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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ブレスレット返却の余波

 ソロン王太子が夫婦の寝室に入ると、気付いたニッキ王太子妃がソファから立ち上がり、ソロン王太子を迎えた。


「ソロン。両陛下はいかがでしたか?」

「ああ、大丈夫だよ」


 ソロン王太子はニッキ王太子妃を両腕で包む。

 ニッキ王太子妃はソロン王太子の胸に手を当てて、二人の間に空間を作った。


「やはり私も同席するべきだったのではありませんか?」

「いや。任せて貰った通り、確りと片付けて来たから」

「ですけれど私の失敗なのですから、両陛下には私が謝罪するべきですのに」

「ニッキが気になる様なら、明日一緒に顔を出そう。二人の様子を見れば、ニッキも安心できるだろう?」

「お願いしても良いですか?」

「もちろんだよ」

「よろしくお願いします」

「ああ」


 頭を下げるニッキ王太子妃を抱き寄せて、ソロン王太子は自分の胸にニッキ王太子妃の顔を付けさせた。

 ニッキ王太子妃は顔を横に向けて、ソロン王太子の胸に頬を付ける。


「それで、両陛下にはどの様に伝えて下さったの?」

「行き違いがあった事と、ミリ殿がブレスレットを貰って困っていた事を伝えただけだよ」


 ニッキ王太子妃はまたソロン王太子の胸を押して、顔を上げるとソロン王太子を見上げた。


「困っていた?ミリ殿が?」

「ああ。ミリ殿は平民になる事を強調していただろう?」

「ええ」

「あれはどうも、私達の前だけではなく、普段かららしいな」

「・・・そうなのですか?」

「どうもそうらしい。サニンと仲良くする気があるとかないとかの前に、本気で平民になる積もりの様だね」


 ニッキ王太子妃の眉尻が下がる。


「その様な事をコードナ侯爵家が許すのでしょうか?」

「けれど、彼女は出自の問題があるだろう?」

「それは知っていますけれど、それはミリ殿が生まれる前から分かり切っていた事ではないですか?」

「そうだね」

「分かり切っていたのに、バル殿の娘として認知をしたのでしょう?」

「認知と言うか、戸籍上は本当の娘だしね」

「その戸籍をコードナ侯爵家は許したのですし、コードナ侯爵家の一員として令嬢教育まで授けたのですよね?」

「ああ、その通りだ」

「それなのに、平民になる事を許すのですか?」

「許すも何も、ラゴ殿がコードナ侯爵家を嗣いだら、そうする様な話だったじゃないか」

「そうですけれど、本当にそれを許すのですか?」

「まあ確かに、にわかには信じがたいけれどね」


 眉根が寄ったのを隠す様に、ニッキ王太子妃は額をソロン王太子の胸に付けた。


「それって、貴族を馬鹿にしているのではありませんか?」


 ソロン王太子の「う~ん」と言う声が、振動としても胸から額に、ニッキ王太子妃には低く響く。


「取り敢えず、座って話そうか」


 耳元でそう囁くソロン王太子が、何か誤魔化そうとしている様にニッキ王太子妃には感じられた。



 ソファに二人並んで腰を下ろす。

 少し躊躇ってから、ソロン王太子は話し出した。


「実はチリンから手紙が来ていたんだ」


 ソロン王太子は、ニッキ王太子妃に伝えない様にしていた話を口にする。


「その手紙にはミリ殿が、ブレスレットを返却出来てホッとしていた事が書かれていたんだよ」

「ホッとしたのですって?」

「ああ。平民になったらブレスレットを返さなければならないと思って、ミリ殿は悩んでいたみたいだ。身分が変わるからと言う事なのだろうけれど」

「実際にはどうなるのですか?」

「返却はするべきだろうね。平民が貴族になったのならそのままでも良いけれど、逆はやはり、返さなければ貴族達からも非難が上がるだろうし」

「・・・そうですね」

「しかし、罪を犯して貴族籍を剥奪とかならその時点で返却出来るけれど、ラゴ殿が跡を嗣いだからとなると、授爵のお祝いの最中(さなか)にブレスレットを返しに来るのも、興を()ぐ事になるだろう?」

「それはそうかも知れませんけれど」

「そうだろう?それなので今回の事は、ミリ殿に取っては願ってもないチャンスだと言う事で、あれほど素早く、ブレスレットを差し出したのだよ」

「そうなのですね」

「ああ。だからニッキはミリ殿に、利用されたと言うと聞こえは悪いけれど、ミリ殿から見たら、ニッキに助けられたと思って感謝しているらしいよ」

「感謝を?ミリ殿が?」

「けれども感謝と言っても、あの場で礼を述べる訳にはいかないだろう?」

「そうですね。取り上げてくれてありがとうなどと言えば、両陛下への不敬になります」

「そうだよね」

「しかしそれでしたら、たとえ言葉に出していないとしても、あの行為はやはり不敬なのではないですか?」


 ソロン王太子は、やはりニッキはそう思ってしまうか、と思った。


「そこは微妙なのだよ」

「・・・それはどの様な意味ですか?」

「あのブレスレットは、ミリ殿がチリンの出産を手助けしたお礼だよね?」

「はい」

「そう。褒美ではなくて実はお礼なんだ。褒美を突き返したりすれば不敬と取られても仕方がないけれど、お礼だったら礼には及ばないと断る事も出来るだろう?」

「礼には及ばないなんて、それこそ失礼ではないですか」

「いやいや、たとえばサニンが生まれた時に、コウバ家から私に、ニッキがサニンを無事に産む様に手配した事への礼が送られたなら、私は礼には及ばないと返すだろう?」

「お祝いではなくてですか?」

「コウバ家からのお祝いは、もちろん頂いたじゃないか。そうではなくて、あのタイミングでお礼ですと渡されたなら、どうして?と思うだろう?」

「それは、そうかも知れません」

「そうだよね?それでミリ殿に取ってチリンは、ミリちゃん、チリン姉様と呼び合う姉妹の様な仲なんだ。それだからミリ殿に取ってはチリンの出産を助けるのは当たり前だったし、別に両陛下から事前に依頼があって助けた訳でもない。それなのに脱税問題で説明役を引き受けた直後に、理由も言われずに渡されて、受け取ってからチリンの出産を助けたからと言われても、戸惑うと思わないかい?」

「・・・そうですね」

「父上も母上も、それに納得したから、ブレスレットの返納を受け入れたのだよ」

「両陛下は、何か仰っていらっしゃったの?」

「母上はあらまあ、父上はそうか、だね」

「え?そんなに軽く?」

「ああ」

「・・・もしかしたら両陛下にも、チリンさんからのメッセージがあったのですか?」

「・・・そうだね」

「チリンさんからは両陛下へ、どの様な話が伝えられたのですか?」

「・・・どうやら、ミリ殿を困らせない様にと、釘を刺されたらしい」

「そう、ですか」


 ソロン王太子は、チリンからの手紙の事をニッキ王太子妃に話したのは、やはり失敗だったかも知れないと考えていた。


 ニッキ王太子妃とチリン元王女は、国王と王妃にとって、嫁いで来た義理の娘と実の娘だ。その気はなくても何かと比較してしまうし、それをニッキ王太子妃も感じてしまっていた。

 そしてその事をソロン王太子も感じ取っていて、何とかしたいとの問題意識は持っていたのだけれど、現実問題としては大した手が打てていなかった。

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