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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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バルとラーラの反発

 レントとミリの交際練習をレントに申し込まれ、バルは意味が分からなかった。

 そのバルに一言「ダメだ!」と断られたレントは、バルに対して小さく肯いて返した。


「本日わたくしから申し込んで、本日バル・コードナ様とラーラ・コードナ様にお許し頂けるとは思っておりません」

「当たり前だ!コーカデス卿は一体何を狙っているのだ?!」


 バルの言葉にレントの叔母リリは思わず小さく肯いた。リリにもレントの狙いが読めない。


「狙っているもいないも、ミリ・コードナ様と交際練習をさせて頂く事が狙いではありますけれど」

「ミリと交際練習をする事で、コーカデス領への投資を狙っているのではないのか?」

「わたくしがミリ・コードナ様との交際練習を始められたとしても、御両親が許さない限り、ミリ・コードナ様がコーカデス領への投資をなさる事はないのではございませんか?」

「それは、そうかも知れないが」

「もちろんミリ・コードナ様に、コーカデス領への投資や領地経営の相談に乗って頂けるのでしたら、わたくしとしてはとてもありがたい事ですし嬉しいのですけれど、バル・コードナ様かラーラ・コードナ様か、あるいは他の御親族の方々(かたがた)に反対をされれば、ミリ・コードナ様にそうなさっては頂けないであろう事は、先程までにさせて頂いた質問への御回答でも分かっております」

「それは、そうだが」

「それに普通でしたら、投資の依頼より交際練習の申し込みの方が、応諾しては貰い難いのではないでしょうか?」

「それは、そうかも知れないが」

「いいえ、バル」


 バルがレントに丸め込まれそうになっていると感じたラーラが口を挟む。


「私達は自分達の交際練習しか知らないけれど、他では複数のお相手と交際練習をしていた方も貴族の中にはいた筈だわ」

「それはそうだったな」

「ええ。私の感覚では、お試しで始められる交際練習より、損得をしっかりと計算する投資の方が、断られる事が多いと思う」

「それもそうか」


 ラーラの言葉に肯くバルを見てレントは、やはりバルを肯かせるにはラーラに納得して貰う必要があると思った。


「ラーラ・コードナ様が仰るのは、ある意味では真実であるとわたくしも思います」


 レントはラーラに顔を向け、ラーラもレントを向いて視線が交わると、レントは小さく肯いた。


「しかしそれは投資の(ほう)の問題であり、投資の募集の内容に不備があるからではございませんか?あるいは作為があったりなどですね」

「そうではなくても、投資話を断る事はあります」

「しっかりとした計画の下に進められた投資は、不利益を出す事はないのではありませんか?」

「その様な事はありません」

「それは計画に不備があった場合なのでは?」

「いいえ。どの様な投資案件でも災害に遭えば、予定外の支出が必要となる上に予定の収入は得られず、利益も目減りしたり赤字になったりします」

「しかし相手が天災では防ぎようがありません。人災でしたら対処のしようもありますけれど、天災への備えはいくら行っても充分とはなりませんから、防災に資金を投入しすぎれば、災害が起こらなかった時でも利益は目減りします」

「その様な事は分かっています」

「そして災害が起こった時の損害を減らす為に、一カ所ではなくて複数箇所に分散して投資するのではありませんか?」

「それはもちろんそうですけれど」

「その分散箇所の一つとしてでしたら、断られる事は少ないと考えます。わたくしもミリ・コードナ様に投資して頂く事が無理でも、それならば他に話を持っていけば良いのです。そもそもわたくしがミリ・コードナ様にお願い申し上げたのは、投資して頂く事ではなくて、投資して下さる方の御紹介頂く事です」

「それは、そうでしたね」

「はい。一方で交際練習は、お相手がどなたでも良い訳ではございません。交際練習から婚約に進む事が多いのは、ラーラ・コードナ様もバル・コードナ様も御存知の事と思います。そうなりますと、家格の見合った(かた)同士の場合ですと、婚約まで進んでも構わないお相手が前提となります」

「ええ。それはつまり、交際練習の申込みが断られ易いと言う事ではありませんか?」

「いいえ、ラーラ・コードナ様。家格が合うですとか、派閥が問題ないと言うのは、申し込む側の家から見てそうであるなら、受ける側の家から見てもそうなのです。それなので婚約する事になっても良いと両家では考えていて、その上で本人達の相性が良ければ婚約に結び付いたりするのです」


 レントの言葉を受けて、ラーラはバルを振り向く。


「そうなの?」

「いや、どうだろう?」

「違うの?」

「いや、違うのかどうか、分からない。誰と誰が交際練習をしていたのか、ほとんど知らないのだ」

「お義兄(にい)様達は交際練習せずに婚約なさっていたものね」

「ああ。ソロン王太子殿下の婚約を待ってはいたけれど、前々から内々の約束はあったからな」


 バルとラーラ自身には、他の人達の交際練習を見ている余裕はなかった。二人が知っているのは、後から聞いたパノの話くらいだ。バルもラーラも交際練習が楽しくて、そしていつか終わると思っていたから、自分達の事だけに全力を傾けていた。それにラーラが誘拐された後には、他を顧みる余裕なんて僅かにもなかった。

 しかしリリがいる前でその事を口に出す事は、二人には憚れた。


 ラーラは「でも」とレントに顔を向ける。


「交際練習って、家格が合う方同士だけではありませんよね?そうすると、上位の家から下位の家への申込みは、断る事が出来ないのではありませんか?」

「それは投資も同じです。上位家からの投資話は、下位家には断り難いものです。しかしゴリ押しされるのなら、その裏には何らかの理由があります。その理由が掴めれば、断る口実に繋げられるのは投資も交際練習も同じです」

「その理由を見つけ出すのは、大変なのではないのかしら?」

「確かに交際練習では、上位家からの申込みを断るケースは少なかった様です。しかしそれは、その様な申込みが下位家にもメリットがあったからです」

「婚約や結婚に結び付かない交際練習で、経験を積む事が出来ると言う事ね?」

「はい。それに上位家の相手との付き合いを通して、他の上位家との交流が行えるメリットもありますし」


 ラーラはここまでの話で納得しそうになり、しかし踏み(とど)まった。

 ここで納得しては、ミリとレントの交際練習を認める事になりかねない。


「なるほど。するとやはりコーカデス卿は、ミリを利用する為に、交際練習を申し込むと言うのね?」


 ラーラの問いにレントは微笑んだ。その微笑みにラーラは自分が何かを失敗したのかと考える。

 レントはただ、ラーラが「ミリを利用」と言った言葉に、ミリが心配なのだなと思っていただけだった。コーカデス領の景気が良くなる為とか、コードナ侯爵家やコーハナル侯爵家との関係が改善する為とかはラーラに取ってはどうでも良さそうに感じて、母親ってこう言うものなのかと、レントはラーラへの好感度を上げて、それが微笑みとして漏れ出ていた。


「利用すると言われましたら、そうですね」


 レントはラーラの言葉を肯定して、小さく肯く。


「認めるの?」


 ラーラは反論を期待していた。まさか本人と両親の前で、利用する事を認めるとは、ラーラもバルもリリも思っていなかった。


「わたくしにメリットがあります限り、それはミリ・コードナ様を利用しているとの事になりますので」

「コーカデス卿のメリットとは何?単に交際練習をしたいのなら、ミリではなく他の方でも良いのよね?」

「そうですね」


 ラーラもバルもリリも、またレントが肯いた事に驚く。誰でも良いなどと言う相手に大切な娘との交際練習を許す筈などないのに、それがレントには分からないのかと思ったからだ。

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