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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ミリへの評価

 応接室を出たミリは、レントの叔母リリをまずは客室に案内する。


「リリ・コーカデス殿」

「はい、ミリ・コードナ様」

「しばしの間、こちらでお待ち頂けますか?」

「あ、はい。畏まりました」


 客室に見せたい調度品があるのかと思っていたリリは、ミリへの返事が遅れた。


「馬車に何か取りに行かせますか?」

「いいえ、大丈夫です」

「そうですか。何かありましたら、メイドに申し付けて下さい。扉に控えさせます」

「分かりました」


 メイド2人がリリに頭を下げる。


「それでは、お寛ぎ下さい」


 そう言って退室するミリに続いて、メイドも姿を隠した。

 客室内にはリリ1人が残される。


 客室の窓の横にはドアがあり、テラスに出られる。テラスにはテーブルと椅子が置かれ、庭を眺める事が出来た。

 室内のサイドテーブルの上にはグラスとピッチャーが置かれ、ピッチャーには氷が浮いていた。香りから柑橘水である事が分かる。


 リリは椅子に腰を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。



 メイドからミリの来室を告げられた時、リリはかなりリフレッシュ出来ていた。疲れは取れ切れてはいなかったけれど、それでも気持ちは軽くなっている。それはリリが王都でなすべき事を全て済ませたからでもあるけれど、客室で一人になる事で気を緩める事が出来た事が大きかった。


「お待たせ致しました」


 軽く頭を下げるミリに、リリは腰を折る。


「いいえ。お気遣い頂きありがとうごさいました」


 顔を上げて微笑むリリの表情を見て、ミリも微笑みを返した。

 そしてミリは直ぐに表情を消す。


「母からは調度品か庭を案内させて頂く様に申し付かりましたけれど、先程の応接室やこの客室を御覧頂ければお分かり頂けます様に、居室も含めて我が家には由緒のある家具などはございません」

「そうなのですか?」


 ミリに言われてリリは室内を見渡す。


「どれも素晴らしい物かと思いますが」

「いずれも世に名の知れた職人の作ではございません。美術品なども、まだ名の広まっていない作家の作になります」

「そうなのですね」

「はい。ですので説明させて頂けるのも、材質ですとか技法ですとかが中心となります。それにもしお取り寄せを御希望でしたら、紹介させて頂く事も可能です」


 ミリの言葉に商売っ気を感じて、リリの少しだけ目を細めた。


「ただしどの品も、作り手が有名になるとしたらまだ何年か掛かると思われますので、お求め頂くとしてもそのお積もりでいらっしゃって頂きたいとは思います」


 商売っ気の後に正直さを感じたリリは、ふと冷静になって、これがミリの手なのかと考える。

 泊まる訳ではないのに、少しの休憩の為に居心地の良い客室を使わせて、こちらの警戒を緩めさせて。その上で、商売の利益に影響する様な情報を提示して見せて。


「もしお時間がございましたら後日、王都にある工房でしたら御案内する事も可能です」

「そうですか。調度品はソウサ商会の工房で作られているのですね?」


 やはり商人の娘なのかとリリはミリに思う。でも、何かを売り付けたいのなら、もう少し自分に好意と信頼を持たせてからではないと貴族相手には商売が出来ない、と思ったところでリリは、ソウサ商会はほとんど貴族家とは取引がない事を思い出した。


「いいえ。ソウサ商会は馬車工房は持っておりますが、それ以外の調度品や美術品などの工房は所有してはおりません。そしてソウサ商会は、我が家にある調度品を作ったいずれの工房とも、作品の取引をしてはおりません」

「え?そうなのですか?」

「はい」

「それは、何故なのでしょう?」

「ソウサ商会の商品は日用品がメインですし、業態は行商が中心です。行商に家具や絵を持って行っても売れません。食器くらいですけれど、ソウサ商会のお客様は庶民主体ですので、使ったり洗ったりに気を使う様なグラスではなく、長年使い続けられる様なお皿などが商品となります。ソウサ商会の馬車工房も、行商で使用する荷馬車の製造と保守用ですし」

「そうなのですね」

「はい。配送にはソウサ商会を利用しますが。ですのでもし御購入頂くのでしたら、各工房と直接遣り取りをして頂くか、あるいはわたくしに御依頼頂ければ、ミリ商会として対応する事も可能です」

「そうなのですね」


 リリはミリの考えが分からなくなった。売りたいのか売りたくないのか、どちらでもないのか。


「ですが、コーカデス家は古くからのお家柄。わたくしが紹介させて頂ける工房よりは、馴染みのある商会からお取り寄せになるのでしょう」


 コーカデス家では調度品に関しては、王都にある馴染みだった商会とはすっかり縁が切れてしまっているし、コーカデス領にある馴染みの商会ともすっかり取引が減っていた。ミリがその事を突いて来たのかと考えて、リリは警戒する。


「新規の工房の品を扱うにしても、そちらを通して頂いた方が、邸内の雰囲気や皆様の好みに合った物を取り寄せられると思いますので、リリ・コーカデス殿にではなく、そちらに工房を紹介するのでも構いません」

「え?その場合はミリ商会もソウサ商会も、取り引きに関わらないと言う事ですか?」

「はい」


 特に表情を見せずに肯くミリの狙いが読めない事に、リリはモヤッとする。


「ですが配送等の手配でわたくしが手伝える様でしたら、お声を掛けて頂ければと思います」

「そうですね」

「その際にはコーカデス卿を通して頂かなくても、わたくしに直接でも構いませんので、御連絡下さい」

「分かりました。ありがとうございます」


 リリは取り敢えずミリに頭を下げるが、釈然とはしなかった。


「それでは、リリ・コーカデス殿の気になる品がありましたら、先程の応接室の物でも廊下の物でも構いませんので説明致しますけれど、どうなさいますか?」

「そうですね」

「居室も御覧になりますか?」


 リリの戸惑いを態度と語調から感じたミリは、リリが実はそれ程調度品には興味がないのかも知れないと考えた。なにせどの品も、由緒も謂れもない。


「それとも庭を案内致しましょうか?」

「そうですね」


 家具の材質を説明して貰ってもリリは余り嬉しくないし、そもそもコーカデス家には新しい家具や絵画などを求められるだけの金銭的余裕はない。


「お庭を見せて頂けますか?」

「分かりました。珍しい物はございませんが、花が見頃の物はございます。そちらのテラスから庭に出られますので、どうぞ」


 そう言うとミリは手を差し出す。リリはその手に指先を預けた。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「はい」


 軽く頭を下げたリリを見上げて、ミリは微笑みを向ける。

 これまでのミリの様子と今の表情から、もしかしたらミリへの評価を間違えていたかも知れないとリリは思った。

 ミリへの評価で正しかったのは、負けず嫌いの事だけの様な気がリリにはして来ていた。

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