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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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修正手続の完了

 脱税問題の相談がピークを迎えると、忙しさでミリはレントに手紙も送れなくなっていた。


 そしてその忙しさを理由にミリは、コードナ邸で朝食を摂る事を()めていた。

 移動距離は大した事はないが、それでも午前中の時間が大分(だいぶ)潰れてしまう。その時間をミリは惜しみ、ミリの働き過ぎを心配していたバルとラーラも許したのだ。

 それなのでミリは一日中、邸から出ずに過ごしていた。

 そこには危険を避ける意味もあった。


 相談者の中には勘違いをして、ミリに税金の減額を頼んだりする家があった。中には脅してミリに言う事をきかせようとする者もいる。ミリには納税額を決める権限などないのだけれど相手も必死だから、ミリに縋り付いたり食い掛かったり噛み付いて来たりする。

 そうすると、移動中に狙われたりする可能性も出て来た為、ミリの安全を考えて、コードナ邸でバルとラーラと一緒に朝食を摂る事は中止する事になった。その代わりに一緒に食事を摂るのなら、バルとラーラがミリの所に来る様になっている。


 その様にしてミリが一日中を過ごす邸はもちろん、ミリのモチベーションの源となるディリオがいるコーハナル侯爵邸であった。



 レントは父スルトからの謹慎命令に拠って外の情報を掴めなかったが、唯一、スルトの馬車の位置情報だけは知る事が出来ていた。

 それはコーカデス伯爵領の馬車クラブの担当者に買収された使用人が、レントに情報を運んでいたからだ。


 王宮からコーカデス伯爵であるスルトへの書簡が届いた時も、レントはスルトの馬車の位置を知っていた。

 しかしレントがスルトの行方を分かりそうな事は、コーカデス家の使用人達は誰も知らない。馬車クラブの担当者に買収されていた使用人も、レントにどの様な情報を渡しているのか、内容は知らないでいたからだ。

 そして謹慎中のレントも当然、王宮から書簡が届いた事を知らない。


 コーカデス伯爵家の使用人達は、スルトの立ち寄りそうなところに次々と連絡員を送る。そしてスルトを見付けると、王宮から書簡が来ている事を伝えた。


 スルトは領都のコーカデス伯爵邸に戻ると、書簡の内容を確認した。

 それはコーカデス伯爵に対しての、王都への召喚状だった。

 スルトはコーカデス伯爵邸から出発するがまたしても、レントもレントの祖父リートも祖母セリに対しても軟禁状態から解放しないまま、スルトは王都へと向かう。

 スルトは、前回王都に行った時に連れて行った女性を今回も、王都行きの馬車に同乗させた。


 スルトが領都に戻った事と、続いて王都に向けて出発した事をレントが知るのは、馬車クラブからの情報からだった。



 スルトがコーカデス伯爵領の領都を出た頃には、ミリの生活も落ち着いていた。

 ミリに相談を持ち掛けていた貴族家は、王宮への報告を済ませていたからだ。


 コーカデス伯爵領と同様の問題があった領は最終的に、レントが原案を出した投資扱いで代理納税の方式を採用する事で収まっていた。


 そして脱税問題の相談が一段落すると、ミリはコーカデス伯爵領の情報がまだ公開されていない事に、遅ればせながら気が付いた。

 ミリは、レントが前以て対応の用意をしていると考えていた。それなのでコーカデス伯爵領の対応が他領より遅れている様に思える事は、ミリには不思議だった。

 それはもしかしたら、やはりコーカデス伯爵領の郵便事情に原因があるのかも知れない。

 そう考えたミリは、脱税問題が忙しくなり過ぎた時に馬車クラブの担当者達に任せ、自分は外れていたコーカデス伯爵領の郵便事情に付いての調査に戻る事にする。


 やがて馬車クラブの担当者から、コーカデス伯爵の馬車が王都に来ているとの情報が入った。

 馬車なので、馬車が苦手なレントは一緒ではないだろうとは思えたけれど、脱税問題に関しての王都来訪だと、ミリは推測する。

 それなのでミリは、レントが相手なのかコーカデス伯爵に対してなのかは分からないけれど、ソロン王太子が気に掛けていた通達なり遣り取りなりは出来たのだろうと考えて、コーカデス伯爵領の郵便事情調査を中止した。

 意外な事に、中々進まない調査に疲れていた筈の馬車クラブの担当者達は、調査中止を喜ぶどころか残念がっている様にミリには感じられた。



 謁見室で、スルトは国王を前にする。

 国王の隣にはソロン王太子もいたが、それ以外には少数の人間しか室内にはいない。

 それほど広くない謁見室は、人数が少ない所為か、少し空気が冷たい様にスルトには感じられた。


 スルトが提出した納税申告の訂正申請書類を指で叩きながら、国王がスルトに尋ねる。


「コーカデス伯爵。この訂正申請は間違えではないのか?」

「いいえ、国王陛下。これは間違いではございません」

「すると卿はこの書類の通りに、修正申告を申請すると言うのだな?」

「はい。その通りでございます」

「この通りなら国からコーカデス伯爵領に対し、税金の還付も行わなければならない」

「はい」

「それを卿は分かっていると言うのだな?」

「はい。もちろんでございます」


 スルトは国王に答えながら、分かっているしその積もりだからこそ修正を申告するのではないか、と考えていた。

 わざわざ国王が謁見しているのはスルトに圧力を掛けて、修正申告を取り下げさせて還付をしなくて済む様にしたいのか、としかスルトには思えない。

 しかしそう思ってもスルトに取っては、修正申告を取り下げるなどと言う事は出来ない相談であった。

 法に則った手続きなのだから、たとえ国王でも勝手に覆す事は出来ない。そしてコーカデス伯爵領に取っても、密造と脱税の問題を解決するのに、これ以上の手段はないとスルトは信じていた。


「還付の額も、法に定められている範囲で、卿の提出した資料の通りとなる」


 修正申告が法に則っていると、国王が認めたのだとスルトは思った。


「この通りなら年数も遡って、還付を行う事になるが、卿もそれを望むのだな?」

「もちろんでございます。法に則った申請と信じておりますので、法に則った対応をして頂く事が、わたくしの望む所でございます」


 室内に文官が議事を取るペンの音だけが響く。


 その音が止まるのを聞いてから、国王はソロン王太子にチラリと視線を送った。

 ソロン王太子が国王に小さく肯くと、国王も小さく肯き返す。


 国王はスルトを見た。その目には感情は特に現れていない様にスルトには見えた。


「あい分かった。卿の望む通り、この申請の通りに受理をしよう」

「御高配、感謝致します」


 スルトは、法に則った手続きなのに、国王に感謝を述べるのもおかしい話だと思いながらも、国王に向けて頭を下げた。



 その後、スルトが王都で土産を買ったり、一緒に連れて来た女性とデートをしたりしている間に、コーカデス伯爵領への税金還付の手続きが完了した。


 それによってコーカデス伯爵領は数年間に渡り、経費を少なく申告していた為に必要以上の納税を行っていた事となり、その税金が王宮から還付される。実際には、脱税等で納付する金額と相殺した残りの金額が、スルトに手渡された。

 そしてそれは同時に、コーカデス伯爵領が納めていた税金が数年に渡り、伯爵領として最低限必要な金額を満たせていなかった事が、確定した事を示す。



 早速スルトは還付された税金の一部を使って宝飾品を買い、それを同行した女性に贈った。

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