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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
51/637

51 どっち?

「それはダメよ!産むなんてダメ!」


 今度はラーラの母ユーレが叫ぶ。


「でも母さん。キロの子かも知れないのよ?」

「犯人の子かも知れないのよ?!」

「分かってる」

「分かってないわ!愛する人の子供でも産むのも育てるのも大変なのよ?!そんな子を産んだら絶対後悔する!」

「でもね、産まなくても後悔するの」

「その子にも恨まれるわ!」

「そうかもね。でもその子には何の罪もない」

「そんな綺麗事で済まないのよ!」

「まあ、ちょっと待て」


 ラーラとユーレの遣り取りにラーラの父ダンが口を挟む。


「妊娠してるかどうか分からないんだから、今その事を議論しても意味がない」

「何言ってるのダン!妊娠してるのが分かってからじゃ遅いでしょう!」

「それは後で身内だけで話せば良い。コードナ侯爵家の皆さんには関係ないだろう?」

「それは私とラーラさんの結婚を認めないと言う意味ですか?」


 ダンの言葉にバルが尋ねる。


「認めるも何も、ラーラはキズモノなんですよ?貴族様の妻になんてなれる筈がないじゃないですか」

「何故ですか?純潔でなければ結婚できないなんて法律はありませんし、二人が成人すれば両家の許可も必要ない」

「そう言う事ではありませんよ。バル様の(もと)に嫁いだら、ラーラがどれだけ苦労するか、想像が出来ません。それに両家の許可なしでの結婚なんて、両家からの援助も受けられない。収入とかはどうなさるんですか?」

「ではどうするのです?ラーラさんはこのまま結婚せずに一人で生きて行くのですか?」

「一人じゃありません。俺が面倒を見ます」


 バルに反論したのはラーラの三兄ヤールだった。


「何を言っているんですか。ヤールさんが結婚したら、ラーラさんは邪魔者扱いされますよ」

「俺は結婚しません。ラーラが妊娠していたら、その子は俺がラーラと二人で育てます」

「何言ってるの!ダメに決まってるでしょ!」


 ヤールに向かってユーレが叫んだ。

 ラーラの祖父ドランが割って入る。


「バル様。ラーラが苦労するのを分かっていて、結婚するって仰るのですね?」

「はい」

「ラーラの事をどう思っていらっしゃるのですか?」

「愛しています。私はラーラさんがいなければ生きて行けません」

「愛している女が自分の所為で(つら)い思いをするのを傍で見続ける事になります。いつかきっと手を放したくなる。そうなったらバル様は大きな傷を負いますよ?」

「分かっています。それがどれ程の傷かは想像出来ませんが、手放したりしません」

「二人で死にたくなるかも知れない」

「それはありません。ラーラさんは死を選ばないでしょうし、私はラーラさんに心中を()いたりはしません」

「バル様」


 ラーラの祖母フェリが声を上げる。


「ラーラがキズモノだから、好き勝手にしても良いとか考えてるんじゃないですね?」

「もちろんです。そう見えますか?」

「私に見える見えないではなくて、その事をバル様の口から聞きたかっただけです」

「ラーラさんの事は大切にします」

「バル様と結婚する事で苦労するのにですか?」

「はい」

「ソウサ家が反対すれば、諦めるんですね?」

「いいえ。許して頂けるまで諦めません」

「コードナ侯爵家が反対しても?」

「はい。諦めません」

「何故ですか?」

「何故?だって私にはラーラさんが必要なのです」

「身近な人がラーラと同じ様に攫われたらどうします?その人とラーラ、どちらを選びますか?」

「ラーラさんです」

「家族よりも?」

「はい。ただしラーラさんを選んだ上で、家族を見捨てない様にするでしょうけれど」

「そうですか」


 今度はラーラの次兄ワールがラーラに話し掛ける。


「ラーラはどうしたい?」

「どうって?どうもこうもないでしょう?」

「ラーラがバル様と一緒になりたいなら、俺は協力するぞ?」

「え?ワール兄さん、正気か?!」


 ヤールが割り込む。


「それでラーラが幸せになるならな」

「貴族の嫁になって、幸せになれる訳ないだろう?」

「バル様が平民になっても良けりゃ、俺が仕事を回す。なんでラーラはバル様が平民じゃダメなんだ?」

「だって、バル様は騎士になりたいのよ?」

「バル様の夢を奪う事になるからか?」

「うん」

「バル様はどうなんですか?騎士になるのとラーラと一緒になるのと、どちらを選びます」

「騎士よ」

「バル様に訊いてんだよ。ラーラはちょっと黙ってろ」

「黙ってられる訳ないでしょう?バル様は騎士になるの」

「バル様?」

「私はもちろん」

「騎士ですよね?」

「ラーラです」

「平民になっても良いんですね?」

「ダメよ!」

「構いません」

「ダメ!」

「子供が出来たら?」

「ラーラと一緒に育てます」

「バルの子は産めないんだってば!」

「まあ、コードナ侯爵家が結婚や離籍を許すかどうかはあるでしょうけど、バル様のお気持ちは分かりました。それでラーラはどうしたいんだ?」

「だから!どうもこうもないでしょう?!」

「ラーラ。俺と一緒に暮らそう。子供が生まれても生まれなくても、俺が一生面倒をみるから」

「ヤール。仕事はどうする気だ?行商に出ている間はラーラ一人で子育てさせるのか?」

「ワール兄さんと替わって俺が王都勤務する」

「それなら俺がラーラと暮らせば良いじゃないか」

「恋人はどうすんだよ?それにワール兄さんは船暮らしを始めるんだろう?どっちにしろ王都にいなくなるじゃないか。それなら俺の替わりに行商してくれれば良い」

「なんだよそれは?それに俺は船じゃない新規事業をする事にした。バル様が平民になるならそれを手伝って貰う」

「だからバル様は平民にしないって言ってるでしょう?!」

「でもバル様本人はそれでも良いって言ってるじゃないか」

「ダメったらダメなの!」

「なんでダメなんだ?ラーラ。お前はバル様と一緒になりたいのか?なりたくないのか?どっちなんだ?」

「なれないって言ってるでしょう?!」

「それはつまり、なりたいって事だよな?」

「そうなのかラーラ?」


 ワールとヤールに言われてラーラは言葉に詰まった。

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