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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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交際練習の申し込み

「それではもし、ラーラ・コードナ様からバル・コードナ様の御命令には従うなと命じられたのなら、ミリ・コードナ様はどうなさいますか?」

「コーカデス卿、いい加減にして欲しい」


 バルの不機嫌な声と様子に、レントは即座に「申し訳ございません」と頭を下げた。


 バルにはレントの狙いが分からない。

 レントがミリにしている質問は興味本位にしか思えず、ミリにコーカデス領の領政を手伝わせる事に繋がるとは、バルには考えられなかった。


 しかしミリの心には、今の質問が響いていた。

 ただし他人事としてだけれど。何故なら、バルもラーラもその様な命令をする筈がないと、ミリは思っているからだ。

 二人の命令をきく事にはしているけれど、もしお父様の命令はきくなとお母様に命令されたらどうするだろう?ミリはこれまで考えた事がなかったこの問題に、知的好奇心が刺激されて興味を持ってしまった。


 そしてそれはレントも同じだった。

 今の質問はふと思い付いて、ミリならどう答えるだろうかとの興味本位で尋ねてしまっていた。

 ちなみにレントは自分がその様な状況になったら、自分が望む答えの方を選ぶと思っている。そしてその答えを選ぶ理由の一つに、そう命じられた事を利用するだろう。命令をきくなと言われたのできかない、とか、命令をきくなとの命令はおかしいのできく、などと自分なら振る舞うとレントは考える。

 つまりはそれは、普段のレントと余り変わらなかった。



「ではミリ・コードナ様への最後の質問、と言いますか、確認をさせて下さい」


 レントに文句を付ける積もりだったバルは、レントが直ぐに頭を下げたので、文句を続けられていなかった。

 ただしレントの狙いが分かっていないので、バルはまだ文句の言葉も上手くは思い浮かべられてはいない。不愉快な感情が先に走っていて、つい口を挟んでいただけだった。

 それなのでレントの最後だと言う質問も、つい見逃して許した。


「ミリ・コードナ様は、バル・コードナ様とラーラ・コードナ様が二人揃って命じるのなら、それに従うのですね?」


 最後の質問と言われたので、ミリは身構えていた。しかしレントが確認と言い直した様に、それはここまでの話を纏めたものだった。

 その為にミリは「はい」と答え、無意識に入っていた体の力を抜く。


「それは結婚でも婚約でも交際練習でもですね?」

「ええ」


 ミリは無警戒に返事をして肯いた。

 けれどこの場にいるバルもラーラも、レントの叔母リリも、交際練習と言う言葉にドキリとしている。


「御回答頂き、ありがとうございました」


 レントはミリに丁寧に頭を下げた。

 そしてミリの「どういたしまして」の声で頭を上げると、レントはバルに顔を向ける。


「バル・コードナ様」


 呼び掛けられてもバルは言葉を返せなかった。


「コーカデス領主レント・コーカデス子爵として、御息女ミリ・コードナ様との交際練習の申し込みを致します」

「ダメだ!」


 バルにはレントの話の脈絡が掴めなかった。ここまでの流れで何故、交際練習の話が出て来るのだ?

 もちろん反対だ。反対だけれど、訳が分からないから、反論ができない。

 バルは感情的に反発するしか出来なかった。


 ラーラは計算をしてみていた。ミリの利益になるのかに付いてだ。

 バルが反対する事はラーラには納得出来たけれど、それは交際練習がミリの結婚へと繋がる様にバルが感じるからだとラーラは思う。そしてバルの事を置いておけば、交際練習はミリの為にもなる様にラーラには思えていた。

 ラーラはミリの情緒面に不安を持っている。何事にも割り切りが良過ぎて、感情的なこだわりが少ないと、ラーラはミリに対して思っていた。

 自分はバルとの交際練習に於いて、様々な事を感じたり思ったり考えたりした。それと同じ様にミリにも経験させる事が出来るのなら、ミリの心を育てる役に立つとラーラには思える。

 しかし、レントの狙いが分からない。ミリとの交際練習にレントのメリットがあるとは思えない。

 取り敢えず誰でも良いから手近な人間で、と言う事なのだろうか?そんな失礼な理由なら、当然ラーラもレントの申し出を拒否する。ミリにメリットがあるとしても、他の相手を捜すだろう。

 それとも、コーカデス領の領政をミリに手助けさせる為の布石なのだろうか?それならそれで手助けを申し込めば良い。

 バルとの交際練習の思い出を大切にしているラーラには、考えられるいずれの理由でも、レントがミリとの交際練習を申し込むのは不誠実だと思えた。


 リリは、レントがミリに確認する時に、結婚、婚約、交際練習の順で口にした事に付いて、レントの策略を感じていた。時系列的には交際練習から婚約を経て結婚へと至る流れとなる筈なのに、逆に示す事でバルとラーラとミリの意識を結婚から遠ざけた様にリリには思える。

 さすがにレントもミリとは結婚する積もりがないだろうとリリは考えている。コードナ侯爵家から見ればコーカデス子爵家は格下だし、コーカデス子爵家から見ればミリの出自は許容出来ない。レントとミリの結婚などあり得ない。それなので、そのあり得ない結婚をバルに意識でもされたら、話が拗れて困るから、レントはあの順で口にしたのだとリリは思った。

 しかしそうだとしても何故、レントが交際練習の話を出したのかは分からない。レントの目的はどこにあるのか?

 そもそもここまでのレントの話も、かなり飛び飛びに進んで来た。それはまるで、水面に浮き出た石を辿って渡って来た様に、リリには感じられる。

 つまり、交際練習の話の先に、更に別の言いたい事がレントにはあるのかも知れない。

 そう考えたリリは、ほんの小さく僅かに息を吐く。リリを疲労感が包んでいた。

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