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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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膠着

 コードナ邸に着き、ミリとレントは馬から降りた。同行して来た馬車からはレントの叔母リリが、レントのエスコートを受けて降りる。

 レントとリリはミリの案内で、邸の中に入った。


 応接室に通されると、バルとラーラが三人を待っていた。


「お父様、お母様。お客様をお連れしました」


 ミリの向こうに姿が見えたバルとラーラに、レントとリリは上位貴族への礼を取る。


「ようこそコーカデス卿」

「良くいらっしゃって下さいました、コーカデス卿」


 バルとラーラの言葉にレントは顔を上げた。


「ご無沙汰致しております、バル・コードナ様、ラーラ・コードナ様」

「この度の授爵、おめでとう」

「おめでとうございます、コーカデス卿」

「ありがとうございます」


 レントに微笑を向けるバルとラーラに、レントも微笑みを返す。その様子をミリも優しく微笑んで見ていた。

 しかしレントとバルとラーラの三人の微笑みは、徐々にぎこちなくなっていく。

 レントもバルもラーラも、そして頭を下げたままのリリも、膠着状態に陥る事をこの場になってやっと認識した。



 バルもラーラも、リリが訪ねて来ると言う事で、平常ではいられなかった。

 コードナ侯爵家やコーハナル侯爵家へなら、最近往き来のあったレントが授爵の報告に行く事も、レントの後見人であるリリが同行する事も分かる。

 しかしバルとラーラの元にまで、リリが同行して来る理由が分からない。

 確かにレントはミリとは個人的な交流がある。そしてミリを介してコードナ侯爵家やコーハナル侯爵家と交流が出来る様になってはいたので、今回も両家に挨拶出来た事をレントはミリに感謝しているかも知れない。それなので、レントがミリに会いにコードナ邸に来るのは分かるし、邸にまた寄る様にと言っていたバルやラーラに挨拶しに来る事も分かる。

 しかし、バルとラーラとに因縁のあるリリを連れて来るのは、理由が分からない。理由がない。あるとするなら、喧嘩を売りに来るくらいしか思い付かない。

 だからと言って、レントは良いけれどリリの来訪は駄目だ等とは断れない。来訪したいと言うリリが気にも留めていない昔の事に付いて、バルやあるいはラーラも気にしている様に見えてしまう。それがラーラ誘拐の件なら当然リリも意識はしているだろうし、その上で来訪するのだと言うのなら、バルがリリを好きだった事が訪問許可の焦点として取り上げられるだろう。そうするとバルが断るとリリに交際を拒否されていた事を未だに根に持っている様に思われるし、ラーラが断ると過去のバルのリリへの好意にヤキモチを焼いている様に受け取られるだろう。

 その様にレントとリリの意向や周囲からの見え方を考える事に意識を集中していた為、バルとラーラは今のこの場の膠着状態を想定出来たりはしていなかった。


 リリも、バルとラーラに会う覚悟は決めていた。それは自分が望んだ事であったからだ。

 そしてリリはコーカデス子爵家の者として、バルとラーラに頭を下げるべき事とそうではない事を決めていた。

 リリはその細かい区分けのお浚いに先程の馬車での移動時間を使っていたし、コードナ邸の敷地に入ったら高まり始めた緊張もバルとラーラの姿を目にした時点が最高となっていた。

 その為に、この場のこの後の流れを意識する事なくこの場に立ってしまっていた為に、リリは今のこの場の膠着状態を想定出来たりはしていなかった。


 レントは、ミリとコーハナル侯爵邸で会うとは思っていなかった。そしてミリに会ったら会ったでディリオの話題に押され、ディリオに関する事に思考の多くを奪われたままコードナ邸まで来てしまった。

 それなのでコードナ邸に着いてからの流れを見直す事もしていなかった為、レントは今のこの場の膠着状態を想定出来たりはしていなかった。


 バルとラーラとレントとの挨拶は済んだ。

 次はバルとラーラとリリが挨拶を交わさなくてはならない。

 しかしその切っ掛けが、この場には存在しなかった。



 バルとラーラとリリは、顔見知りではある。それなので、レントからバルとラーラにリリを紹介する事はない。

 特にバルとリリは幼馴染みだった。それなので普通なら、バルからリリに話し掛ける状況だ。

 しかしラーラ誘拐事件の事があり、バルはリリの関与を責める立場を取っている。そしてコーカデス家はリリの関与を否定しているので、リリもその件ではバルにもラーラにも頭を下げる事は出来ない。そのバルとリリが久し振りに対面したこの場で、いきなり会話を始めたりは出来なかった。

 そしてラーラも、リリとは顔見知りではあるが、会話をした事はない。リリが何の為にコードナ邸を訪ねて来ているのか分からないのもあり、ラーラからリリに掛ける言葉はなかった。

 リリも、ラーラに言う為に用意した言葉があるのだけれど、下位貴族から上位貴族へ話し掛ける事は出来ない。親しい間柄で私的な場でなら許されるが、リリとラーラは親しくなどない。


 レント、バル、ラーラ、リリの四人が本来想定していたのは、この場でレントがミリにリリを紹介する事だった。

 レントがバルとラーラとミリに挨拶をして、レントがミリにリリを紹介する。そしてレントとミリが会話をリードしながら、リリがこの場にいる理由を説明するなりして、バルとラーラとリリの会話が始まる。

 それが何の柵みもない人同士でも普通の交流開始の流れであるし、暗黙の了解の様な部分でもある。四人もその積もりであった。

 それなのに、ミリが先にコーハナル侯爵邸でリリと挨拶を交わしてしまった為、この様な膠着状態に陥ってしまったのだ。


 そしてこの膠着状態を引き起こした原因あるいは犯人と言っても良いミリは、その様な事に気付いていなかった。


 ミリはバルとリリが幼馴染みだと言う事は知っているし、バルがリリを好きだと公言していた事も知っている。リリがバルを満更ではなく思っていたのだとの話もあるし、そうだとしたらラーラはリリからバルを譲って貰った様な立場だ。それぞれの立場で言うべき事もあるだろう。

 ラーラの誘拐事件へのリリの関与の疑惑は残っているけれど、リリはバルとラーラを訪ねて来たのだし、バルとラーラもリリが訪ねて来る事を許したのだから、その辺りはお互いに態度に表す事もなく接するだろう。

 三人とも大人なんだし。


 その様な事を考えてミリは傍観者モードで、他人事として様子を眺めていた。

 その時もミリの頭の半分近くは、ディリオが占めていたりする。

 それなので、なかなか会話を始めないバルとラーラとリリに対して、久し振りの再会に感極まっているのかな?などとミリは呑気に思っていた。

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