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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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利益の宛て

 バルは困惑した表情のまま、顔をミリに向ける。


「ミリ?」

「はい、お父様」

「私は正直言って、コーカデス伯爵家は嫌いだ」


 ミリも顔に困惑を浮かべた。


「・・・はい」

「だが、ほんの僅か話しただけではあるが、レント殿には悪い印象はない」

「はい」

「それなのだから、レント殿を育てて一緒に暮らしているコーカデス伯爵が、自慢の息子だとレント殿を誇る事はあっても、レント殿の足を引っ張ってやろうと思ったりするとは思えないのだ」

「そうなのですね」

「ああ。ミリ?」

「はい、お父様」

「ミリは私の自慢の娘だ」


 話がずれた事と、突然のバルの言葉に、ミリは少し戸惑う。


「それは、ありがとうございます、お父様」

「ああ。その私の自慢のミリには、今回のレント殿の依頼に付いて、他の狙いが読み取れないだろうか?」

「あるとすれば、私に投資をさせる事でしょうか?」

「ミリに?」

「はい。私から直接か、ミリ商会からを狙っているのかは分かりませんが」

「領地を支える程の投資は、さすがに無理ではないか?」

「金額的には全ては無理です。ですがレント殿も、いきなり全てを整えようとはしないでしょう。確実なところから順を追って対応する筈ですので、それでしたら、私が用意出来る程度の金額でも、役に立つかも知れません」


 ミリの発言がラーラには、投資を受けて領地整備を進めるのがコーカデス伯爵ではなくレントだとミリが考えている様に思え、少し気に掛かった。

 しっかりしているとは言え、レントはまだ子供だ。ミリと変わらない。

 とそこまで考えたラーラは、子供のミリが投資するなら、子供のレント殿が投資を募るのもおかしくないのかも、と思い直す。

 一方でバルはその辺りには拘らずに、ミリに意見を返した。


「だがそれで、金額次第ではあるだろうけれど、どれ程の効果が上がるものなのか」

「それでも現状のまま、何もしないのよりはマシではないかと思います」

「・・・ミリ?もしかしてレント殿と打ち合わせていたのか?」

「え?いいえ、違います。この手紙を受け取るまでは、レント殿が投資を募る事は知りませんでした」

「そうか」

「ですがミリ?」


 ラーラが声を掛けた。


「はい、お母様」

「この手紙を私達に見せたと言う事は、ミリは投資をしたいと思っているのね?」

「そうなのかい?」

「はい、お父様、お母様。お二人に許可を頂けるなら」


 ラーラはバルに視線を向ける。


「バル?どうする?」

「どうするって、ラーラは良いのか?」

「利益は出せそうに思うけれど、ミリ?」

「はい、お母様」

「まず、順序があるとして、何から手を着け始めるの?」

「レント殿と相談してからにはなりますが、手を着け易くて利益も直ぐに出せそうなのは、塩だと思います」

「塩?」

「何故そう思うの?」

「ソウサ商会が撤退してから、国内にはコーカデス領産の塩がほとんど出回っていません。そして他領の塩は、僅かずつですが、年々価格が上がっています。それも歩調を合わせた様にです」

「そうね。塩の値段を調整する、何かしらの仕組みがあるのかも知れないわね」

「はい。それですのでコーカデス領の塩を以前からの値段で国内に流通させれば、そこで利益が上げられる筈です」

「でもそれは、他領の製塩事業に携わる人の生活を圧迫するけれど、それで恨みを買っても良いのね?」

「製塩をしている地方での、ソウサ商会の売上は上がっていません」

「そう」

「ソウサ商会の売上?」


 バルにはピンと来ず、小首を傾げた。


「はい」

「それで?」


 ラーラはただ先を促す。


「それはつまり、製塩場で働いている人達は、塩の値段が上がっている事の恩恵を受けていない事を示すと思います」

「そうね」

「なるほど」

「それなので、利益は上流階級が吸い上げている構造だと推測しています」

「それ、裏付けは取れるの?」

「先日の王宮からの密造と脱税に対する調査命令で、各領地からの報告を見ればある程度は分かると思います」

「それは公開されるのかい?」

「はい。コーハナル侯爵家の出納情報を公開しましたので、他領も公開する事になったと聞きました」

「なるほど」

「でもミリ?増えた利益を吸い上げていた人が、売上が減った時に利益を手放すと思う?」

「いいえ。生産者や商人でなければ、利益は守ろうとする筈です」

「そうしたらその様な皺寄せは、生産者に向かうものよ?」

「そうしたらその生産者達は、コーカデス領に勧誘します。コーカデス領に移住する為に生産者が出て行って、生産者が減れば生産量も減りますから、コーカデス領の塩をもっと売る事が出来ます」

「なるほどね」

「今の話、レント殿も考えていると思う?」

「はい」

「逆は?レント殿はミリもそう考えると思っていると思う?」

「はい」

「それなら何故レント殿は、ミリに出資して欲しいと直接言わないのだい?」

「それは・・・分かりませんが」

「ミリに頭を下げたくないとか?」

「どうでしょう?会って話す時はむしろ、私に頭を下げ過ぎの様に思いますけれど」

「それは家の格の差でじゃないのか?」

「そう、かも知れません」

「確信を持ちたかったのではない?」

「確信?」

「コーカデス領は投資するに値するとミリが判断する事で、コーカデス領は大丈夫だと」

「ミリに大丈夫だと言って欲しかったと言う事か?」

「ええ。レント殿がコーカデス領は大丈夫かとミリに直接訊くのも、おかしいでしょう?」

「まあ、訊かれても答えようがないと思うけれど」

「それだからミリに誰か好い人いないかと訊いて、ミリが手を上げれば、レント殿も自信を持って領地の立て直しが出来るでしょうし」

「もしミリが手を上げなかったら、どうする積もりだったんだ?」

「自分でコツコツやって行くしかないわよね」

「それはつまり、ミリを利用しようとしたと言う事か?」

「行為としては同じだけれど、心情としては違うかもよ?」

「違うって、どう?」

「もしかしたらレント殿は、コーカデス伯爵とあまり仲が良くないのかもね」

「え?レント殿が?」

「ええ。それなので頼る相手が他にいなくて、ミリに縋ったのかも知れない」

「ミリ?絆されて投資をするのか?」

「え?いいえ。投資自体で利益を上げられると思いますし、それでコーカデス領を発展させられる目処もありますから、その発展での利益も手に入れようと思っています」

「そ、そうか」

「はい」


 情ではなくて利益だと言い切るミリに、バルはかなり驚いた。


「そうよね」

「はい」


 自分とミリの考えが近い事に、ラーラは納得する。


「そうか」

「はい」


 ラーラとミリが理解し合っている様子に、それなら良いか、とバルは肯いた。

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