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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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48 話し合い方

 バルがラーラの部屋から出た時には既に、誘拐対策の会議室として使用しているソウサ邸の広間には、バルの祖父コードナ侯爵ゴバと侯爵夫人である祖母デドラが着いていた。


 バルはコードナ侯爵家とソウサ家に話し合いを申し込んだ。

 コードナ侯爵家としては話し合いに臨んでも構わないと、ゴバはラーラの父ダンに向けて告げる。

 ダンも話し合いを了承する事をゴバとバルに伝えた。そしてラーラの祖父ドランに連絡する事と、他の家族を起こして話し合いを伝える事を使用人に命じた。


 ラーラの祖母フェリは、バルがラーラの部屋から出るのと入れ替わりに入室し、話し合いに向けた着替えなどのラーラの仕度を既に手伝っていた。



 仕度を終えたラーラは、バルのエスコートを受ける。

 腕を組む事は出来ないので、ラーラの指先だけをバルの手の甲に載せて廊下を進む。


 バルにエスコートされてラーラが広間に入るとざわめきが起こった。

 ラーラが男性であるバルの隣に立ち、指先だけとはいえ触れ合っているのだ。

 ラーラの母ユーレが思わず嗚咽を漏らすと、フェリが「しっかりおし」と小声で叱責する。しかしそう言うフェリも先程、ラーラとバルの様子を見て涙ぐんでいたのだ。


 ラーラに向かってデドラが歩み寄る。少し距離を置いてラーラの前に立ち止まると、デドラは僅かな微笑み作ってラーラに向けた。


「ラーラ。会えて本当に嬉しいです」

「この度はコードナ侯爵家の皆様に、とてもご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。また、わたくしの救出にも多大なる協力を頂き、先頭となって助け出して頂きました。とても感謝しております。本当にありがとうございました。コードナ侯爵家の皆様のお陰で、わたくしは帰って来る事が出来ました。心から感謝致します」


 ラーラはデドラに最敬礼し、続いて少し離れた所にいるゴバにも最敬礼をした。

 ゴバはその場で片手を上げて返す。


「わたくし達は助けたくてラーラを助けただけです。その様に畏まらないで、いつも通りで構いません」


 そう言って優しい眼差しで見詰めるデドラに、ラーラは「ありがとうございます」と会釈した。


「ラーラ。話し合いの前に、人を紹介させて下さい。本来ならラーラのご家族から紹介頂くべきですけれど、わたくしの古くからの知り合いなので、紹介する役目を譲って頂きました」


 そう言ってデドラが振り向くとデドラと同年輩の女性が近付き、デドラよりもう一歩ラーラから離れた位置で立ち止まる。

 ラーラは相手が誰かは知らなかったけれど、その女性に向けて頭を下げて貴族への礼を取った。


「ラーラに紹介します。こちらはピナ・コーハナル侯爵夫人です」

「初めまして、ラーラ・ソウサさん。ピナ・コーハナルです」


 コーハナルの名を聞いて、誘拐の切っ掛けとなる手紙から、コーハナル侯爵邸に面識のなかったダンがいきなり訪ねた話をラーラは思いだした。

 ゴバの仲介があったとはいえ普通なら、貴族に対して平民が行って許される事ではない。


「お目に掛かれて光栄に存じます。コーハナル侯爵夫人様。ラーラ・ソウサと申します。この度はコーハナル侯爵家の皆様に大変な無礼を働き、また御迷惑をお掛け致しました。誠に申し訳御座いません」

「頭を上げて。ラーラさんの所為ではありませんし、ソウサ家の所為でもないではありませんか。さあ、顔を上げて。そして私に(うしろ)の二人を紹介させて」


 そう言うとピナは後に控えている二人を手で指し示した。

 二人ともラーラに顔を向けているけれど、近付いては来ない。自分を気遣っていると受け取ったラーラは、少し距離があるけれどその場で二人に向けて礼を取った。


「私の夫のコーハナル侯爵ルーゾと孫のパノです」


 ルーゾとパノは声は出さず、ラーラに肯きだけ返す。


「ラーラさん。この後の話し合いを私達にも傍聴させて頂けないかしら?」


 疑問形だけれど、貴族から平民のラーラに対してなら命令だ。しかし何故傍聴を望むのだろう?

