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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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親子喧嘩

 レントの祖母セリが祖父リートに遅れて執務室に向かうと、セリの耳に執務室からの怒鳴り声が届いた。何事かと思ってセリは早歩きで廊下を進み、開け放たれている扉から執務室の中を覗く。

 そこではリートの腕の中で、割れた額から血を流しているレントがぐったりとしていた。レントの回りの床は濡れている。セリにはそれがレントから流れ出た血に見えた。そしてその回りに散らばる花からは、セリは棺を思い浮かべてしまう。

 セリは扉の所で気を失った。

 倒れ込むセリは使用人が支えたので大事には至らなかった。そして執務室内の混乱を考えたなら、騒ぎを更に広げそうな人物が一人退場する事になったのは、混乱に巻き込まれるであろう使用人達に取っては助けになっていた。



 リートは抱き抱えているレントの体を揺すった。


「レント!レント!しっかりしろ!」


 しかし花瓶を頭に受けたレントは目を回し、受け答えがしっかりと出来ない。

 リートはスルトに怒りの表情を向けた。


「スルト!お前はレントに何と言う事をしたのだ!」

「それは私のセリフです!父上!」


 スルトは執務机に両手を叩き付けながら、リートに怒鳴り返した。


「父上が付いていながら!レントに何をさせているのですか!」

「何をも何も!レントは真っ当な事しかしておらんだろうが!」

「どこが真っ当ですか!」

「真っ当極まりないだろうが!」

「町長達を無闇に拘束したそうではないですか!」

「無闇なものか!スルトはその場にいなかったから分からんのだ!」

「その場に私がいれば!その様な不手際は起こしません!」

「何を言っておる!レントの報告を読んどらんのか!」

「レントの報告など知りません!」

「は?」


 スルトの返しにリートは呆気に取られた。


「・・・スルト?」

「何ですか!」

「本当に読んどらんのか?」

「知らないのだから読める筈がないではないですか!」

「いや、レントはスルトのサインを貰っておったぞ?」

「知らないと言ったら知らないのです!それより父上はレントのやった事を何故見過ごして許したのですか!」

「見過ごしたのではない」

「まさか気付かなかったとでも言いませんよね!」

「気付かなかったのでもないわ!」

「では!レントのやった事の意味が理解できなかったのですか!」

「何を!理解出来ているのに決まっておろうが!」

「理解出来ていて何故許すのです!」

「レントのする事が領主として真っ当だと思ったからだ!」

「代理です!レントは領主ではない!レントは単なる代理に過ぎない!」

「代理でも領主として真っ当な判断をしたと言っておるのだ!」

「領主である私が真っ当ではないと言っているのです!」

「領主としての判断も!取った行動も!真っ当に決まっておるだろうが!」

「コーカデス家を伯爵に落とした父上が!真っ当な判断をしているとは限らない!」

「な・・・」

「父上がいればレントをフォローして貰えると思って任せたのです!それがこんな事になるなんて!父上に頼むのではなかった!」

「何だと!!スルト!!」

「何がですか!!父上!!」


 その時、興奮するリートのその腕の中で、揺さ振られ続けていたレントが戻した。


「レント!」


 驚いたリートはレントの口を押さえ、吐瀉物を止めようとする。


「おい!医者だ!医者を呼べ!」


 使用人に慌てて指示を出すリートの様子を見て、スルトは興奮を冷ました。


「大袈裟な」

「何が大袈裟だ!おい!医者を早く!」

「父上が大袈裟だと言ったのです。戻したくらいで騒いで」

「何を要っている!いきなり戻したのだぞ!」

「私の時みたいに、放っておけば良いじゃないですか」

「馬鹿者!頭を打って戻したんだぞ!」

「頭を打ってもほったらかしでしょう?」

「何を言っておる!レントは我が家の大切な跡取りではないか!」


 レントは慌てている使用人達に「待て!」と声を掛けた。


「レントには医者などいらん」

「何を言っておるのだスルト!」

「勝手な事をしたレントには謹慎をさせる」

「謹慎だと?!」

「部屋に閉じ込めて、私が良いと言うまで部屋から出すな」

「何を言っておるのだ!」

「父上と母上もだ」

「は?・・・自分が何を言っているのか、分かっておるのか?」

「当然ですよ」

「自分が何を命じたのか、分かっておるのかスルト!」

「もちろんです。私はコーカデス領の領主であり、コーカデス家の当主でもある。その権限のもとに、父上。母上と共に部屋で謹慎なさって下さい」

「冗談ではないぞ!」

「本気ですよ。そうでもしないと父上も母上もまた、レントに余計な事をさせかねませんからね」


 スルトは身動き出来なくなっている使用人達に視線を向ける。


「お前達。誰がこの家の主人だか、分かっているのか?」


 スルトは使用人達を見回した。


「分かっていない者は辞めさせる。分かっているなら、さっさと父上とレントをそれぞれの自室に連れて行け!!」



 スルトに命じられた使用人達に自分が抵抗すれば邸が滅茶苦茶になるとリートは考えて、医者に診せる事は約束させてレントを使用人達に任せた。


 レントは額からかなり出血をしていたが、傷自体はそれ程大きくなくて、治療も直ぐに済んだ。

 戻したものの、それはリートに揺すられ続けて酔った所為だったので、頭に花瓶を()つけた後遺症なども全く残らなかった。


 しかしレントもリートもそしてセリも、自室から出られない様に軟禁される事となってしまった。

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