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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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修正申請の裏で

 父スルトに謹慎を言い渡されて部屋から出る事を禁じられたレントは、他に何もする事がなかった。

 唯一出来たのは、自室内でのトレーニングだ。


 ただし、唯一と言ってもその内容は様々だ。

 筋力や柔軟さを上げる基礎的なトレーニングや、軽業や剣などの訓練も自室で続けていた。

 また肉を捌く練習なども行っていた。自室からは出られないので調理場などではなく、練習を行うのは部屋の浴室だ。本当は魚を捌くのも練習したかったが、生魚は手に入らないと使用人に言われてしまえば仕方がない。

 そして利き手と同じ様に利かん手を鍛えたりもしていた。


 レントはダンスレッスンも行ったが、普段レントにダンスを教えている叔母リリ・コーカデスがレントのもとに赴く事は、スルトが許さなかった。

 また使用人達もレントとの会話は、必要最低限に制限されていた。

 レントの祖父リートと祖母セリも自室に軟禁されていて、レントに会いには来られなかった為、レントの耳には外の情報が入らなかった。


 手紙もそうだ。

 レントが書いた手紙は使用人が受け取るが、スルトの指示でそのまま捨てられた。

 当然、レント宛の手紙も捨てられている。

 ソロン王太子が中身を読む事を禁じた、ソロン王太子とレントとミリの三人の間で遣り取りされる手紙も、スルトは一律捨てる事を使用人に命じていた。それは読まずに捨てているので、禁止されていた中身を読む事に付いては、命令を破ってはいないとの理屈だった。


 そしてスルトはその状態のまま、レントもリートもセリも軟禁状態に置いたまま、領都を出て視察に向かった。



 ソロン王太子はレントに送った手紙に、返信が来ない事を不思議に思っていた。

 コーカデス伯爵領との通信には、これまでも時間が掛かる事はあった。もちろん郵便事故の可能性もある。

 しかし気になったソロン王太子は、レントと遣り取りが出来ているのかに付いてミリに尋ねた。


 ソロン王太子に訊かれても、レントからミリにはしばらく手紙が来ていない。

 ミリからは相変わらず、それ程日を置かずにディリオの愛おしさに付いての手紙を送っているが、それを始めてからはレントからは滅多に手紙が来なくなっていた。

 しかしそれはレントが忙しい所為だと思って、ミリは少しも気にしていなかった。コーカデス伯爵領は密造と脱税の問題を抱え、レントもその対応を行っている筈だから、落ち着いて手紙を書いたり出来ないだろう、とミリは思っていた。

 コーカデス伯爵領への投資話に付いては、バルとラーラの許可が下りていたので、詳細に付いて話したいとミリからレントに返事を出していた。しかしそれも脱税問題が片付いてからだろうとミリは考えている。それなのでレントから何の反応もない事も、ミリは全く気にしていなかった。

 ディリオの愛らしさを伝える事で、忙しいレントの心の安らぎになれば良いな、などとミリは呑気に考えていた。


 そのミリも、ディリオを愛でる時間が減り始めていた。


 各領での密造や脱税の有無に関しての調査が進み、その報告を王宮にする前に、コーハナル侯爵を通してミリに、確認して欲しいとの依頼が相継いだ。

 最初は侯爵六家とそれには(くみ)する家からだったので、柵みもある為、ミリも引き受けていた。

 しかしその内、密造や脱税が疑われる事態が見付かった領地から、どちらなのか意見が欲しいとの依頼が舞い込む。

 ミリの戸籍上の伯父に当たるコーハナル侯爵ラーダからは、それらに対応する事を勧められた。ディリオの母チリン元王女も、対応して恩を売るべきだとミリに勧める。周囲の者達も、ミリの出自と将来の事を考えて、対応した方がミリの為には良いと判断していた。


 王都にはニッキ王太子妃とサニン王子が帰って来ていた。

 そして貴族達の間には王都での社交が、王妃とニッキ王太子妃を中心として再開されるとの噂が流れていた。それは脱税問題が片付いてからだろうとは思われている。

 その社交再開に先立って、他家に対してミリの名で売れる恩は売れるだけ売った方が良い、と言うのがミリの周囲の人間の総意だった。


 ミリも、自分への影響はピンと来てはいなかったが、コーハナル侯爵家を通す事や、コードナ侯爵家の名前を出せる事で、両家の役に立てるとは考えていた。


 その為にミリは、幾つもの家から相談を受け、対応に付いてのアドバイスを求められれば応えていた。

 その数は徐々に増えていく。

 そして後から来る相談ほど調査に時間が掛かっている物になり、それだけ複雑で、対処の面倒な物が増えていった。

 さすがに、ラーラに対して今も度々何かと非難を漏らす事のある、公爵三家とそれに与する家からの依頼は来なかった。しかしそれ以外では、コーハナル侯爵家やコードナ侯爵家に好意的な家はもちろん、普段は中立を保つ王家派の家からも相談が寄せられた。



 そんなミリにソロン王太子からまた、レントと連絡が取れているのかの確認が来た。

 ミリは思い付いて馬車クラブに、コーカデス伯爵領と王都の間の物流が滞っているかどうかの調査を依頼する。速達は騎馬で運ばれるが、通常の手紙は馬車で届けられるので、馬車の動きを確認すれば、郵便に問題があるなら何か分かるかも知れないと考えたからだ。

 しかし馬車クラブも、どの馬車がどこにいるかの情報は持っているが、それが正しい動きなのかは分からない。

 無茶振りの自覚があったミリも、馬車クラブの担当者達と一緒になって、馬車の移動情報の解析をした。


 そして問題の有無の答えをミリと馬車クラブが見付ける前に、コーカデス伯爵領から郵便が届いた。

 脱税対応の為にスルトが送付した、コーカデス伯爵領の納税申告の修正申請が、王宮に届いたのだ。


 その内容に目を通したソロン王太子は直ぐさま国王に進言し、コーカデス伯爵領の申告の処理を後回しにする事を文官に指示した。そしてその内容を機密として箝口令も敷いた。

 それは同様の問題を持つ他領が、コーカデス伯爵領の真似をする事を回避する為だった。

 それなのでソロン王太子は、スルトからの申請があった事について、ミリにも伝える事はなかった。


 ミリはコーカデス伯爵領から馬車が到着した事は馬車クラブの情報から掴んだが、それがスルトの申請書を運んだ事は知らずに、引き続き郵便事情に付いて問題がないかどうか、どうしたらそれを調べられるのか、馬車クラブの担当者達と一緒に頭を悩ませていた。

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