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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ミリのメリットの行方

 バルは理屈と拒否を以て、レントを押し切ろうとした。


「交際は結婚の為、結婚後の夫婦関係を良好にする為に行うものだ。交際練習で得られる経験が素晴らしくても、その前提条件がミリには不要なものだ」


 レントはバルを見詰めたまま、言葉を返す。


「ミリ・コードナ様には結婚をさせないので、たとえそれが素晴らしい経験を与えるとしても、ミリ・コードナ様には交際練習をさせないと言う事ですね?」

「そうだ。そう言っている」

「確かにそうですね」


 レントが同意を示してしまい、あれ?とバルは首を傾げそうになった。理屈を提示して、それに対してレントに反論させる事をバルは狙っている。レントにどれだけ反論されても、ミリを結婚させる事にはならないから、そこを足場とすれば拒否出来るからだ。しかし同意されたらバルは、理屈と拒否でレントを押し返せない。


「少しだけ話を聞いた事があるだけのわたくしが考えるより、実際に交際練習で素晴らしい経験をなさっているバル・コードナ様とラーラ・コードナ様が、ミリ・コードナ様に不要だと仰るのでしたらその通りなのでしょう」


 バルもラーラもレントの言葉を否定したくなる。そうじゃない。

 しかしラーラは、これがレントの話の組み立てで、次に何かを言うのだろうと考えて、言葉を挟まなかった。

 バルはレントの言い回しが気に障って、少しそちらに注意を取られ、反論を組み立てるのが遅れた。

 それなので、レントはそのまま言葉を繋げる。


「ですがわたくしは、交際練習でしか得られない類いの特定種類の経験ではなく、もっと汎用的な経験がミリ・コードナ様には必要なのではないかと思っているのです」

「汎用的?」

「はい。交際練習を通す事で効率良く経験できるのではないかとは思いますが、他の事でも構いません」

「それはどう言う事を言っているのだ?」

「はい。例えばミリ・コードナ様は投資を既になさっていますが、投資はあくまでも利益の授受、つまり金銭がインターフェイスになります。投資の成否ではミリ・コードナ様の経験には余りならないと思いますし、投資の成否は既に経験なさっていらっしゃるので、このまま投資を続けても、ミリ・コードナ様の経験の蓄積にはなり難いのではないでしょうか?」

「いや、それはつまりどう言う意味なのだ?」

「はい。ミリ・コードナ様が投資に時間を掛けても、掛けた時間だけの経験を得られないと」

「いや、それは分かった。それは分かっているのだ。そうではなく、もっと汎用的な経験とは何の事なのだ?」


 レントは汎用的な経験と言っているが、バルには具体的な内容がある様に聞こえていた。

 ラーラはレントが「はい」と肯定して話し始める時には、話がこちらの思惑とずれると気付く。それなのでレントの話を広く受け止めて、芯が振れない様に注意していた。


 レントはバルを真っ直ぐに見た。


「失敗です」


 そのレントの表情と語調に、バルは僅かに怯む。


「周囲の方々の言う通りにして来た事で、ミリ・コードナ様は失敗した経験がないのではありませんか?」

「いや、そんな筈は・・・」

「・・・その様な筈は?」

「いや・・・ない筈だ」

「・・・ない、と仰るのは、失敗した事などない、ではなくて、わたくしが言った事が当たってはいない、と言う意味でしょうか?」

「・・・ああ」

「・・・そうですか。それは失礼致しました」


 そう言ってレントは頭を下げた。

 バルは「いや」と返したけれど、その後に言う事が見付けられず、言葉が続けられなかった。

 ラーラは、別に失礼じゃないんじゃない?と思って、レントが次に何を言うのかを待った。


「わたくしは勘違いをしていた模様です」


 そう言ってレントは頭を上げた。しかしその顔は詫びていると言うよりは、頭を下げる前と同じままのバルとラーラに訴えたい事がある様な、真剣な表情だった。


「わたくしとの交際練習で、ミリ・コードナ様にもメリットがあると申し上げましたのは誤りでした」

「え?」

「いや」

「お二人の貴重なお時間を無駄にしてしまい、申し訳ございませんでした」


 レントは深々と頭を下げた。

 バルはレントに向けて手を伸ばし掛けたが、言葉は出ない。

 ラーラはバルの様子を見て、それは確かにミリが失敗した事がないなんて、親としては第三者に向かって公言し難いから仕方ないわよね、と思って小さく息を吐いた。


「コーカデス卿」


 呼び掛けに頭を上げて、レントはラーラに視線を向ける。


「何でしょうか?ラーラ・コードナ様」

「今はラーラで良いわよ。リリ・コーカデス殿もいないし」


 レントはバルとラーラから言葉があるなら、それを足掛かりに更に踏み込む積もりだった。ただしその先は、踏み込み過ぎだと非難を受けるかも知れないと、覚悟をしていた。

 そして話がここで終わるなら、今後もミリに関わる時にはバルとラーラへの説得が付いて回って時間ばかり取られる事になるであろうから、ミリとは別の伝手、例えばソロン王太子を頼る事を軸にしてコーカデス領の再建を目指そうと心に決めていた。

 そもそも話を進めている内に何故か、コーカデス領の将来の為ではなくて、ミリの事を思っての発言になって来てしまっている様に思える事が、レントには問題だった。

 それなので気持ちを切り替えて、コーカデス領の将来の分岐点だと思ってバルとラーラの出方に集中していたレントは、ラーラの口調と態度と言葉の内容に肩透かしをされる事になる。

 緊張で上がっていた肩がスッと落ちて、溜め息ともつかない「はあ」との声がレントの口から零れた。


 バルは、ラーラが名前だけで呼んで良いとレントに告げた事にモヤッとする。

 けれどそれよりは、この場での呼び掛けを変えさせたと言う事は話を続けると言う事だから、ここからレントに対して巻き返す作戦がラーラにはあるのだろうと考えて、少し肩の力を抜いたけれど、「ふう」との声が思わぬ大きさでバルの口から漏れた。


「それでコーカデス卿?ミリが失敗していなかったらどうなの?」


 ラーラはかなりレントが気に入って来ている。そしてそれと同時にラーラは、レントへの対応を身に着けつつもあった。

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