表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
496/646

不明なスルト

「そう言えば叔母上?父上とはもう何か、お話しになりましたか?」


 レントの問いに、レントの叔母リリは小首を傾げた。


「当主様の父君(ちちぎみ)ですか?」

「え?ええ」


 リリの反応にレントは少し戸惑う。


「この宿には泊まっていらっしゃらないとの事ですが」

「え?そうなのですか?」


 レントは更に戸惑った。


「宿の方にはそう聞きましたが、当主様には宿の変更なりの連絡が父君から行ってはいないのですか?」

「え?ええ。宿を変えたのでしょうか?」


 困惑顔でそう訊くレントに、リリも困惑顔を返す。


「わたくしが聞いた話では、父君は前回王都にいらした時を最後に、こちらの宿には泊まっていらっしゃらないそうです」

「もしかして、家の格が下がりましたから、宿の格も下げたのでしょうか?」


 首を傾げるレントの意見に、リリは肯く事は出来なかった。リリはレントの父であり自分の兄であるスルトの事を良くは知らないが、自らその様な判断をするタイプではなかった様に思える。そしてたとえ宿の格を下げる事を使用人に勧められたとしても、それにスルトが肯くイメージがリリには持てなかった。


「入れ違いで領地にお戻りになったとか?」


 リリの推測にレントは、「う~ん」と唸りながら更に首を傾げる。


「王都に残るとの連絡がありましたし、途中で父上の馬車との擦れ違いもありませんでした。叔母上も父上とは擦れ違ってはいませんよね?」

「ええ」


 リリが擦れ違っているのに気付いていたら、始めからそう言うだろうとは思いながらも、レントは念の為に尋ねた。

 レントは宿には泊まらずに王都まで野宿を重ねて来ていたので、擦れ違ったのだとしたら自分の方かも知れないとレントは考える。


 ちなみにレントに同行した護衛は、漁村で兄役をした二人だけだった。

 王都に来るまで野宿だし、食料に干物を持って来ていたりしたのだが、レントも含め三人は道程をかなり楽しんだ。

 レントに取っては現実逃避気味での、良い気晴らしとなっていた。


 レントはスルトの行方を捜すのに、馬車クラブを使う事を思い付く。

 しかしコーカデス領の馬車クラブではミリが、無料でスルトの馬車の情報をレントに提供する様に手配してくれていたが、王都の馬車クラブではそうではないと思える。そうなのかそうではないのか、ミリに訊きに行くのも恥ずかしい気がするし、そうではないとなった時に、調査を断るのも恥ずかしい。

 それにスルトの居場所が分かったとしても、国王との謁見にスルトを喚んでも間に合わないかも知れない。


「父君の同席は必須ではありませんけれど」


 リリの言葉にレントは「ええ」と肯いた。


「わたくしを後見して下さる叔母上には、同行して頂く必要はありますが」


 リリも「そうですね」と肯き返し、「ですが」と続ける。


「前領主が亡くなってしまって、それから爵位を引き嗣ぐ事は多いので、必須ではありませんけれど」

「はい。前領主が存命で健康にも問題がない場合は、同席するのが通例ですね」

「ええ。そうなのですよね」


 レントの祖父リートからスルトに爵位を譲った時も、リートも同席していた。

 それもあってリリもレントも、スルトが姿を現さない事などは考えてもいなかった。

 リリはその場合の影響を考えようとしたけれど、どこから考えたら良いのかパッと思い付かず、思考が空回りをしてしまう。

 どこから考えたら良いのか分からないのはレントも同じではあったが、レントは直ぐに考えるのを()めた。


「考えていても仕方ありませんから、父上は来ないものとして、それで良しとしましょう」

「でも当主様」

「いいえ、大丈夫です」

「ですが」

「叔母上?わたくしが領主を嗣ぐ事自体と、授爵の場に前領主が欠席するのと、どちらが大事(おおごと)だと思いますか?」

「それは・・・そうですわね」

「ええ。領主を嗣ぐ事に比べたら、父上が同席しない事など、大した事ではありません」


 レントの意識した明るい声に、リリも「そうですね」と明るく返す。


「父君がいらっしゃらなくても、あるいはいらっしゃっても、授爵式は滞りなく進みますものね」


 リリは、子供のレントに全てを背負わせる様な決断をしたスルトなら、いない方が良いかも知れないと思い始めた。もしかしたらスルトがその場にいたら、何か問題を増やすかも知れない。

 リリと同じ様な事を考えていたレントも、また明るい声で「ええ」と返す。


 ただし、コーカデス領の邸に戻ってからが大変そうだとレントは思った。

 授爵の場にスルトが立ち会わなかった事に付いて、祖父母と父親との間できっと、言い合いになるだろう。もしかしたら、祖父と父は掴み合いになるかも知れない。

 それを仲裁しなければならないのは気が重いから、レントはスルトに出て来て欲しいとは思っていた。

 だが、それだけだった。


 スルトはこれまでも、最近はしばしば行方が分からなくなっていた。

 まさかこの様な大事の前の時にも、スルトと連絡が付かない状態になるとは、レントは思ってもいなかった。

 しかし自分で口にした言葉に、レントは納得もいっていた。

 領主を嗣ぐ事に比べたら、大した事ではない。


 レントは、スルトが持ち歩いている還付金の事も含め、スルトに関しては悪い状況を想定しておく事をデフォルトとする事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