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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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リリの役目

 レントは叔母リリを執務室に招いた。執務室では祖父リートと祖母セリも同席する。


「お父様、お母様、お久しぶりでございます。レント殿も、父君(ちちぎみ)の許可が下りたのですね」

「いいや」

「違うのよ」

「お久しぶりでございます、叔母上。先ずはお座り下さい」


 レントは立ち上がり、祖父母が掛けているソファの向かいの席をリリに手で示した。


 リリは、リートとセリがいるのにレントが上座に座っていて、自分の喚び出しもレントの名だったし、この場の進行もレントが進める様子である事に、違和感を抱いた。

 真っ先に頭に浮かんだ想定に、その可能性はないとリリは心の中で否定する。

 しかし他に、レントが礼儀作法にそぐわない行いをしている事に対して、リリは理由を見出せなかった。


 僅かに躊躇はしたけれど、リリはレントの勧めに従ってソファに座る。

 リリが腰を下ろしてから、レントはそのまま上座に腰を下ろした。


「父上の謹慎命令の中、叔母上には王宮からの使者の応対をして頂き、ありがとうございました」


 頭を下げるレントにリリは「いいえ」と返す。しかしレントの父スルトが原因なのにレントが礼を言う事にも、やはりリリには違和感があった。


「先ずはこちらを御覧下さい」


 レントは一枚の紙をリリの前に置く。


「父上はわたくしに、当主の座を譲りました」

「え?・・・」


 予想の中にはあったけれど、自分で否定していた状況に、リリは現実感が持てなかった。まるで夢の中で、こうなったら大変だと思った事態に陥る時の様な、自分の感情を揺さ振る為に用意された筋書きの様にリリには感じられる。

 しかしレントが示した紙には、確かにレントが言う通りの内容が書かれ、スルトのサインがなされていた。

 状況は分かった。けれど理由が分からない。


 リリはリートを見てセリを見て、レントを見てからまたリートを見た。自分の疑問を誰に()つけて良いのか分からず、取り敢えず先代、いや、先々代当主でありスルトの父でもあるリートに向けてみる。


「どう言う事なのです?一体何が?」

「叔母上。あと二件ございます」


 言葉を掛けられ、リリはリートの苦い顔からレントに視線を向けた。

 真面目な表情のレントの目には強い意志が感じられる。その様子にリリは、レントが状況をしっかりと把握している上に対応も始めている事を見て取った。


「二件ですか?」

「はい。こちらとこちらになります」


 レントがテーブルの上に書状や書類を並べる。


「コーカデス領が子爵領となり、わたくしが領主となる事を国王陛下がお認めになりました」

「・・・え?」


 これはリリは想定していなかった。

 レントが提示した書状等に、リリは目を通していく。


「時系列としては最初に、脱税問題に対して父上が行った修正申告で、数年に渡って伯爵領として必要な納税額に届かなかった事となり、コーカデス領が子爵領となりました。その為に父上は子爵に降爵し、そして領主と当主の座をわたくしに譲った模様です」

「脱税問題?」

「はい」

「父君は脱税をしていたのですか?」

「あ!いいえ。父上ではありません。領地内で密造が行われており、その分の収益が申告されておりませんでした。それは父上もご存知なかった筈です」

「そうなのですね」

「はい」

「その申告をしたとして、それがなぜ、コーカデス領の納税額が減ると言う話になるのですか?」

「それはソロン王太子殿下が伝えて下さったこちらに経緯が載っていますが、父上はこれまで申告していなかった開発費を修正申告し、それによってコーカデス領として税金の還付を受け、その還付金と密造での追加納税額を相殺したのです」

「でもその様な事をしたら・・・数年分の還付を受けて、数年分の納税額が不足となり、即座に子爵に降爵された、と言う事なのですね」

「はい」


 リリは顔を少し伏せて、テーブルの上の資料等に視線を向けた。


「スルト兄様・・・何をしているのです」


 リリの呟きはレントもリートもセリも聞き取ったが、誰も何も返さない。ただし、三人ともリリと同じ気持ちだった。


 リリは顔を上げてレントを見る。


「レント殿は、領主も当主も引き受けるのですね?」

「はい、叔母上」

「そうですか。就任、おめでとうございます、当主様」

「あ、はい。あ、いえ、今まで通り、レントとお呼び下さい」

「そうはいきません。それに王宮で授爵したら、コーカデス閣下とお呼びしなければ」


 リリに微笑まれて慌てるレントの姿に、リートもセリも笑みを漏らした。


 リリは表情を引き締めると、リートに顔を向けた。


「ですが当主様はまだ未成年ですから、後見人が必要ですね?それはどなたにお願いするのですか?」

「それは」


 リートはレントを見る。自分でリリに頼むと言っていたので、リートはレントに言葉を譲ろうとした。

 それに気付いたレントが声を出す。


「わたくしの後見を叔母上にお願いしたいと考えています」

「え?・・・わたくしに?」

「はい」

「わたくしでもよろしいのですか?」

「はい。是非、お願いしたいのですが、いかがでしょうか?」


 困惑を顔に浮かべたリリがリートとセリを見ると、二人はリリに肯き返した。

 リリは更に困惑を深め、レントに視線を戻す。


「わたくしを後見人にするのは、正式な後見人が見付かるまで、と言う事ですか?」

「え?いいえ」


 レントは首を小さく早く左右に振った。


「わたくしが成人するまで、叔母上に後見して頂きたいのですが、何かご都合がございますか?」

「わたくしの都合と言うよりは、当主様の都合になるかと思うのですが」

「はい?」

「当主様が成人するまで、わたくしを結婚させない事になりますが、大丈夫ですか?」

「・・・え?」


 リリの言葉の意味を理解して、レントは目を大きく見開く。リートもセリもレントと同じ様な表情を浮かべた。

 確かにリリが結婚しても、そのまま後見人を続ける事は出来る。しかしそれは、リリが婿を迎える様な場合で、多分離れでそのまま夫と暮らす事にはなるのだろうが、結婚後もリリがコーカデス家に残る場合だ。


「あの、いえ、それは、考えておりませんでした。申し訳ございません」

「いいえ。申し訳ない事はありませんが、当主様が使える手が一つなくなりますので、考慮はして頂いた方がよろしいかと思います」

「使える手ですか?」

「ええ。適齢期は過ぎておりますが、年齢的にはまだ子供は望めます。我が家で婚姻に拠る縁を繋ぐとしたら、現時点ではわたくしだけです。当主様がわたくしをその様に使う時には、改めて新しい後見人を用意するのでも良いのですが、その時にわたくしの縁談相手と後見人の両方を一緒に揃えて探すのは難しいかと思いますので」


 そう言って微笑むリリに、レントは言葉を返せない。


「当主様の曾祖父君(そうそふぎみ)祖父君(そふぎみ)も父君も、わたくしの婚姻を使う事をなさりませんでしたし、この歳になりましたから更に使い勝手は悪いとは思いますが、それでも後見人としてよりは、当主様のお役に立てるのではないかとは思っております」


 レントは擦れる声で「いいえ」とだけ返すが、その後は言うべき言葉が浮かばずに、顔を伏せて目を伏せて、レントはただ何度も首を左右に振った。

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