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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
50/638

50 したくないのか出来ないのか

「ラーラはそれで良いのかい?」


 ラーラの祖母フェリの質問にラーラは「うん」と答える。

 それを聞いて、ソウサ家の面々はやっぱりそうかと思う。


「それならこの場の意味はあるのか?」


 バルの祖父コードナ侯爵ゴバがラーラに尋ねる。ラーラは肯いた。


「コードナ侯爵家に認めて頂けて、ソウサ家も認めるのでしたら、バル様との結婚を考えます」

「本当に、それで良いのかい?」


 フェリがもう一度尋ねた。

 フェリの強い視線にラーラは少し(ひる)んだけれど、顔を真っ直ぐフェリに向けて「うん」と答えた。

 フェリは「そうかい」と返して、バルと同じ様に少し上を見上げた。


 バルの祖母デドラがラーラに尋ねる。


「バルとの結婚を考えると言うけれど、ラーラは貴族の妻になるつもりですか?それともバルをコードナ家から離籍させるのですか?」

「バル様を平民には致しません。両家の許可が()りたら貴族の妻になる事を考えます」

「ラーラはこれまでに貴族の妻になる為の教育を受けて来たのですか?」

「いいえ」

「貴族の妻として必要なものが簡単に身に付くと考えているのですか?」

「いいえ」

「バルと結婚をするとなってから、それを学ぶのですね?」

「はい」

「それは両家が二人の結婚を許す筈がないと考えた上での判断ですか?」


 ラーラは少し躊躇ってから、正直に「はい」と答えた。


「つまりラーラはバルと結婚をしたくないのですね?」


 ラーラは答を言い淀んだ。

 結婚したいに決まっている。バルを独り占めしたい。

 でも、結婚出来ないに決まっているではないか。


「結婚出来ないと思っています」


 ラーラのその答にこの場には、ラーラが冷静な判断をしていると安堵した者もいた。

 しかしデドラは更に追求する。


「ラーラ。わたくしはラーラがバルと結婚したいのかどうかを訊きました」

「・・・結婚出来ないのですから、私の気持ちは関係ないと思います」

「結婚出来るかどうか。それには、あなたの気持ちと覚悟も影響します」

「え?」

「お待ち下さい」


 ラーラの三兄ヤールが口を挟む。


「デドラ様。いくらなんでも無理です。バル様とラーラが結婚出来る訳ないじゃないですか?ラーラを無駄に傷付ける様な事は仰らないで下さい」

「何故無理なのですか?」

「いや無理でしょう?デドラ様は二人が結婚出来る可能性があるとお考えなのですか?ないですよね?」

「両家が許可すれば問題なく出来ます」

「いやいやいや、両家が許可する可能性がないって言ってるんですよ」

「ソウサ家は許可しないと?」

「当たり前じゃないですか。平民のラーラが貴族の妻になんてなったら、余計な苦労をします。それが分かっていて許可したりしませんよ」

「ラーラがバルとの結婚を望んでいてもですか?」

「え、いや、現にラーラは望んでいませんし」

「望んでいたらどうですか?反対するのですか?」

「だから、ラーラが望んだ所で、結婚なんて無理でしょう?」

「先程から堂々巡りですね」


 デドラは視線をヤールからラーラに移して、改めて尋ねた。


「ラーラ。あなたの気持ちはどうなのですか?それが分からないと結論が大きく異なります。あなたはバルと結婚したいのですか?」


 したいと言ったらさせてくれるのか?


「デドラ様、私はもう純潔ではないのですよ?」

「え?!」


 再びパノが大声を上げて立ち上がる。

 ラーラが(すく)まなかったし、パノにも発言権を与えたから叱責はしないけれど、バルはパノを冷たく睨んだ。

 でも、パノは睨まれている事には気付かない。


「私じゃない!私はラーラさんの誘拐に関わっていない!お祖父様!お祖母様!信じて!」


 話の流れを切る様なパノの叫びに、皆が呆気に取られる。

 最初の挨拶の時のラーラ本人への関心の低さや、ここまでの態度を見ていた誰もが、パノがラーラ誘拐に関わっているなどとは思っていなかった。

 ラーラはこの状況に、パノへの嫌疑を綺麗に晴らす為に、コーハナル侯爵夫妻がパノをこの場に参加させたのだと思った。


「コーハナル侯爵令嬢様。あなた様が誘拐に関わっていらっしゃるとは、わたくしは思っておりません」


 微笑んだラーラに優しい声色でそう告げられて、パノの興奮は少し冷める。

 パノの祖母ピナがパノを座らせる様に腕を引きながら言った。


「パノ。分かっていますから、大丈夫よ」


 祖母に腕を触れられてパノは更に冷静さを取り戻して肯くと、「失礼しました」と全員に詫びて椅子に座り直した。

 そしてパノは、ラーラが純潔を捧げた相手がバルである可能性を思い付く。だから二人の結婚なんて話になっているのかと考えた。


 貴族の場合は半年以上の婚約期間を設けるが、それは女性が妊娠していないかを確かめる為でもある。

 他の男性の子供を妊娠した場合はもちろんだが、婚約相手の子供を妊娠した場合も婚約は解消される。それは婚約相手以外とそう言う関係になっていないとの証明が出来ないからだ。

 婚約後に婚約相手の男性の邸に住み込んで行儀見習いをする事もあるが、それも女性の妊娠の兆候を見逃さない為でもある。少しでも怪しければ婚約期間を伸ばし、妊娠していないかを見極める。


 ラーラが純潔をバルに捧げていたら、その後に他の男性と関係を持っているかも知れない。パノはラーラに関しての悪い噂を思い出して、そう考えた。

 そして自分が誘拐に関わっていると疑われていなかった事にホッとする。

 そうすると先程興奮してしまった事が、とても恥ずかしくなった。

 そんな風に自分の事に気を取られていたので、次に耳に入ったラーラの言葉を理解するのに時間が掛かったけれど、お陰でパノは今度は叫ばなくて済んだ。


「私は妊娠していたら産む積もりです。だからバル様とは結婚出来ません」

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