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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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序での話と本題

 留学の話を切り出そうとして、ミリは頭の中で話を組み立てる。

 以前ならこんな作業は事前に済ませるのだが、最近のミリの頭の中にはディリオが多くを占めているので、余り他の事を考える余裕がなかった。


 しかし留学の話の前に、最近思い付いたもう一つのやりたい事を話すべきかとも思う。そちらは反対されそうに思えるので、どちらを先に話そうかとミリは考えた。

 そこで、それとは全く関係のない話だけれど、ラーラに伝えなければならなかった事があったのに、すっかりと忘れていた事をミリは思い出した。


「そうだ、お母様」

「なに?」

「コーカデス領に行った時」


 コーカデスの名にラーラもバルも、心の中で身構える。


「ガロンさんとマイさんらしき行商人に会いました」

「え?二人に?」

「はい。あと、若い男性が一人と、私よりは年上の男の子と女の子が一人ずつ、一緒でした」

「本当に?どこで?」

「コーカデス領の海岸近くの漁村です」

「ミリ?らしきと言うのは?話はしなかったのか?」

「はい、お父様。私を見てお母様の名を呼んだので、年齢からガロンさんとマイさんかと思って、ラーラがお母様の名である事と、私はミリである事を伝えました」

「それで?二人はなんて言っていたの?」

「それがその後に騒ぎが起きて、それきり五人の姿は見ませんでした」

「騒ぎ?」

「ミリは大丈夫だったのか?」

「コーカデス領に寄ったワ船長とラッカさんが、私を馬鹿にした女の子を責めた件です」

「あれか」

「はい。その騒ぎを収拾した時には、ガロンさん達はもういませんでした」

「そうなのね」

「そうすると、ガロンさん達ではないかも知れないな」

「そうですね。私の名も知っているでしょうし、ミリさんから名を頂いている事もその場で口にしましたので、本人達なら私が誰なのかは分かったでしょうから」

「ミリは何故その話を直ぐにしなかったの?」

「ごめんなさい、お母様。勘違いかと思ったのもあって、すっかりと忘れてしまっていました」

「ミリに同行した者達からも、ガロンさん達に関する報告はなかったしな」

「ミリを見てもいなくなったのなら、人違いよね?」

「そうだな。ガロンさん達ならミリに話し掛けて来る筈だ。いくら時間がなかったとしても、言葉を交わさずにいなくなったりはしないだろう」

「もしまた見掛けたら、ガロンさん達なのか、尋ねてみますね?」

「え?またコーカデス領に行く積もりなのかい?」

「予定はありませんけれど、あちらは行商をしている様でしたので、どこかで会うかも知れません」

「そうね。その時は確認して」

「はい、お母様」


 思い出して話して見たのは良いけれど、ラーラの元気がなくなった様に感じられて、言わない方が良かったのかも知れない、とミリは思った。


 話を変える為に、ミリは本題に入る。


「お父様」

「なんだい?ミリ?」

「お金を取らなければ、私は乳母になっても良いですか?」

「駄目に決まっているだろう?!」

「そうですか」

「待って、バル。ミリ?乳母になりたいの?」

「はい。ディリオちゃんが育つのを手伝いたくて」

「ああ、ディリオちゃんの乳母なのね」

「はい。先ずはディリオちゃんの乳母見習いにして貰おうかと考えたのですけれど、それなら留学はどうでしょう?」

「え?」


 バルは、サニン王子がミリに近付くよりは、ミリを留学させるのもアリかと思っていた。その際にはラーラと共に、自分もミリの留学に付いて行こうかと考えている。

 それなのでミリが留学する事に付いては許可出来るが、ミリがあっさりと乳母になる事を諦める事が、バルは気になった。


「乳母は良いのか?」

「え?乳母になっても良いのですか?」

「いや、乳母と言うか、ミリが言っているのは教育係ではないのか?」

「いいえ、乳母です」

「留学は良いが、乳母は駄目だ」

「教育係なら良いのですか?」

「いいや。教育係も乳母も、お金を取らなくても仕事ではないか。駄目だよ」

「留学は良いのですね?」

「条件を満たせばね。どこに留学したいんだい?」

「それはこれから調べますけれど、お父様が留学を許すかどうか、王太子殿下と賭けをしていたのです」

「え?王太子殿下と?」

「またそれは、一体なんでなの?」

「話の流れと言いますか。もし王太子殿下から確認が来たら、留学を許可した事を伝えて下さい」

「それは構わないが」

「よろしくお願いいたします」


 ミリは立ち上がると頭を下げた。


「それでは私はこれで帰ります」

「え?帰る?」

「泊まっていかないの?」

「はい。この時間ならまだディリオちゃんは起きていますので、コーカデス侯爵邸に帰ります」

「そう」

「お父様、お母様。また明日、朝に参りますので。本日はお時間を頂きありがとうございました。これで失礼します」

「ああ、分かった」

「気を付けてね」

「はい」


 ミリはもう一度頭を下げて、リビングから出て行った。


 バルは顔を仰向け、ラーラは少し顔を伏せた。


「帰るって、ここがミリの家なのにな」

「そうね。ちょっとミリ、ディリオちゃんの事、好き過ぎない?」

「そうなのか?女の子だから赤ちゃんが好きなのかと思っていたのだけれど」

「その傾向はあるかも知れないけれど、それにしても行き過ぎかも?」


 バルは顔を下げて、ミリがテーブルに残して行った受領書を見る。


「もしかして俺達、見当違いの点に付いて心配していたりしてないよな?」

「そうね。もっと別の点を心配すべきなのかもね」


 ラーラも少し視線を上げて、テーブルの上の受領書を見た。

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