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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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コードナ侯爵邸への訪問

 コードナ侯爵家に着いたレントと叔母リリは、バルの父ガダ・コードナ侯爵と母リルデ・コードナ侯爵夫人の待つ応接室に通された。


 室内に入ると直ぐに、ガダがレントに声を掛ける。


「私がコードナ侯爵のガダだ。君がコーカデス卿か」

「はい。お目に掛かれて光栄です、コードナ侯爵閣下。わたくしはこの度子爵位を賜りました、レント・コーカデスでございます」

「授爵、おめでとう」

「ありがとうございます、コードナ閣下」


 会釈するレントに対してガダが小さく肯いた。その隣でリルデも同じ様に小さく肯く。


「授爵、おめでとうございます。コーカデス卿」

「ありがとうございます、リルデ・コードナ様」


 リルデはレントに微笑みを向けると、レントの隣で頭を下げているリリに声を掛けた。


「リリ殿、久し振りですね」

「はい、ご無沙汰致しております、コードナ侯爵夫人」

「良く来たな、リリ殿」

「本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます、コードナ侯爵閣下」

「さあ、顔を上げて」

「はい、コードナ侯爵夫人」


 久し振りのリリとの再会に、ガダもリルデも淋しさを覚える。

 以前はリリは良くコードナ侯爵邸にも顔を出していたし、リリ、リリちゃんと呼んで、おじ様、おば様と呼ばれていたけれど、それは遠い昔の事の様にガダもリルデも感じた。

 ガダはリリがバルと結婚するかも知れないと思っていた。当時のコーカデス家はリリの事に関して、随分とバルには強気だったけれど、ガダはバルの為ならコーカデス家に頭を下げる積もりでいた。

 リルデはリリの両親や祖父母を苦手としていたけれど、リリ自身の事は嫌いではなかった。


 今ではガダもリルデも嫁のラーラの事は気に入っているし、何よりミリを可愛く思っているので、今更バルとリリが結婚していたらなどとは思う事はないけれど、それでも幼い頃から知っているリリが、幸せとは言えない様な人生を歩んでいるかと思うと、二人が同情を感じてしまうのはやむを得なかった。


「リリ殿はコーカデス卿の後見人になったそうだな」

「はい、コードナ侯爵閣下」

「それは大変ね」

「はい、コードナ侯爵夫人。しかしレントはこれまでもスルトの政務を手伝っておりましたので、実はわたくしの後見は名ばかりとなりそうなのです」


 レントはリリの言葉に慌てる。侯爵夫妻に子爵成り立ての自分の事を売り込もうとしてくれているのだろうけれど、身内贔屓の発言にしかレントには聞こえなかった。


「コーカデス卿の話はウチのミリからも聞いているよ」

「ミリ・コードナ様ですか?」

「ああ」

「そうですね。ミリはコーカデス卿は優秀な(かた)だと、サニン殿下の親睦会直後から申しておりましたし、その後も何度もミリからコーカデス卿の話を伺っておりますよ」

「わたくしはミリ・コードナ様に、色々と教えて頂いたり、助けて頂いたりしております。ミリ・コードナ様こそ、優秀な方だとわたくしは思います」


 真面目な表情でのレントの発言に、孫が褒められて嬉しいガダの表情が崩れる。


「いいや、そうか、そうか。だがミリの優秀さに気付くなど、コーカデス卿もやはりとても優秀なのだな」


 ガダの祖父馬鹿発言にリルデは苦笑いをしたが、レントはどんな表情をして良いか分からずに曖昧に微笑み、リリも静かに微笑んで返した。


 ガダがすっと笑顔を引っ込める。


「ミリからはコーカデス領が子爵領になった事に付いて、帳簿上の問題なだけであり、急に経営が悪化した訳ではないのではないかと聞いているのだが、実際はどうなのだ?」


 レントもリリも内心では驚いていた。他領の領主からこの様に、これほどストレートな質問をされるとは思っていなかったからだ。


「今回の降爵は、ミリ・コードナ様の仰る通りではあります」

「しかし水害があったハクマーバ領でさえ、それ程の損失が計上されていないと言うのだ。コーカデス領の実情は、帳簿の修正前と修正後と、どちらが近いのだ?」


 ハクマーバ領の損失が計上されるのは、これからが本番の筈だとレントは考える。それなので、水害前のハクマーバ領の申告内容と比べられると、コーカデス領の方が勢いはない。

 だが、コーカデス領だけの話として、実情がどうなのかと問われたら、レントの答えは決まっている。


「感覚的には修正前です」


 レントの父スルトが行った修正申告は、法には則っているけれど、コーカデス領の実情とは乖離している。何故ならコーカデス領ではここ数年、スルトが修正計上した開発費など使っていないからだ。


「そうか」


 ガダはレントの答えに、小さく何度も肯いた。


「不躾な質問をして悪かったな、コーカデス卿」

「いえ」

「これでも一応、心配しているのだ」

「ありがとうございます」


 レントは反射的に答えたが、ガダの言葉は続いた。


「国王陛下の臣の一人として、国の繁栄に寄与している自負はあるが、自領さえ良ければ良い訳ではない」


 そこでガダは言葉を切って、レントを見詰める。


 レントはガダの言う事はもっともだけれど、何が言いたいのか意図が読めなかった。それなのでレントはただ「はい」と、一拍おいてから返した。

 返してからレントは、タイミングと言い声と言い、自分の返しがガダの意見に不服があるように響いてしまった事に気付いた。そこで急いで訂正か補足をしようと思うけれど、慌てた所為か言葉が出て来ない。


 しかしガダはレントの様子に構わず、同じ調子で言葉を更に続けた。


「引き継いだばかりでこれからが大変ではあろうけれど、他領や国や、あるいは他国を意識した経営を心掛けて欲しいと、コーカデス卿には先輩領主として望む」


 レントは息を吸って姿勢を正し、そこからガダに頭を下げた。


「御教示、ありがとうございます。頂いたお言葉をしかと胸に刻み、精進して参る所存です」

「あ、いや、硬かったかな?顔を上げてくれ。少し先輩風を吹かし過ぎてしまった様だ」


 そう言って照れる様に笑うガダの顔を見て、レントは笑みを返したけれど、その口角は上手く上げられておらず、顔全体に変な力が入ってしまっていた。


 レントから見ると、ガダはレントの祖父リートと同じ世代だ。二人の年齢差など、レントからすればないにも等しい。その二人の態度は似ているが、受ける印象はかなり異なった。

 リートにある真面目さはガダも持っている様に思える。その上でガダには明るさも感じられる。

 そしてそれは、父スルトとバルとの差の理由の様に、レントには思えた。

 そしてつまりそれは、自分とミリの間にもある差の原因ではないかとも、レントは考えてしまう。


 ガダはラーラを受け入れたけれど、リートが同じ立場なら決して受け入れたりはしなかっただろう。

 スルトならラーラを拒否しただろうけれど、バルはラーラを愛した。


 レントは、自分の中に存在するミリへの憧れに付いて、その原因を見付けられた様な気がしていた。

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