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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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投資者紹介依頼の理由

「投資の件ですけれど」

「待ちなさい、ミリ」


 ミリがレントに話し掛けるのをバルが止める。


「はい、お父様」

「先に私からコーカデス卿に確認したい事があるから」

「はい、分かりました」


 ミリの返事に肯いて、バルはレントに顔を向ける。

 そのバルの様子をラーラは訝しく思いながら見ていた。

 レントはバルに見詰められて、少し緊張を高める。レントの叔母リリはバルとレントを見て、レントより緊張を高めた。


「コーカデス領に投資をする人物をミリに紹介する様にとコーカデス卿は依頼して来たが、これはコーカデス卿の考えか?」

「え?あの、はい。わたくしの考えですが、何か疑問点等がございましたでしょうか?」

「コーカデス卿の父君、スルト殿の考えではなく?」

「はい。わたくしがコーカデス領の領政に必要だと考え、投資して下さる方をご存知ないか、わたくしがミリ・コードナ様に尋ねさせて頂きました」

「領政?その依頼をミリにした時には既に、コーカデス卿が爵位を嗣ぐ事になっていたのか?」

「あ、いえ。爵位を嗣ぐと言うのは、今回の授爵の事ですね?」

「ああ、もちろんだ」

「わたくしが跡を嗣ぐ事は決まってはおりましたが、今回実際に授爵する話が出る前に、投資者紹介の件を相談させて頂いております」

「スルト殿がまだ領主であったのに、コーカデス卿が領政に関わる判断を勝手にしていたのか?」


 そう指摘されてみれば確かに、越権行為だった様にもレントには思えた。


「わたくしは前領主より、領主代行の権限を渡されておりました」


 レントがスルトを指すのに前領主と言った事に、リリは切なさを感じる。レントとスルトの親子の縁が切れている事を思ったからだ。

 そのリリの目に哀しみが浮かんだ様子にミリが気付く。気付くが理由を知らない為、領主代行としての仕事がレント殿には(つら)かったのだろうか?とミリは勘違いをした。その苦労を傍で見ていたリリには、レントが可哀想だったのかも知れないとミリは思った。


「それに都度都度、前領主には報告をしておりました。投資者紹介依頼の件も前領主に前以て許可を得てから、ミリ・コードナ様へお願いさせて頂いております。わたくしが勝手に何かをしていた訳ではございませんので、御安心下さい」


