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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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交際練習を申し込む許可

「ミリ様との交際練習ではなく、ミリ様に交際練習を申し込む権利を与えて頂けないでしょうか?」

「権利?」


 レントの申し出にラーラは小首を傾げた。バルは訝しげな表情を浮かべる。


「あるいは許可の方が正しいでしょうか?」

「許可?申し込む許可とは?」

「コーカデス卿がミリに交際練習を申し込んでも良いと言う許可よね?」

「交際練習の許可ではなく?」


 ミリへの交際練習を申し込む許可をレントに与えると言う事は、詰まりはバルとラーラがミリとレントの交際練習を許可した事になるのだろうとラーラは思った。

 しかしそこを口にしてしまうと、バルは反対するだろう。

 ラーラはミリには交際練習をさせても良いと思う様になっていたし、させたいとも思い始めていた。その相手としては、確かにレントは有望だ。

 それなのでラーラは、ミリに交際練習を申し込む許可をバルからレントに与えさせたいと思っていた。


「コーカデス卿との交際練習を許可したら、ミリはバルから命令されたと思うわよ?そう言う事よね?コーカデス卿?」


 ラーラとしてはレントは有望だけれど、ミリがレントとの交際練習を断っても良い。ここでバルが交際練習を申し込む許可をレントに与えたなら、レント以外でも交際練習を申し込む許可を与え易くなる。

 それに、バルとラーラが交際練習には反対しないと言う事が、ミリには正しく伝わるだろう。そこがラーラの一番の狙いだった。


「はい。ラーラ様の仰る通りです」


 ラーラが援護をしてくれたので、レントは交際練習をもう一押しするのではなく、交際練習を申し込む許可と言う事に少し引いておいたのは正解だったのだと喜ぶ。

 その喜びでレントの顔から笑みが零れたけれど、レントは直ぐに取り繕って、真面目な表情を作った。


「いかがでしょうか?」

「どう?バル?これならミリに自分で選択をさせられるのではない?」

「・・・そうだな。ミリが受け入れない限りは、コーカデス卿とは交際練習をしないと言う事だな?」

「はい。もちろんです」

「だがそうすると、コーカデス卿はミリに直接、交際練習を迫ると言う事だろう?」

「はい」

「ミリに取っては断ってもまた申し込まれたりするのなら、余計に時間を使われて、迷惑になるではないか」


 バルは何とか抵抗を試みる。それはミリの交際練習も、レントがその相手になる事も、許してしまいそうになって来ていた自分の気持ちに対しての抵抗でもあった。


「ミリ自身が断れば、コーカデス卿は諦めるわよね?」


 ミリはバルの気持ちの揺れを読んで、更にレントを援護する。

 しかしレントの答えは「いいえ」だった。


「わたくしは断られても、諦めない積もりです」

「え?諦めないの?」

「もちろんです。わたくしに取って、ミリ様以上のお相手はいません」


 諦めないとの言葉に少し機嫌を悪くしたバルが、ミリ以上はいないと言われて直ぐに機嫌を良くする。

 今のバルは、今日はずっと気持ちをゆらゆらの揺らしていたので、かなりチョロくなっている。


「もちろんわたくしがやり過ぎだと、バル・コードナ様やラーラ様に指摘を受ける様でしたら、善処致します」

「指摘されない限り、好きにすると言う事か?」


 バルはミリの危機を思って、険しい表情をレントに向けた。


「好きに、と言われましたらその通りではありますけれど」

「なに?」

「ですがわたくしの行動が認められない時には、わたくしがミリ様に交際練習を申し込む許可を取り消して頂ければよろしいのです」

「そうなれば諦めるのね?」

「いいえ。バル・コードナ様とラーラ様に、再び許可して頂ける様に努力致します」

「諦めないと言うの?」

「もちろんです」


 バルもラーラも呆れた。

 今のレントにはバルとラーラの決定を覆せる様な権力はない。それなので、バルとラーラが一度拒否した事柄を二人に受け入れさせるのは、かなりの難問の筈なのだ。

 レントがそれを分かっていないとは、バルにもラーラにも思えなかった。


「ですがわたくしも、ミリ様に嫌われたい訳ではございません」


 そう言いながらレントは、結果として嫌われても仕方はないと考える。

 レントはミリの逃げ道をなくしたい。その課程でミリから嫌悪される事になるかも知れない。

 でも、それでも、レントはミリに逃げない生き方をさせたかった。ただしそれはミリの為と言うよりは、レントがミリに腹を立てているからだ。


「わたくしはこれまでも、良識を持ってミリ様に接して参りました」


 バルとラーラに真剣な表情を向けてそう言うレントは心の中で、不幸がっていれば楽に生きられると思ったら大間違いです、とミリに対して思っているし、ミリに全力を出させてみせようとも思っている。