 普通に考えれば、自家の不利にならない様にだろうけれど、参加ではなく傍聴と言った。話し合いの内容や結論をいち早く知る事は出来るけれど、コーハナル侯爵家に影響があるとは思えない。

 パノを通してリリに伝える為だろうか?


 ラーラには特に断る理由が見付からなかった。この場にいると言う事は、ラーラが誘拐されていた事はもう知っているのだろう。それなら聞かれて困る事は特にない。

 自分で判断付かなかったので、ラーラはバルに任せる事にした。


「バル様がよろしければ、わたくしは構いません」


 そうピナに返しながら、隣に立つバルに視線を送る。


「私もラーラ殿が良いなら構いません」


 微笑みをラーラに返しながらバルはそう言った。

 頼りにならない。

 しかしコーハナル侯爵家の人達が今この場にいると言う事は、コードナ侯爵家とソウサ家の了解も既に取っているのだろう。


「分かりました。それではコーハナル侯爵様、コーハナル侯爵夫人様、コーハナル侯爵令嬢様。話し合いに御臨席下さい」


 ラーラはそう言って、コーハナル侯爵家の三人に頭を下げた。


「ありがとう、ラーラさん」


 三人を代表して、微笑みながらピナが返す。

 ピナが嬉しそうに見えるのは、理由が分かっていないラーラには違和感があった。



 話し合いの席は三つに分けられていた。

 ソウサ家のラーラ以外の6人が座る椅子が2列と、ゴバとデドラの椅子の列。コーハナル侯爵家の3人にはゴバとデドラの後に椅子が用意さられた。そしてバルとラーラの二人の椅子で、全体では正三角形に近い型になっている。

 本来ならバルはコードナ侯爵家の二人側だし、ラーラはソウサ家の並びの筈だ。

 その上、テーブルが置かれていない。


 ラーラはまたイヤな予感がした。


 皆が席に着くまで、ラーラは少し離れた所でバルと二人で待機する。

 皆は席の傍に立つと、男性達の椅子は使用人に指示をして下げさせ、替わりに敷物が置かれた。女性達は椅子に腰掛けたけれど、男性達はその敷物に座る。


 ラーラがバルの顔を見ると、バルはラーラに肯き返す。

 ラーラに男性を怖がらせない為の配慮なのだろうけれど、初対面のコーハナル侯爵を床に座らせるなんて平民ラーラには畏れ多い。

 先ほどラーラの部屋で床に座ったバルの差し金かと思って確認しようとするけれど、皆が着席するとバルはラーラの手を引いてラーラに椅子への着席を促した。

 床に座っている人がいる中で自分は椅子に座る事に、ラーラは抵抗を覚える。そして気付く。話し合いへの参加者の中で、自分は序列の最下位だと。両侯爵家はもちろん上だけれど、ソウサ家の中でもラーラが一番年下なのだ。

 しかしこの場で今の状況に納得出来ていないのはラーラだけ。

 バルがラーラの指先を手の甲に預かりながら、ラーラの椅子の横に片膝を突いた。

 

 ラーラは諦めて椅子に腰を下ろす。

 バルはラーラの手を離すと、ラーラの椅子の隣に敷かれた敷物に座って胡坐をかいた。


 ラーラからもバルからも、女性達も男性達も、全員の顔がしっかりと見えた。



 話し合いに先立って、床に座ったバルが椅子に座ったラーラを見上げて説明する。


「ソウサ家の皆さんの発言に対して、不敬とか一切問わない事は書面にして渡している。言葉遣いを含めてね。コーハナル侯爵家のお三方(さんかた)には両家の許しが無い限り、この場での会話は外に漏らさないと、これも書面で頂いている」


 そう言うとバルはソウサ家の席に顔を向けた。


「それですのでソウサ家の皆さんは、忌憚なく発言をして下さい。ラーラ殿の未来の為にも、よろしくお願いします」


 バルが胡坐のまま腰を折り、ソウサ家の皆に頭を下げた。ハッと気付いてソウサ家の皆も頭を下げ返す。


 まるでこの場がバルの支配下にある様に思える。


 ラーラは先程のイヤな予感が、男性達が床に座る事に対してではなかったのかも知れないと思い始めていた。

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