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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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謝罪と機嫌と気まずさ

 ミリは違和感を抱いた。

 バルの機嫌が悪くなった理由が、ミリには考え付かなかったからだ。


 目の前で、レントの叔母リリが謝罪をして、それをラーラが赦した。それはリリがラーラに名乗りを返せていなかったからだ。

 これのどこにバルが機嫌を悪くする要因があるのか、ミリには分からない。リリ・コーカデス殿が謝らない方が良かったの?と考える事は出来るけれど、謝らない方が良い理由がミリには思い付かなかった。

 ラーラとリリはこれで知り合いと言う事になる。知り合いになった事が拙かったのだろうか?


 ミリが聞き及んでいる話では、ラーラとリリはもう長い間、顔を合わせる事もなかった筈だ。リリは今回久し振りの王都の筈なので、二人が最後に会ったのは王都で暴動が起こる前の筈。

 そしてラーラは今回、改めて名乗り直さなかったので、ラーラからリリに名乗った時には既に、ラーラとバルは結婚していた筈。その前なら、平民のラーラの方から侯爵令嬢のリリに向かって挨拶したり出来ない。

 トラブルの所為で挨拶が交わせていなかったとラーラが言っていたけれど、バルとラーラの結婚と王都の暴動との間の期間で、ラーラとリリに関係するトラブルと言えば、当時の宰相の怪我と王冠の破損事件。

 そこまで遡って考えても、何故バルの機嫌が悪くなるのか、ミリには少しも分からなかった。


 それとも、二人が知り合いになる事自体、お父様には都合が悪いのかしら?と考えて、ミリはハタと気が付いた。

 元カノと今カノ?

 いえいえお父様とリリ・コーカデス殿はお付き合いしてはいなかった筈。リリ・コーカデス殿がお父様を満更でもないと思っていたと言うのはつまり、付き合っていなかったからこその表現だし。

 そうすると後は、お母様の知らない、お母様と出会う前のお父様に付いて、リリ・コーカデス殿が知っているから?お母様に知られたら拙い秘密をリリ・コーカデス殿が握っている?


 ミリはバルがラーラと出会ってから変わったと言う話は、コードナ侯爵家の人々やパノから聞いていた。

 その話を知っていたのに、それでは以前のバルがどの様な人間だったのかと言う事に付いて、これまで探らなかったのは怠慢であり、失敗だったとミリは思った。

 もちろん怠慢だの失敗だのと言うのは、自分が好奇心を持ってしまった事に対しての言い訳でしかない。


 ミリはこの機会に、リリからバルの過去に付いて、話を聞き出そうと考える。


「お父様、お母様。積もる話もあるでしょうから、先ずはお客様に座って頂きませんか?」


 つい先程まで傍観者モードの表情をしていたミリは、良い笑顔を四人に向けた。


「その前に、わたくしからもミリ・コードナ様に、謝罪をさせて下さい」


 四人がレントに顔を向ける。


「わたくしに謝罪ですか?」

「はい。ミリ様に頂いた手紙ですが、実は多くを紛失してしまいました」


 さすがにレントは、レントの父スルトの指示でミリからの手紙が焼かれたとは言えなかった。

 しかし手紙の紛失と言う言葉は、ラーラ誘拐事件の切っ掛けになった、パノからリリに送った手紙が紛失している事に付いて、バルとリリに思い起こさせる。

 ラーラは誘拐事件に結び付けたりはしなかったけれど、ソウサ商会が手紙を配達する時にかなりの慎重に扱っている事から、手紙を紛失する事自体が信じられなかった。

 神妙な面持ちで謝罪を口にするレントに、バルとリリとラーラが表情を固くするのに対し、ミリは軽く「あぁ」と肯いてレントに微笑む。


「手紙で謝罪頂いた件ですね?」

「はい」

「お気になさらないで下さいと書いて返事を送ったのですが、それはまだお手元に届いておりませんでしたか」


 バルとラーラはミリのその手紙もなくなった事を想像し、リリはそれが無事に領地に届いているのかを心配する。

 しかしレントはホッと息を吐いて、肩の力を抜いた。


「わたくしが王都に来るのと行き違いになったのでしょう。手紙でも謝罪致しましたが、改めて謝らせて下さい。どうも、申し訳ございませんでした」

「申し訳ございませんでした」


 レントに合わせ、リリも謝罪の言葉を口にして頭を下げる。

 レントが悪い訳ではなくてスルトの所為なのだけれど、ミリから見たらコーカデス家の不始末だ。自分も謝るべきだし、レントと一緒にこの場にいて良かったとリリは思っていた。レント一人に謝らせたのなら、レント自身が手紙を粗末に扱う様な人間なのかと思われるかも知れない。


