる事自体も、わたくしは嫌なのです」

「いえ、嫌などと、そんな」

「いいえ。嫌ですよね?リリ殿?」


 ミリに顔を向けられて、リリは慌てた。


「あの、わたくしは、ミリ様を嫌などとは思いません」

「そうですか?」

「それは先程も申し上げました通り、ミリ様との会話を通して、ミリ様の素晴らしさをわたくしは理解致しました。その事に付いては、ミリ様にも受け入れて頂けていると思っておりましたが、違いましたでしょうか?」

「リリ殿に好意を示して頂けた事は感じております」


 ミリの言葉にリリは「良かった」と呟いて、体の力を少し抜く。

 仲良くはなれない迄も、上位の人間を嫌っているなどと思われては、どんなトラブルが起こるか分からない。今のコーカデス家には後ろ盾がないのだ。レントの為にも、ミリを嫌ってはいないと伝わっている様子に、リリは安堵した。


「ですが、わたくしとレント殿が交流する事さえも、リリ殿は反対でしょう?」

「え?いえ、決してその様な事は」


 出来たらミリにはコーカデス領の発展に寄与して欲しいけれど、そう正直にはリリは言えない。


「それはソロン王太子殿下との三者での交流があるからですね?」

「え?あ、いえいえ、決してその様な訳では」

「いいえ。わたくしの出自の問題がある限り」

「ミリ!」

「ミリ!いけません!」


 バルとラーラに言葉を遮られ、ミリは二人に視線を向けた。


「ですがお父様、お母様」

「いいえ。その様な事をこの場に出しても、レント殿にもリリ殿にも迷惑になるわ」

「その通りだ。この場で話題にする事ではない」

「ですがお父様、お母様。今日の話が長引いているのは、偏にわたくしの出自を口にしていないからではありませんか?」

「その様な事はない」

「そうよ」


 ミリは「いいえ」と首を小さく左右に振る。


「口にしない、あるいは口に出来ないからこそ、話がわたくしの出自の回りで堂々巡りになるのです」

「そんな訳はないだろう?」


 バルは情けない表情をミリに向けた。

 一方でラーラは黙る。今日の会話を振り返ってみると、確かにミリの言う通りにもラーラには思えた。

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