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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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力を借りる事

「叔母上。わたくしの考えを聞いて頂けますか?」


 レントは叔母リリの両手を握ったまま、真剣な表情をリリに向ける。


「・・・ええ、もちろんです。何に付いての考えなのですか?」


 リリは少し首を後ろに引き、僅かにレントから顔を離した。


「わたくしは領地の復活に関して、ソロン王太子殿下とミリ・コードナ様の力を借りようと思っているのです」


 リリは僅かに目を見開く。

 レントとソロン王太子とミリが遣り取りをしている事は、リリも知っていた。


「ソロン王太子殿下は、確かにお力をお貸し下さるかと思います」


 リリの言葉にレントは肯く。


 コーカデス領が復活して繁栄する事は、国に取っても利益になる。ソロン王太子がそれに助力してくれる事は、リリが知っているソロン王太子のイメージからも、当然あり得る事だとリリは考えた。

 ソロン王太子は優秀な人間が好きでもあるから、叔母としての欲目も教師としての欲目も抜いても、優秀に育ったと思えるレントをソロン王太子が気に()ってはいるのだろうと、リリは思っている。二人の間に遣り取りが続いていた事でもそれは分かる。


「しかし、ミリ・コードナ様はどうなのでしょう?」


 レントの父スルトが爵位を継いだ時に直ぐに、コーカデス家が王宮に示していたラーラを貴族として認めないとの訴えは取り下げ、ソウサ商会への広域事業者特別税も停止したのに、ソウサ商会は撤退したままコーカデス領には戻って来てはいなかった。それはまだソウサ家の人間が、コーカデス家に恨みを(いだ)いている証拠にリリには思える。

 そしてコードナ侯爵家の人間が態度を和らげたと言っても、それはレント・コーカデス個人に対してだ。

 今後はレントはコーカデス領の領主、またはコーカデス家の当主として、コードナ侯爵家の人間と接する事になる。

 本人に対しての好悪は、家の都合で抑えるのが貴族だ。嫌いな相手を助けなければならない事はあるし、好意を寄せている相手と敵対しなければならない事も当然ある。リリもレントにそう教育をしている。


 リリはレントの為になら、コードナ侯爵家にもコーハナル侯爵家にも頭を下げる積もりではあるが、それで両家が昔の様な付き合いをしてくれるとは思ってはいなかった。

 リリが頭を下げるのは、リリが頭を下げない事をレントの弱点として、両家に攻撃させない為だ。


「ミリ・コードナ様が当主様に力を貸す理由はありません」


 そんな事はレントも分かっているとは思いながらも、リリは口にせずにはいられなかった。


「ミリ・コードナ様が領地に来た時に、当主様に親しげにしていた話は聞きました」


 リリの言葉にレントは眉を上げる。しかし否定の言葉はなく、レントはリリの言葉の続きを待った。


「しかしだからと言って、当主様を善意で手助けするかと言ったら、その様な事は決してありません」


 リリの強い視線と語調での断定に、レントは小首を傾げる。


「そうでしょうか?」


 リリは「ええ」と強く肯いた。


「ミリ・コードナ様も貴族家で育ったのですから、絶対にあり得ません」


 レントは首を戻す。


「善意かどうかはともかく、ミリ・コードナ様に手助けはして頂けると、わたくしは思っています」

「つまりミリ・コードナ様は、取引として手助けをすると、当主様は思っているのですね?」


 レントは「う~ん」と小さく唸った。


「取引と言うとあれですが、ミリ・コードナ様にも利点がなければならないとは考えています」

「その対価に何が求められるのか、当主様には見当が付いていらっしゃるのですか?」

「ええ、ある程度は」


 自信があるとも見えるレントの態度に、リリには嫌な考えが脳裏を(よぎ)る。


「それはまさか、当主様?ソウサ商会を優遇して、領地での活動を後押しする等ではありませんよね?」

「それに近い事も考えてはいます」


 リリは食い気味に「なりません」と、前のめり気味になって体をレントに寄せた。


「領主様。ソウサ商会が領内で商行為をする事を認めるだけで良いのです。それ以上は、領地に残っている商会が離れて行ってしまいます。そうなれば領内の物流は、ソウサ商会に牛耳られてしまいます」


 声の強さと高さはいつも通りだが、口調が幾分早く畳み込む様なリリに、レントは体を少し引く。


「それは分かっています」

「分かっていらっしゃる?本当に、分かっていらっしゃるのですか?」


 リリに手を引かれ、レントは体を持って行かれない様に肘を伸ばした。


「わたくしは叔母上に教育をして頂きました。もちろん、分かっております」

「それなら当主様は、ソウサ商会に流通を掌握されても良いと考えているのですね?」


 レントは「いいえ」と首を左右に振る。


「わたくしが考えていますのは、ミリ・コードナ様に領地開発の為の投資をお願いする事です」


 投資の単語にリリは強く反応した。


「投資と言う事は、利益が出ても奪われる事になるではありませんか」

「さすがに全て奪って行ったりはしないでしょうけれど」

「分かりません。ミリ・コードナ様は商家の血筋。利益には貪欲なのではありませんか?」

「そうかも知れませんが」

「それなら何故?上手くいったらあれこれ奪われ、上手くいかなかったら損だけを押し付けられる事になりますよ?」

「その恐れはありますけれど、わたくしの考えは少し異なります」

「・・・当主様には、そうならない方策があると言うのですか?」

「方策と言いますか、叔母上は、ミリ・コードナ様が曾祖母君(そうそぼぎみ)のデドラ・コードナ様に教育を受けていらっしゃったのはご存知ですね?」


 レントの話題転換に、リリには嫌な予感がする。

 レントが何かを仕掛けて来るかも知れないとリリには思えた。

 リリにはレントにこの様な手法を教えた覚えがあった。

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