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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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王太子妃のストレス

 ソロン王太子が妹のチリン元王女を溺愛していると言う噂は、ニッキ王太子妃も子供の頃に聞いて知っていた。

 ニッキ王太子妃は家族から、将来はソロン王太子の妻となるのだと聞かされて育ったので、ソロン王太子が大切にすると言うチリンに対して、自分も大切にしようと子供心に思っていた。ニッキ王太子妃はその決心を切っ掛けに、自分の実の妹ミッチへの接し方を変えたりした程だった。


 ソロン王太子の婚約者となった当時、ニッキ王太子妃が実際にチリンに接して見ると、チリンはまさに王女様であった。

 ニッキ王太子妃が実の妹を相手にして会得した妹対策は、チリン相手には使えない事は明らかに思えた。


 ソロン王太子と歳が離れて生まれたチリンは、王妃の年齢的に最後の子供となると認識されていた。

 それもあってソロン王太子だけではなく、先代国王夫妻にも、今の国王夫妻にも、周囲の者達からも愛されて、何不自由なく育った。

 もちろん教育に関しては厳しく授けられていたが、どれも忖度なく優秀な成績を修めていた。陰では、もしチリンが王子だったら、ソロン王太子との王位争いで国が荒れたかも知れなかった、チリンが王女で良かった、などと言う者もいた。


 そのチリンは、バルとラーラの恋物語の大ファンだった。

 悪意に曝され悲惨な思いをさせられるヒロインと、愛を貫いて支え続けようとするヒーロー。

 幼さ故の青い正義感での憧れなのだろうと周囲は見ていたけれど、ラーラの妊娠が判明して世間が二人への好意を翻しても、チリンは二人への想いを更に募らせるばかりだった。それは教育係も保護者達も、チリンの倫理観を心配する程だった。

 ニッキ王太子妃も見ていられなくて、それとなくチリンに忠告した事もある。しかし逆に洗脳されそうになって、それからニッキ王太子妃はチリンの前でその話題を出す事はなかった。


 王家と公爵家と言う、階級では一つしか差のない家に生まれた長女同士。嫁と実の娘。

 暗に、時には明にチリンと比較される日々が続き、心を疲れさせる事の多かったニッキ王太子妃をソロン王太子は支えようと良くはしていたが、ニッキ王太子妃を救ったのはソロン王太子では、いや、ある意味、ソロン王太子だったとも言える。

 ニッキ王太子妃の心を救ったのは、サニン王子の誕生だった。


 妊娠中のニッキ王太子妃には、チリンの事を気に掛けている余裕はなかった。

 王家に嫁いだ女性に流産や死産が多い事は、ニッキ王太子妃も知っていた。そしてそれは突然に妊婦の身に降り掛かる事も解っていた。

 本人はもちろん気を付けているが、妊婦に接する周囲の人間も神経を尖らせている。その者達の振り撒く気配値が、ニッキ王太子妃の気持ちを磨り減らした。

 心配して顔を見せる姑、王妃への対応も気力を削る。実家から届く手紙も、心配している旨が記されているのに、何故か破り捨てたくなる。

 ソロン王太子はもっと気楽に構えれば良いと言って、ニッキ王太子妃の気持ちを(ほぐ)そうとするが、気遣っている筈の言葉が、ニッキ王太子妃の耳には無責任に響いてしまう。


 とにかく自分以外は敵に思える。体調や心理状態の不安定さが切っ掛けになって、妊娠なんてしなければ良かったとも思ってしまう。

 そして一番の敵が、お腹の子に思えた事もあった。


 しかし、サニン王子を無事に産む事が出来ると、世界が変わった。

 皆が祝福してくれる。

 ソロン王太子も国王も王妃も実家の家族達も、皆が喜んでくれる。

 サニン王子を見るチリンの様子が、羨ましそうにも物欲しそうにも思えると、ニッキ王太子妃の中のチリンへの劣等感は宥められ、対抗意識は消えていった。

 ニッキ王太子妃はサニン王子を産んだ事で、種々のコンプレックスを解消する事が出来たのだ。


 しかし、サニン王子が無事に生まれ、無事に育ち始めると、周囲からは二人目の出産に言及する声が上がり始める。

 二人目は女の子が良いのか、もう一人男の子か。いつ頃産む積もりか、もう始めているのか。最終的には何人産む予定なのか、何歳まで産む積もりなのか。

 それらの言葉の裏に悪意はなかったとしても、それはプレッシャーとなり、ニッキ王太子妃はソロン王太子を急かして、二人目を作ろうとした。

 しかし、なかなか妊娠しなかったり、妊娠かと思うと不順なだけだったり、気が付くと流産していたり、妊娠しても死産となったり。それをずっと繰り返し、その間にニッキ王太子妃へのプレッシャーは日々強くてなっていった。


 ニッキ王太子妃の心が弱って行く事を心配したソロン王太子は、ニッキ王太子妃を領地へ送った。離れて暮らして妊娠の機会をなくす事で、ニッキ王太子妃へのプレッシャーを減らす為だった。

 しかしニッキ王太子妃には、ソロン王太子が二人目の出産を諦めた様に受け取れた。そしてそれはニッキ王太子妃に取って、自分の存在意義を失った様に感じてしまった。

 ニッキ王太子妃の心は、プレッシャーの代わりに失意に染まる。


 ソロン王太子が領地を訪れた時には、以前と変わらない夜を二人で過ごした。

 しかし王都で暮らしていた時は受ける事の出来た王家の秘術が、領地では受けられない。

 その為か領地では、ニッキ王太子妃は妊娠をしなかった。もちろん流産も死産もない。


 そんな中、領地にいたニッキ王太子妃の下に、チリンが妊娠した報せが届く。

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