 スルトはレントの書いた書面を見ずに了承のサインをしていたので、内容は知らなかった筈だ。安心の根拠には出来ないのだけれど、レントはバルにそこまでは説明しない。

 スルトの領主としては無責任だったその様な行いは、同じコーカデス家の人間だった者として恥ずかしく感じるので、レントは口に出来なかった。


「なるほど、それは失礼した」

「いえ」

「しかしそうすると投資者紹介は、コーカデス卿の発案なのだな?」


 バルの雰囲気が変わらない事に、バルが納得していない事を感じ取りながら、レントは「はい」と肯く。


「コーカデス卿」

「はい」

「投資を受けるなら、投資者の意見や要望を領政に反映しなければならなくなるが、それは理解しているのだな?」

「はい。ある程度は」

「ある程度?」


 バルの眉根が寄り、声が低くなった。


「ある程度と言うのは、どの程度まで理解しているのだ?」

「あ、いえ。理解はしております。ある程度と言うのは、意見や要望をある程度は領政に反映する事も考えると言う意味です」

「そうはいかないだろう?」

「え?・・・と仰いますと?」

「意見や要望を受け入られなければ、投資が引き上げられてしまう」

「ええ、そうですね」


 レントはバルを見詰め、小さく肯きながらそうとだけ返す。

 バルはレントの言葉の続きを待つけれど、バルの次の言葉を待つレントに見詰められるだけだった。


「もしかして、考えてはいなかったのか?」

「それは、投資が引き上げられる事に付いてですか?」

「ああ」

「いいえ。それは考えておりました」

「何か対策も考えているのか?」

「対策と仰いますのはもしかしますと、投資を引き上げられない様にでしょうか?」

「ああ。もちろんその通りだ」

「引き上げられてしまうのは、仕方がないと思いますので、引き()める様な事は致しません」

「いや、しかし、投資の急な引き上げは、領政にも影響するのではないか?」


 レントがそんな事も思い付かないとは思えなかったけれど、バルはそう口にせずにはいられなかった。


「皆無ではないでしょうけれど、領政が傾く様な投資を受け入れる積もりはございませんので、問題はございません」

「そう、そうか」

「はい。御心配頂き、ありがとうございます」


 そう言ってレントは頭を下げ、頭を上げるとバルに微笑みを向けた。


 レントは父スルトの事を思い出す。スルトとはこの様な会話をした覚えがレントにはない。

 レントはバルとスルトを比較した事で、バルへの好感度を上げていた。


 バルはレントの笑顔に絆されそうになり、それではいけないと気持ちを引き締める。


「領政に於ける投資の比重を軽くすると言う事だろうか?」

「はい」

「それはコーカデス領が子爵領になったからだろうか?」


 リリの体に力が入った。思わず昔の様に、バルに口を利きそうになるのをリリは抑える。

 ラーラもバルが踏み込み過ぎだと思い、口を挟もうかと思う。

 しかしレントは穏やかな表情で、「いいえ」と首を左右に振った。


「子爵領になる前からです。ミリ・コードナ様に依頼の手紙を送りましたのは、コーカデス領がまだ伯爵領の時でした。そしてあの当時は、子爵領になるなどとは思っておりませんでしたので」


 降爵するのは貴族に取って大きな恥だ。

 しかしコーカデス領が子爵領になったのはスルトの所為であり、自分の所為ではないとレントは思っている。それなので降爵に対しても、レント自身は振っ切れていたし、引け目を感じてもいなかった。引け目を感じて萎縮したりしている余裕は、今のレントにはない。


「バル・コードナ様が子爵領になってからかと問われたのは、子爵領の方が税率が下がるからでしょうか?」

「ああ、そうだな。確かにそれがある」

「はい。確かに子爵領となりましたので、ミリ・コードナ様に依頼の手紙を送りました時より更に、投資比率を下げる事も出来そうです」


 ミリが小首を傾げて「ですが」と口を挟む。


「そうしますと大した投資額にはなりません。投資をする人を集め難いのではありませんか?」

「そうですね。少額投資なら得られる利益も少額ですから、見込まれる利益率が同程度なら、資金は他の投資案件に回されてしまうでしょう」


 やはりレントもそう考えているのかとミリは思って、少し嬉しくなる。自分の予想通りにレントが把握していた事も嬉しいけれど、レントと意見が合う事自体も嬉しい。


「それに対してはどの様な対策を考えていらっしゃるのですか?」

「待ちなさい、ミリ」

「はい、お父様」


 バルの話を妨げてしまった事に気付き、ミリは頭を下げた。


「口を挟んでしまい、申し訳ございません」

「あ、いや、それは良いのだ」


 レントとリリに、聞き分けの良いミリの姿を見せるのは、バルには何だがバツが悪かった。

 しかしミリから色々と質問をさせてレントが答え、二人がその気になってしまう事はバルは避けなければならなかった。

 それなのでバルは結論を口にする。


「だが投資の件はなしだ」


 バルの言葉にミリはハッと顔を上げる。


「それは何故でしょうか?お父様?」

「それは後で説明する」


 この場で延々とミリと議論する事はバルは望まなかった。レントの前で、ミリに言い負かされたりしたら(たま)らないし。それなので、レントとリリの前で更にバツの悪い思いをする事になるのは分かっていたけれど、バルはそう言い切った。

 ラーラは、ミリがコーカデス領に投資する件に付いて、バルが反対する事に方針を変えた事を聞いていなかった。それなので、ラーラは少し目を細めてバルを見詰める。

 そのラーラの視線から、ここで話を続ければ、ミリとラーラの二人を一緒に説得しなくてはならなくなる事が、バルには分かっていた。


「分かりました」


 ミリが素直に肯いたので、バルはホッとして小さく肯き返す。

 バルがホッとした事を感じたラーラの目が更に少し細まる。


 レントはバルの言った投資の件と言うのが、ミリかミリ商会がコーカデス領に投資をするとの話になっていたのだろうと考える。レントの思惑通りだった訳だ。

 しかしそれが今、バルからなしだと言われた。ミリも分かりましたと答えた。こうなっては、ミリにコーカデス領開発に関わっては貰えなくなる。

 何とかしなければ、とレントは思考を巡らせた。


 リリは、ミリに対するバルの態度に、自分の知らないバルを感じた。しかしその後ろに隠れているバルの考えは、リリには読めた気がする。

 そして理由は分からないけれどその感覚から、バルがラーラに対して、気を配っていると言うよりは気を遣っている様に、リリには受け取れた。


 ミリは、コーカデス領への投資が駄目なら留学の準備をしようかな、などと既に考えを切り替えていた。

 それなら先ずは養伯父(おじ)様に一緒にコーハナル侯爵領に連れて行って貰える様にお願いして、道中では行商もするからソウサ商会の邪魔にならない売り物を考えて、コーハナル侯爵領でも何か仕入れて。

 その準備期間中にディリオと会わずに我慢する練習もしないと、などとミリの思考はまたディリオに寄って行っていた。

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