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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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レントの攻め

 レントには、ミリが自分でコーカデス領に投資をする積もりになっていた様に感じられた。ミリからの返事が書かれた手紙を読めてはいなかったけれど、多分間違いないだろうとレントは判断する。

 しかし今、それをバルが取り消し、ミリもそれに従った。

 この状況を覆すには?

 つまりはバルを肯かせれば良いと言うだけに見えるけれど、本当にそうなのだろうかと思って、レントはチラリとラーラを見る。

 先程からラーラは、バルの発言に対してちらちらと感情を見せていた。

 もしかしたらバルを肯かせる為には、ラーラを味方にすれば良いのかも知れないけれど、それはそれで手掛かりがなくて難しそうにレントには思える。

 バルを相手にするのが簡単な訳ではないけれど、そちらも難しいは難しいけれど、でもそちらの方が単純な様な気がレントにはしていた。



「ミリ・コードナ様?」


 レントに呼び掛けられて、ミリはバルの様子を窺った。

 ミリの視線に気付いたバルはミリに首を小さく左右に振って、レントに顔を向ける。


「コーカデス卿。ミリに何を言おうと言うのだ?」


 レントからミリへ掛けた言葉にバルが割って入る事に、ラーラもレントの叔母リリもモヤッとした。

 そのラーラの表情はレントの視界に入っている。


「はい、バル・コードナ様。もしバル・コードナ様に許可を頂けたなら、ミリ・コードナ様にコーカデス領への投資をして頂いたり、あるいは開発に当たっての知恵をお貸し頂けたりする事が出来るのかと、確認させて頂こうかと思いました」

「その様な事はない」


 バルの拒絶は、レントには効果が今ひとつだった。

 それはバルに、ミリを縛り付ける事に対しての後ろめたさや、この後ラーラからもまたミリの将来に付いての話し合いを持ち掛けられるだろう予測があったので、言葉ほど強くはバルが拒否出来ていないからでもあるけれど、レントが祖父母との交渉で自分がやりたい事をやれてきた経験を積んでいたのもある。


「ですが実はミリ・コードナ様は本当はやりたくないのに、バル・コードナ様が許したからと言って、いやいや投資して頂いたり相談に乗って頂いたりするのも、申し訳がありませんので」

「だから、その様な事はないと言っている」


 レントはバルに向けていた顔をミリに向けた。


「それは、ミリ・コードナ様は投資に乗り気だったと」

「そうではない!」


 レントの惚けた返しに、思わずバルは強い反応をしてしまう。

 ミリはレントの言葉には反応を示さなかった。けれどもそのバルの強い語調に、レントの視線を避ける様に、ミリは少し顔を伏せる。

 バルはラーラとリリの視線に気付き、小さく咳払いをした。


「私がミリに、コーカデス領への投資を許す事はない、と言っているのだ」

「そうなのですか?」


 レントは小首を傾げて尋ねる。その仕草のあどけなさは、レントの祖父母にはとても効果がある為に、自然とレントは身に着けていた。今ここでそれが出たのはレントの計算ではなかったけれど、バルの内部にも効果はあった。しかしバルの外部には現れない。


「もちろんだ」


 バルは憮然とそう返した。

 しかしそのバルの様子に、レントは構わない。


「バル・コードナ様はミリ・コードナ様の結婚も仕事も禁止していると伺いました」


 バルも、ラーラも、リリも、レントの言葉に息を呑む。

 それは秘密でも何でもない。

 だがラーラは、バルがそれを許さないのは、ミリの出自が理由だと思っている。それなのでミリの出自にレントが言及するのかと思い、ラーラの体には無意識に力が入る。

 リリは、バルの独占欲丸出しの様なその話と、目の前でミリがバルの言うがままになっている様子と共に、バルがミリをラーラの代わりにしていると言うおぞましい噂を思い出した。それとは別にリリの無意識の中では、自分が結婚していない事に対するコンプレックスがミリに投影される。

 バルも、ミリを縛る自分の言葉に、疑問を持っている。ミリを思っている気持ちに嘘はない。けれどそれが本当にミリの為になるのか。それに付いてはバルは自信を持てなくなって来ていた。


 三人の気持ちを揺さ振りながらも、レントの言いたいのはそこではない。


「唯一、バル・コードナ様がミリ・コードナ様に許しているのが、投資だとも聞いています。その唯一許している投資に付いても、その都度その都度、ミリ・コードナ様はバル・コードナ様の意向を伺う必要があるのですね?」


 動揺した部分と別の部分を突かれたバルは、更に少し動揺した。


「いや、そう言う訳では、ないが」

「ですが、投資案件毎にバル・コードナ様の許可が要るのか要らないのか確認が必要なのだとしましたら、結局は全件、バル・コードナ様に意見を伺う事になると思います」

「それはそうだが」

「確かにバル・コードナ様の意見に従っていれば、ミリ・コードナ様は投資に失敗する事はないのでしょう」


 バルは咄嗟に、そうだと言うべきか、そうではないと言うべきか、判断出来なかった。

 投資関連の知識に付いては、自分よりミリの方が持っているとバルは思っている。それなので、自分に頼るよりはミリ自身に判断させた方が投資は成功するとバルは考えている為、レントの言葉には肯けなかった。だが失敗するとも言えない。

 しかし何も言わなければ、レントの言葉を肯定した事になる。


「しかしそれでは、ミリ・コードナ様の経験にはならないと思いますが、果たしてそれでよろしいのでしょうか?」


 否定できなかったので、ここでも、そうだともそうではないとも返せず、結果としてバルは、レントとは対立する立場に立たされた。


「いや、だが、失敗をしないのなら、それに越した事はないではないか?」


 自分でも納得していない立場なので、バルの言葉はわざわざ口にするほどのものではないし、この場の誰かを説得出来る力も持たない。疑問形で言葉を止めたレントに誘われて、バルは言ってしまった様なものだった。


「バル・コードナ様もラーラ・コードナ様も、ミリ・コードナ様には長生きを願っていらっしゃると思います」

「は?当然ではないか」


 心から肯定出来る事なので、バルは力強く返す。それにレントも力強く肯いて返した。


「はい。ですのでご自分達より長く、ミリ・コードナ様が生きる事をお望みだと思います」

「それは、そうだが」


 この先のレントの話の展開が読めて、バルの言葉は途端に歯切れが悪くなる。しかしここは、肯定するしかない。


「バル・コードナ様とラーラ・コードナ様をお見送りなさった後、ミリ・コードナ様がどの様に生きていかれるのか、当然お二人は考えていらっしゃると思います」


 少しバルの想定とは違った。ラーラから言われた時の様に、もっとストレートに言われるのかとバルは思っていた。


「ミリ・コードナ様はとても知識が豊富ですし、頭も非常に良くていらっしゃる。交流させて頂く上でわたくしは、ミリ・コードナ様に教わる事ばかりです」


 レントの話がバルの想定から更にずれて行く。


「しかしミリ・コードナ様が何の経験も積まないのでしたら、ミリ・コードナ様が産み出せていたであろうものが何も生まれないのです」


 バルは驚く。え?そっちから攻める?


「それはコードナ家の損失や、国家の不利益などの小さな話ではありません」

「え、いや、小さくはないではないか」


 バルはまた釣られて、レントが言わせたい言葉を言ってしまった。


「いいえ。ミリ・コードナ様の輝かしい未来に比べたら、それらはちっぽけな話です」


 レントの口にした結論は、バルもラーラもリリも、想定していなかった。

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