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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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レントの授爵

 レントとレントの叔母リリが、授爵の為に王宮を訪れる。

 その時点で、レントの父スルトとは連絡が取れていなかった。


 王宮でレントとリリは応接室に通され、そこで声が掛かるまで待つ事になる。


 二人が待機をしていると、部屋にソロン王太子が入室して来た。

 レントとリリは席から立ち上がり、ソロン王太子に向けて王族に対しての礼を取る。


「リリ殿。久し振りだね」


 リリは顔を伏せたまま、ソロン王太子に応えた。


「ご無沙汰致しております。ソロン王太子に置かれましては」

「あ、いい、いい。申し訳ないが、挨拶は端折らせてくれ。顔を上げて。ほら、レント殿も」


 レントは少し戸惑ったが、隣のリリが上半身を起こしたので、自分もソロン王太子に顔を向けた。


「本来ならゆっくりと話をしたいのだけれど、取り敢えず二人の顔を見に来たのだ。だが、今も余り時間がなくて、申し訳ない」


 何か言葉を返すべきかと思ったが、リリが小さく肯いて返すだけだったので、レントもソロン王太子の言葉を遮らない様に注意する。


「今日の式の最中も言葉は交わせないと思うし、式の後も時間が取れないので、またいずれ話をする機会を設けさせて欲しい」

「畏まりました」


 リリに向けてのソロン王太子の言葉に、リリが頭を下げて応えた。

 ソロン王太子はそれに小さく肯いて、レントに目を向ける。


「レント殿、今日はおめでとう」

「ありがとうございます」


 誰かと会ったら祝いの言葉を掛けられるかも知れないと、レントは心の準備をしていた。その為、ソロン王太子にも直ぐに礼を返す事が出来た。


「レント殿とも色々話したいが、お互いに落ち着いてからとさせてくれ」

「畏まりました」


 レントもソロン王太子に頭を下げる。

 レントが頭を上げると、ソロン王太子はもう退室しようとしていた。


「また手紙を書くから」


 その言葉が自分宛か迷ったレントは、中途半端に肯く。隣に立つリリには動きがなかったので、リリとソロン王太子の間には手紙の遣り取りはないのだと分かり、レントがちゃんと返事を返そうと思う時には、ソロン王太子は部屋から出て行ってしまっていた。


「王太子殿下、お忙しそうですね」


 レントの言葉にリリは「そうですね」と肯く。


「学院に通っていらっしゃった頃からお忙しそうでしたけれど、ずっとお忙しいままでいらっしゃるのかも知れませんね」


 レントは小首を傾げた。


「しかし前回お目に掛かった時は、それ程ではなかったのではないかと思います」

「そうなのですか?」

「はい。脱税問題に付いて、まだ対応が完了していないのかも知れません」

「そうですね。全領地に対しての調査ですものね」

「はい。コーカデス領以外にも、実際に脱税があった領地がありましたし、コーカデス領も降爵や領主の交代などでも、きっと王太子殿下にご負担を掛けていますよね」

「そうですね。ですが当主様?それは詫びるべき事ではありませんので、ご注意下さい」

「はい、叔母上。王太子殿下のご負担には、領主としての働きで報いたいと思います」


 レントの返事にリリは微笑みを向ける。


 その様な会話を立ったまましていた二人のもとに、案内されて入って来た人物がいた。

 スルトだ。


「え?父上?」

「ああ」

「いらっしゃっていたのですね?」

「来ると連絡していた筈だ」

「ですが王都に着いてから、どちらにいらっしゃるのか分からず」

「どこにいたって関係ないだろう?こうやって来たのだから、文句を言うな」

「文句ではありませんが」

「今日の式が済んだら、話がある」

「はい。わたくしも父上に話したい事がございます」


 そう言うレントにスルトは、嫌そうな顔を見せるだけで返事はしなかった。


 それから間もなく、係官がレントとリリを呼びに来たが、それまで室内での会話はなく、スルトとリリの兄妹の間では一言も、挨拶さえも交わしていなかった。スルトがリリともレントとも、会話を拒む雰囲気を出していたからだ。



 レントとレントの後見をするリリだけは国王の執務室に喚ばれ、そこで事務的な手続をした。

 執務室に国王はいたが、文官がレント達への説明を行い、レント達と国王の間では特に会話はなく進む。

 文官に指示される通りに、レントとリリが書類にサインをすると、その書類が国王の手元に回され、国王もサインを加えた。


 この国では、爵位や領地の返上には、特に手続きはいらない。新しい領主を任命する事で、前の契約を上書いた扱いになり、それだけで済む。

 それなので、スルトのサインや了解は、この場では不要だ。


 手続が済んで、始めて国王が口を開く。


「これでコーカデス卿は余の臣下だ」


 国王の私的な感じの口調に戸惑ったレントは、ただ「はい」とだけ返した。


「まだ年若いそなたが領地を治めるのは苦労があるだろうが、何かあれば余を頼る様に」


 そう言う国王の優しげな雰囲気にもレントは戸惑い、ただまた「はい」とだけ返す。

 国王は「うむ」とレントに肯くと、笑みを消した顔をリリに向けた。


「リリ」

「はい、国王陛下」

「コーカデス卿を良く助ける様に」

「畏まりました」


 主従で言えば、後見人となったリリも国王の臣下となった事になる。国王からリリへの言葉は命令だった。

 それで言うと、何かあったら頼れと言う、レントへの国王の言葉も命令だった。


 国王は、ソロン王太子から優秀だと聞いているレントには、孫のサニン王子の治世を助けさせたいと思っていた。それなので、何かあったら頼らせて、恩を売っておこうとは考えている。

 ただしそれだけではなく、スルトがレントに爵位を譲る決断をした事に、自分が影響しているかも知れないと国王は感じていた。その責任の様なものも感じており、何かあったらレントを助けてやろう、と国王は思っていた。



 その後レントとリリは別室に通され、そこでまた待機をする。

 次に喚び出された時には、謁見の間に連れて行かれた。


 レントとリリは子爵とその後見人なので、謁見の間にもスムーズに立ち入れる。これが領主の子と領主の妹だと、色々と手続が必要になる。

 その為、授爵式の前に手続きを済ませたのだ。 


 同様の理屈で、スルトは子爵の立場の内に謁見の間に入らされていた。レントが子爵になってからだと、子爵の父を謁見の間に立ち入らせる事が面倒だったからだ。



 謁見の間で、レントとリリが国王の前に片膝を突いて顔を伏せる。


「余はここに、このレントにコーカデス領の領主を命じ、子爵に叙する。コーカデス卿レント」

「はっ、国王陛下」

「その後見人リリ」

「はい、国王陛下」

「国の為に良く努める様に」

「はっ」

「畏まりました」

「国王陛下の臣として、国の繁栄に寄与出来ますように、お預かりした領地を治めていく事を誓います」


 レントのしっかりとした返しに、国王は笑みを零しながら「うむ」と肯いた。

 謁見の間に、参列した人々からの拍手が響く。


 スルトも気持ちの籠もらない拍手をしていた。そして、スルトが鼻で笑って「ふっ」と吐いた息の音は、拍手に紛れて人の耳には届かない。

 ただスルトの口元が歪んだのは見えた筈だ。

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