52 したい、出来ない、大嫌い
ラーラが答え倦ねていると、ラーラの祖母フェリが別の質問を重ねる。
「ラーラ。コードナ侯爵家とウチが認めたら、バル様と結婚するんだね?」
「それは、そうなったら考える」
「ハッキリしないね。ハイかイイエで答えな。結婚するんだね?」
「考えるって言ってるでしょう!」
「ウチはともかく、コードナ侯爵家が認めたら逃げらんないよ」
「認めて頂ける訳ないじゃない」
「ラーラ。この場でラーラがバル様と結婚出来ないって言ってるのはお前だけだよ」
「え?」
「ユーレもヤールも反対してるけど、結婚出来ないとは言ってない」
「いや祖母ちゃん。俺は出来ないと思ってるぜ?」
「混ぜっ返すんじゃないよ。結婚出来ないなら反対する必要ないじゃないか。出来ると思ってっから反対してんだろう?」
「あれ?いや」
「ヤール、ちょっと黙ってな。ラーラの将来が掛かってんだ。ラーラに決めさせる。ユーレも口出しすんじゃないよ」
そう言ってラーラの三兄ヤールとラーラの母ユーレを一睨みして、フェリはラーラに視線を戻した。
「ラーラ。バル様と結婚したくないんだね?」
ラーラは口を小さく開け閉めして言い淀む。この期に及んでまだ、自分の口から言う事が出来なかった。
「結婚したいならしたいと言いな。まどろっこしい」
「出来ないって言ってるでしょう?」
「なんでだい?ラーラが純潔じゃないのだってバル様は問題にしてない。子供だって一緒に育てると言ってる。平民になっても構わないとも言った」
「私はバル様の子供は産めないのよ?」
「子供のいない夫婦もいるよ」
「出来ないんじゃなくて作れないんだってば!」
「作れない事を承知で結婚する夫婦もいる。結婚したいならしたいと言いな。ほら?」
「結婚したいって言ったら、結婚させてくれるの?」
「甘ったれんじゃないよ。したいんなら自分で何とかするんだ」
「自分でなんて何も出来ないから出来ないって言ってんのよ!」
「したいんならまず頭を下げな。結婚させて下さいって。そしたら手助けするか考えてやる。ワールは助けるみたいだし、ヤールだってラーラが真剣に頼めば力になんだろう。それをしもしないで、出来ない出来ないって、みっともないったらないよ」
ラーラは言い返せず、ただフェリを睨んだ。
「誘拐されたのも何人もの男に抱かれたのもラーラの所為じゃない。だからみんな多目に見てんだよ。でも今ぐだぐだ言って、大切なものを手放そうとしてんのはお前自身だ。お前の所為だ、ラーラ。お前はバル様からも奪おうとしてんだよ?頭を下げんのがイヤだからって、バル様の未来も捨てようとしてんだ!分かってんのかい?!この馬鹿ラーラ!」
ラーラはフェリから視線を外し、バルを睨んだ。
「バルさんとは結婚したくありません!」
「嘘だ。さっきは俺の妻になりたいって言ってくれたじゃないか」
「だから結婚出来ないって言ってるでしょ!この頑固者!バルなんて嫌い!」
「それも嘘だ!さっきは好きだと言ってくれたじゃないか!」
直ぐ傍でバルが大声を上げたのに、ラーラは怯まなかった。
「人としては好きだと言ったんです!男としては嫌い!大嫌い!」
「男として見なくて良いって!結婚ではなくて同居でも良いって言ったじゃないか!」
「私だって!バルは貴族として子供を残さなくちゃダメって、私だって言ったじゃない!」
「誰と作れと言うんだ!俺がラーラ以外にそんな気になれる訳ないだろう!」
「私はバルとだって無理だって言ってんの!何回言わせんのよ!バルのばか!」
「分かっている!だからラーラに触れないって言ってるだろう!俺は自分がラーラ馬鹿だって分かってるって!」
「分かってない!この分からず屋!ばかバル!バルなんて大っ嫌い!」
「嫌いでも良い」
バルのテンションが急に下がった。
「嫌いでも大嫌いでもいいから、ラーラの傍に居させてくれ。この通りだ」
バルは体をラーラに向けて、片膝を突いて頭を下げた。
「バル」
バルの雰囲気に釣られて、ラーラもテンションを下げる。
「ダメだってば」
「ああ。馬鹿な俺はラーラがいないとダメなんだ」
「違うよ。私がダメなんだよ」
「どうしたらラーラを幸せに出来るのか、俺は馬鹿だから考え付かない」
「だってそれは、私が二人を殺したから」
パノは悲鳴を何とか堪えた。
血塗れの誘拐犯の前に剣を持って立つラーラの姿が、パノの脳裏に浮かぶ。
「ラーラを幸せに出来ない俺だけれど、俺と一緒で良かったって思って貰える様に努力する」
「バル」
「男として大っ嫌いで良い。人としても嫌いで良い」
「いえ、さっきのは違うの」
「いいや。俺はラーラを傷付けるのが分かっているのに、ラーラの傍から離れられないんだ。嫌われるのは覚悟している」
「そんな事ない」
「ラーラ。実は今日ラーラに会えるって思って、俺は喜んだんだ。こんな状況なのに喜んだりして、人としてダメダメなんだ」
「そんな事ないってば」
「今日はたくさんラーラを傷付ける事を言ったけれど、実はその度に喜びを感じるんだ。ラーラを傷付けられる近さにいる事が実感できて、嬉しいんだ」
バルのこの発言に、参加者の大半が引いた。
「ラーラを隠して、他の誰にもラーラを傷付けさせたくない。ラーラを閉じ込めて、俺だけがラーラを傷付けたい」
これには全員が引いた。ただしラーラ以外。
ラーラは頬を上気させ、目を潤ませた。
バルと二人きりの世界の妄想が、ラーラの心に再び浮かぶ。
「ラーラ。愛している。お願いだ。もう何処にも行かないでくれ。俺の傍にいてくれ。絶対に触れない。そう言う傷付け方はしない。俺だけに愛されてくれ。大嫌いで良い。愛している。何処にも行かせない。ラーラ。一生ラーラだけを見詰めさせてくれ」
バルの言葉は何人かに鳥肌を立たせ、何人かには大いに呆れられた。




