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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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王都に向かう前に

 レントは手紙を捜し、謹慎中に自分が書いた手紙は全て燃やされている事を知る。

 それはミリから送られて来た手紙も同じだ。執務机の上に置いておいた開封済みの物と、後から届いた未開封の物が燃やされていた。過去に届いた秘密の遣り取りが記されていた物は、別にしまってあったので無事だったが、後からの物にはどの様な内容が書かれていたのかは分からなかった。

 その様な状況の中、ソロン王太子からの手紙は使用人が隠して取っておいてあった。使用人達も王族が書いた手紙を燃やす事は出来なかったし、レントの父スルトに見付かったらそれから燃やすのでも良いと言う事にしていたのだった。

 レントはソロン王太子からの手紙を読んで、ソロン王太子に届けて貰う手紙を書き直して、ソロン王太子の使者に渡した。

 ミリ宛てに書いていた手紙もあったが、今ならちゃんと届く筈なので、こちらは自分で郵送する事にした。



 レントは叔母リリ・コーカデスに、先に王都に向かう様に依頼をする。

 リリは先に馬車で、レントは後から騎馬で王都に向かい、王都で待ち合わせる積もりだ。

 リリの王都行きはレントの後見人を引き受けてから急に決まった事なので、準備をするところから始まって、出発までには時間が掛かる。

 レントの授爵の報せとその為の召喚状を持って来た使者は、レントとリリが王都に到着する予定を把握してから、その情報を持ってコーカデス領を後にした。


 レントの祖母セリもリリに付いて王都に行くと主張したが、それをリリは断った。


「お母様。お母様が一緒となると、王都の往復の費用が余計に掛かります」

「余計とは何ですか?必要なお金ではないの」

「いいえ。お母様が行かなければ掛からない費用です。これからもコーカデスには色々な事が起こると思いますが、その時にお金がないと苦労するのは当主様ですよ?」

「それは分かっているけれど、レントはあなたと一緒に行かないって言うし、あなた一人では不用心じゃないの」

「お母様に付いて来て貰えるなら私も心強いですけれど、お母様?私も当主様の後見を任せて頂ける様な、もう()い大人なのです。大丈夫ですので、王都には一人で行かせて下さい」


 そう言って譲らないリリに、セリは折れた。

 しかしその代わりだと言う様に、色々と持たせようとして、セリはリリの荷物を増やさせた。


 そしてリリは予定より早く、レントの祖父リートとセリの見送りがないまま、荷物の多くを置き忘れる事にして、コーカデス邸を出発する。


「叔母上。よろしいのですか?」


 レントは置き去りにされる荷物を見ながら、リリに尋ねる。


「ええ、当主様。構いません。何台もの馬車は不要です。泊まる度に晩餐会に参加する訳ではないのですから、国王陛下の前に出られる服装と、馬車での移動中に着る服があれば、他は不要です」

「ですが、付き人も連れて行かないなんて」

「パーティーに出るのではありません。大抵の事は自分で出来ますし、使用人もいます。拝謁の時は宿で人を手配して貰って支度をしますから、問題ありません」

「そうは仰いますが」

「今の王都の装い等も分かりませんから、宿で人を頼む方が却って良いと思います」

「・・・分かりました」


 リリが荷物を少なくするのも同行者を減らすのも、移動費を節約する為である事はレントも分かっていた。


「護衛もこれ程要りませんのに」


 リリに同行する護衛達に目をやってのリリの言葉に、レントは「そうは行きません」と首を左右に振る。


「王都への道程に慣れている護衛達は、今は父上と共に王都にいます。叔母上に万が一があって後見をしていただけなくなりでもしたら、わたくしが困りますので」

「そうですか?分かりました。お気遣い、ありがとうございます、当主様」

「いいえ。自分の為ですから」


 また首を左右に振るレントに、リリは微笑みを向けた。

 レントは微笑みを作って返しながら、リリに手を差し出す。

 リリはレントのエスコートを受けて、馬車に乗り込んだ。


「それでは当主様、先に参ります」

「はい、叔母上。王都で会いましょう」


 馬車の中で会釈するリリにレントは手を振る。


 遠離る馬車を見送りながら、リリを送り出した事でもう後戻りは出来ないのだと、レントは強く感じた。


 改めて決意を固めたレントの最初の仕事は、リリを見送れなかった事に憤るセリとリートを宥める事だった。



 レントは自分が出発するまでに、やれる事は全てやっておく積もりだった。

 ただし、コーカデス家の当主には既になったけれど、まだコーカデス領の領主ではない。領主になるのは国王に任命されてからだ。

 それなので、レントが町長達に与えた処罰をスルトが取り消している事に対応するのは、王都から戻ってからではなければ出来ない。スルトに謹慎させられた時に、領主代理の権限も剥奪されているからだ。

 レントは取り敢えず出来る事として、謹慎中に作られた書類や帳簿の確認を行った。


 コーカデス家の収支を確認したけれど、レントは軽い眩暈を感じただけで済んだ。

 続いてコーカデス領の書類なども確認する。領主代理の権限はもうないが、そもそも領主代理を命じられる前から領政を手伝っていたので、書類等を見ても問題ない、とレントは考えている。

 レントの謹慎中にスルトは、それ程政務を熟してはいなかった。それなので町長を解放したり修正申告をしたり以外では書類もそれ程多くはなく、レントは直ぐに確認が出来た。

 そしてコーカデス領の収支を出納帳で確認するが、ある筈の記載がない。

 レントは領の資産管理をする文官に確認をするが、国から還付された税金に付いて、スルトから報告がされていなかった。町長達の脱税分を肩代わりして、納税した事に付いても報告されていない。

 それどころか、遡って計上した筈の開発費に付いても、コーカデス領の帳簿には記載されていなかった。

 通常であれば、修正申告が認められたら開発費を領地の帳簿に計上するし、その結果還付された税金も記帳しなければならない。

 それがないのだとしたら、還付金はどこにあると言うのか?


 レントは花瓶が頭に当たった時の様な、強い眩暈を覚えた。

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