「それですのでミリ様への交際練習の申し込みも、誠意を持って当たりたいと考えておりますし、申し込みの段階からでも先程ラーラ様が仰った様に良識を持って落ち着いて、ミリ様へのアプローチに努めて行きたいと思っております」


 そして、それはもちろんコーカデス領の為です、とレントは自分自身の考えに、心の中で付け足していた。


「ミリ以上の相手がいないと言うのは、ミリが領地経営に役立つからか?」


 ミリを褒める言葉をもう少し聞きたかったバルは、この部分を掘り下げようとする。


「もちろんそれは大きなポイントではありますが、先程サニン殿下との話の時に申しました通り、ミリ様とわたくしは、同じ様な教育を受けて来たのだと感じています。その為か、物事へのアプローチや取り組み方が、ミリ様とわたくしは近いとわたくしは思っております」

「もしコーカデス卿の言う通り、コーカデス卿とミリが同じ様な考え方をするのなら、交際練習をしてもお互いに得るものはないのではないか?」

「いいえ、その様な事はございません。考え方が似ているからこそ、その差が際立ち、お互いへの理解が深まるのです」

「それなら全く違う者同士の方が、例えばミリとサニン殿下の側近候補達との方が、ミリに取っては更に差が際立つではないか」

「いいえ。その差は人間性の差ではなく、立場の差です。例えば、喩えは悪いですが、人間と馬はかなり差があります」


 バルはミリが馬に喩えられたのかと、ムッとする。


「人馬の間にも交流は成り立ちますが、それが人の生き方にどれ程役に立つのかと言いますと、どうしても補助的な、限定的な意味合いにしかなり得ず、なくても代わりの効くものにしかならないと思います」

「それは、人に拠る」

「ええ、もちろん仰る通りです。もちろんサニン殿下の傍に仕える方達と、ミリ様が交流を持つ事が全くの無駄だとはわたくしも思いません。しかし、ミリ様に取っての優先順位は低いと、わたくしは考えます。それはわたくしとの交際練習を通して、ミリ様にも御自分自身への理解を深めて頂いてから、その後に余裕があったらなさるのでも良いと、わたくしは考えます」


 自分がミリを選ぶ理由を問われていた筈なのに、レントはいつの間にかミリのメリットを答えていた。

 だがそれは意識してではなくて、レントも自分がつい無意識にミリに取っての利点を考えてしまっている事に、また少し腹を立てていた。


「自分自身への理解を深める?」


 バルが小首を傾げるので、レントは不思議に思った。


「はい」

「相手を理解する事を言っていたのではないのか?」

「相手を理解する事は、自分を寄り深く理解する事に繋がるのではありませんか?」


 レントの感覚としてはそうだった。バルとラーラは違うのかと、レントは不安になる。


「バル・コードナ様とラーラ様が交際練習をなさった時、御自分自身への理解が深まりませんでしたか?」


 バルとラーラは顔を見合わせた。


「言われてみればそうかも?」


 ラーラはレントの意見を援護する。


「だが、俺とラーラは考え方も何も、かなり違った筈だが?」


 バルも、ラーラと交際練習を始めてから、自分の事で改めて理解出来た部分があった事は否定しない。


「それはお二人が、お互いに気持ちを寄せ合っていたからなのではありませんか?」


 レントが苦し紛れに適当な事を言った。

 しかしバルもラーラも、もちろんそれを否定はできない。その様子をレントは見逃さなかった。


「ですがそうではない人間同士でしたら、やはり考え方などが似ている相手との交流こそが、自分自身を見つめ直す切っ掛けになる筈ですし、差異が際立つ事で自分自身を理解する助けになる筈です」


 レントは自分の言いたい事を繰り返す。

 今の苦し紛れの言葉も、ここまでの様々な発言も、レントはかなり場当たり的に口にして来ていた。

 しかし同じ様な言葉を何度も繰り返すうちに、自分が言いたい事がバルとラーラに伝わっている様な手応えを感じ、自分の考えが掘り下げられる事が出来ている気になって来ている。


 レントは、自分は議論を通す事で、自分の考えを掘り起こせるタイプの人間なのでしょうか?と思い至り、心の中でこの時間を与えてくれたバルとラーラに感謝をしてた。

 レントは少し、議論ハイになって来ていた。

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