「いいえ。ほとんどディリオの愛らしさに付いてしか、書いておりませんでしたし」


 その言葉にバルとラーラの胃がキュッとした。

 あれを手紙で余所様に宛てて書いていたのかと思うと、私達の娘が御迷惑をお掛けして申し訳ないと、謝るのはむしろ自分達だと思えた。

 ミリがレントに頻繁に手紙を送っている事は、バルもラーラも知っていた。けれどもそれは、ソロン王太子とも関係する機密を含んだ遣り取りだと、バルもラーラも考えていた。

 内容を知っていたら止めたのに、と二人とも思った。


「それに付きましては本日、コーカデス卿には本物のディリオを見て頂けましたので、きっとわたくしが書き切れないディリオの愛らしさを感じて頂けたと思いますから」


 バルとラーラはますますレントに申し訳なく思う。


「ですけれど、投資の件に付いては、手紙は届いていましたか?」

「投資をして下さる(かた)の紹介をわたくしがミリ・コードナ様にお願いした件ですね?」

「はい」

「いいえ、申し訳ございません。それに付いて御回答頂いた手紙も、共に紛失したのだと思います」

「それなら折角ですし、直接お話をしましょうか?」

「はい。是非、お願い致します」


 ミリはレントに肯くと、リリに顔を向けた。


「リリ・コーカデス殿」

「はい、ミリ・コードナ様」

「コーカデス卿をお借りしてもよろしいですか?」


 お借りすると言う事は、ミリがレントを連れてこの場を離れると言う事だ。リリの表情は引き攣るけれど、拒否は出来ない。


「はい」

「いや、待ちなさい、ミリ」


 リリの答えに被せる様に、バルがミリを止める。


「はい、お父様」

「話すなら私の前で話しなさい」

「はい。ですがお父様?お父様達にも積もる話があるのではありませんか?」


 そう言ってしまってからミリは、バルの過去の話を聞けなくなる可能性に気付いた。


「いや、私は投資の話を聞こう」


 バルが自分の事だけを言う様にラーラには聞こえた。この場にリリと二人だけで残されるのなら(たま)らない。


「わたくしも聞きます」

「いや、しかし、リリ殿を一人で残す訳には」

「リリ・コーカデス殿はコーカデス卿の後見人なのですから、リリ・コーカデス殿も一緒に聞くべきではありませんか?」

「確かにそうかも知れないが、以前ミリに投資を許可した時とは状況も変わっているし」

「それならなおさら、わたくしも聞く必要があるではありませんか」


 ラーラはバルが自分を置いて行こうとする事に、またムッとした。

 実際にはバルは、これ以上リリの顔を見ていると、自分が荒い言葉をリリに()つけてしまうかも知れない事に危惧をして、リリから離れたいと思っていた。それに、ラーラがリリを赦した様に思える事にバルはムッとしていたから、ラーラに対しての気持ちが落ち着かなかったのもある。

 しかし、ラーラの機嫌が悪くなったのを感じたら、バルは引き下がるしかない。

 バルは「そうだね」とラーラに向けて肯いた。


 そのバルとラーラを見て、ミリも小さく肯く。

 過去のバルの話を聞き漏らさなくても済みそうだ。


「それでは皆様、この場でコーカデス卿と投資に付いての話をさせて頂いてよろしいですか?」

「ああ、構わない」

「ええ、そうしましょう」

「はい」

「ありがとうございます。コーカデス卿もそれでよろしいですか?」

「はい、結構です。よろしくお願いします」


 レントはホッとした。

 バルとラーラの様子に、前回会った時との違いを感じていたし、その理由がリリだとは思っていた。それなのに、その三人を置いて行ったら気になって、投資の件の話に集中出来そうにない。


 レントが微笑むと、ミリも「はい」と微笑みを返す。


 こうしてようやく、五人は席に着く事になった。

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