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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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スルトの方針

 レントの父スルトは、執務机の上に山の様に積まれた手紙を見た。

 一番上の一通を手に取るとそれは、コードナ家のミリからレント宛に届いた物だった。その下もミリからレント宛だ。その下もだ。

 スルトはその開封済みの封筒から便箋を取り出して、手紙に目を通してみる。


「なんだこれは?」


 そこにはミリのディリオ愛が記されていた。次の一通もその次も、同じくミリのディリオ愛だけが記されている。


 スルトは山の様なレント宛の手紙を全て、捨てる事を使用人に命じた。



 スルトの馬車が移動した報告を見付けたコーカデス伯爵領の馬車クラブの担当者は、それをレントに報告する為に、上機嫌でコーカデス伯爵邸を訪ねた。

 しかしコーカデス伯爵邸で、(くだん)のスルトの馬車を見掛ける。

 コーカデス家の使用人からスルトが帰って来ている事を確認した馬車クラブの担当者は、少し思案した後、持って来た報告書を直接レントに渡す様に使用人に頼んだ。

 使用人には賄賂として手数料を渡したのだが、馬車クラブの担当者は悩んだ挙げ句、その手数料を王都の本部には請求しない事にする。


「必要経費と言う事にして、その分はいずれコーカデス様から取り返させて貰いましょう」


 コーカデス伯爵邸からの帰り道、馬車クラブの担当者はそう独り言を呟いた。


 馬車クラブからの資料を受け取ったレントは、資料の隅の「情報が馬車より遅くなり、面目ございません」と言う馬車クラブの担当者の走り書きを見て、苦笑いを浮かべた。



 捕らえられていた町長達を牢から解放し、スルトはそれぞれの町に送り届けさせた。細かい話は後にさせている。



 王宮からの自分宛に届いていた書簡を見付けると、スルトは中身を確認して驚いた。

 その書簡からは、コーカデス伯爵領から王宮に様々な報告を既に済ませている事が分かる。そしてその報告に基づいて、王宮からは今後の指針が示されていた。

 スルトはレントが王宮に報告していた内容も、報告を済ませている事自体も、認識してはいなかった。


 レントが報告した内容に付いて、スルトは使用人達に(ただ)すが、正確に内容を把握している者はいなかった。

 そこでスルトは使用人に、レントとリートから内容を聞き出させる。二人からは同じ様な答えが返され、スルトはその内容に頭を抱えた。

 それは、町長達の行った密造を含む脱税についての報告で、その金額が余りにも多かったからだ。

 そして脱税分と追徴金をコーカデス家の投資として、損失計上する事を勧める内容が王宮からの指針として示されていた。

 スルトには、何故その様な話になるのか、意味が分からなかった。


 スルトは今回の密造と脱税に関しての資料を一から読み始める。初めて目にする資料ばかりだし、王都でスルト自身が受け取った資料さえも、中身をきちんと理解するのには時間が掛かった。

 そしてようやく全体を把握すると、スルトは改めて驚いた。


 過去の町長達の密造と脱税にも遡り、その税金等をコーカデス家に立て替えて支払えと言う。

 そして立て替えた税金等と同額の投資をした事にしろと言う。

 その立て替え分に付いて、出資の回収の名目で町長達から返済を受けるのでも、投資の失敗としてコーカデス家が肩代わりして損失を被るのでも、コーカデス家が決めて良いと言う。

 ただし利息や追徴金を配当金として受け取るのなら、それには所得税が掛かるとの事だった。


 王宮の主張は分かったが、何故そうせねばならないのか、スルトには納得出来なかった。

 それなのでスルトはもう一度、始めから資料を読み返した。



「この金額、どうやって払えと言うのだ?」


 執務席に着き、机に両肘を突いて、スルトは頭を抱えた。


 王宮からの書簡には、国からは融資が出来ないとある。それは他領でも同様な状況が想定される為、それに対応出来る余裕が国庫にはないと記されていた。


「ないも何も、脱税が判明しなければ、国庫には入らなかった金だ。つまりそれを各領への貸付金扱いにすれば、当面の金の出入りは不要になる。その間に利息を得る事だって出来るだろう。王宮の奴等はそんな事も思い付かないボンクラなのか?」


 スルトは腕を振り上げ、机を叩く。


「それともそれを行わない理由があるって言うのか?」


 王宮は問題のなかった他領の情報も送って来ていた。説明会で公表されたコーハナル侯爵領だけではなく、それ以外の領地の資料も続けて届いている。毎年各領地の納税額や収益の概要は公開されているが、それよりも一段階詳しい内容が資料には記されていた。


「上手くいっている領地の資料を送って来るなんて嫌味か?これを見て真似をしろとでも言うのか?それともこれらの好調な領地から借金をして、脱税分を納めろと言うつもりか?」


 スルトは資料を払い除ける。それらは机からバサリと床に落ちた。

 資料が全て落とせた訳ではなく、スルトは机上に残る資料を憎らしげに睨む。するとそこに書かれていた単語がスルトの目に()まった。


「・・・開発費」


 領地開発に使用した費用の内の一定額は、必要経費として領地収入の納税対象利益から控除出来る。

 スルトはリートから領主を引き継いだ時に、国へ納める税金の節税対策として、開発費の使い方を聞いていた。

 しかし古い歴史のある領地では、実際には開発費など使わない場合もある。リートも領地の維持には予算を使っても、開発に予算を充てる事はなかった。そして開発費を計上した場合は、帳簿の調整が面倒ではあった。

 それなのでスルトの代になってからは、開発費の計上はして来なかった。


 つまり、ここ数年のコーカデス領の収支報告では、開発費として税金の控除を受けられる枠が、全くの未使用となっていた。


「これは、使えるのではないか?」


 コーカデス家の投資としてではなく、コーカデス領の開発費として計上すれば良いのではないか?とスルトは考えた。

 脱税等で国に追加納税する金額は莫大だが、数年間の開発費に分割すれば、ある程度は相殺出来る金額の筈だ。


 スルトはそう思い付くと、修正申告の計算を始めた。納税額に拠って開発費からの控除金額が変わるので、控除出来る最も高額の開発費を求める為には、何度も計算を繰り返して調整する。

 そしてスルトは、自分が導き出した計算に驚いた。


「本当なのか?これなら脱税分を納めなくて良いだけではなく、税金が還付されるじゃないか」


 スルトはもう一度計算をやり直して、再び同じ結果を得る。


「ははっ。王宮の奴等、気付いてないんじゃないか?」


 スルトは算出結果を書いた紙を持って、執務席から立ち上がる。


「父上もレントもだ。誰も気付いていないのだろう?」


 興奮を抑えられないスルトは、その紙を目の前に持って見返しながら、執務室内を歩き回った。


「これだ!これだよ!これで彼奴達全員、見返してやる!」


 口から笑いが零れだし、立ち止まるとスルトは大笑いをした。



 リートが開発費を計上していたのは、コーカデス領が侯爵領の時であった。伯爵領となった今のコーカデス領での開発費の控除比率は、侯爵領より上がっている。

 これは侯爵領よりも伯爵領の方が、利益に対して開発費が掛かるとの判断に拠るものだった。

 そして控除出来る開発費の金額でも伯爵領を維持する事は可能な計算だ。しかしもし、コーカデス領が侯爵領に戻る事を目指すのであるなら、領地開発に必要となる金額には全く不足していた。

誤字報告を頂いて修正しました。ありがとうございました。

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