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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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呼び方

「レント殿!なりません!」


 レントの叔母リリ・コーカデスは、手を伸ばしてレントの腕を押さえ、普段なら絶対に出さない大きさの声でそう言った。

 レントは腕を押さえたリリの手に、自分の手を重ねる。


「いいえ、叔母上」

「いいえレント殿!なりません!」


 リリはレントにもう一度強くそう言うと、レントの腕を放して立ち上がり、バル達に体を向けた。


「バル・コードナ様、ラーラ・コードナ様、ミリ・コードナ様。ただいまのレント・コーカデスの発言は後見人としてわたくしリリ・コーカデスが取り消しをさせて頂くと共に深く謝罪を致します。申し訳ございませんでした」


 リリが深く頭を下げる。その隣でレントも立ち上がった。


「いいえ、バル・コードナ様、ラーラ・コードナ様、ミリ・コードナ様。取り消しは致しません」


 リリが上半身を起こしてレントを向く。


「何を言っているのですレント殿!バル・コードナ様!ラーラ・コードナ様!ミリ・コードナ様!重ねて誠に申し訳ございません!」


 再びバル達に体を向けて深く頭を下げるリリの背に、レントは手のひらを当てた。


「いいえ、叔母上」

「いいえレント殿!」


 背中に当てられたレントの手を振り(ほど)く様に、リリはまた上半身を起こす。そのリリに向けて、レントは小さく静かに首を左右に振った。


「違うのです、叔母上」

「違いません」


 リリも首を左右に振り返すが、更にレントも振り返す。


「違うのです。バル・コードナ様にもラーラ・コードナ様にも、既にお伝えしているのです」

「・・・え?」


 もう一度驚きの表情を浮かべたリリは、視線をレントからバルに移した。


「まさか・・・バル・コードナ様もラーラ・コードナ様もミリ・コードナ様も、まさか既に承知していると言う事なのですか?」


 レントが「いいえ」と口を挟む。


「ミリ・コードナ様には今初めてお話させて頂いております。ですがバル・コードナ様とラーラ・コードナ様には先程、わたくしの考えと共にお伝えさせて頂きました」


 少しだけ首を傾げてレントを横目で見ていたリリは、レントの言葉に目を細めた。そしてリリは視線をバルに戻す。


「それをバル・コードナ様とラーラ・コードナ様はお許しになったのですか?」


 目を細め眉根を寄せるリリの視線を受けて、反射的にバルは目を伏せて、しかし直ぐに顔を上げてリリに返した。


「名前だけで良い。バルと呼んでくれ」


 名字を付けて三人の名前を言う方も大変だろうけれど、聞く方だって内容が頭に残り(づら)くなる。

 しかしリリは突然の話題転換に頭が付いて行かず、バルに応えられなかった。

 バルはリリからレントに顔を向ける。


「コーカデス卿もだ」

「あ、はい。ありがとうございます、バル様」


 レントは直ぐに頭を切り替えて、バルに応えて頭を下げた。そして体を起こしてレントは言葉を続ける。


「わたくしの事はレントで結構でございます」


 レントの隣でリリも、遅ればせながら頭を下げた。


「ありがとうございます、バル様。わたくしの事はリリとお呼び下さい」

「ああ、分かった。レント殿。リリ殿」

「それでバル様?」


 体を起こしたリリはまた、目を細めて眉根を寄せる。


「レントからのミリ・コードナ様へのプロポーズをお受けになったと言うのは、本当なのですか?」

「いいや、違うのだ、リリ殿」


 バルは手をリリに向けて、小さく左右に振った。それを受けてリリは小さく息を吐く。


「そうですよ、叔母上」


 レントに一旦顔を向けたリリは、直ぐにまたバルに顔を戻した。


「ですが、レントがミリ・コードナ様にプロポーズをすると」

「わたくしも先程お伝えした様に、ミリで結構です」


 ここでミリが口を挟む。


「その代わりにリリ殿と呼ばせて頂きます。コーカデス卿も、ミリと呼んで下さい」


 リリとレントの視線を受けて、ミリは微笑みを返した。

 ミリの機嫌は大分(だいぶ)直っていて、レントへの嫌悪感も下がっている。それなのでリリの序でにレントにも、ミリ呼びを改めて許した。


「はい、ありがとうございます、ミリ様」

「ありがとうございます、ミリ様。わたくしの事も以前の通り、レントとお呼び頂けますか?」

「ええ、分かりました、レント殿。それでリリ殿、レント殿」


 ミリはレントに肯いて、視線をリリに移して直ぐにレントに戻す。


「先程のレント殿の話の流れですと、わたくしが結婚をしないので、それを確定事項として、レント殿からわたくしにプロポーズをすると言うのですね?わたくしとなら、結婚しないで済むので」

「はい。バル様とラーラ・コードナ様に」

「私もラーラで良いですよ」


 ラーラも口を挟んだ。


「ありがとうございます、ラーラ様。わたくしも是非レントとお呼び下さい」

「ええ、分かりました、レント殿」


 頭を下げたレントに、ラーラは軽く肯く。レントは頭を上げると、視線をラーラからミリに戻した。


「はい。それですのでバル様とラーラ様に、他家からのわたくしへの縁談を回避する為に、交際練習をさせて頂いた上で、ミリ様にプロポーズをさせて下さいとお願いしたのです」

「その様な事をなさってはなりません」


 レントの言葉に、ミリが返すより早くリリが否定する。

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