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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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返却経緯の周知

 王宮から出るとまず、ミリはコードナ侯爵邸を訪ね、国王夫妻から貰ったブレスレットを返却した事をバルの父ガダ・コードナ侯爵と母リルデ・コードナ侯爵夫人に報告をした。

 ガダもリルデも驚いてはいたけれど、ソロン王太子が用意してミリに渡した受領書に書かれた経緯を読んで、ミリがそれで良いなら構わないと納得をした。


 経緯書には、行き違いがあった事が書かれていた。

 ミリがサニン王子を軽んじているのかと受け取れた為、それを問い質す積もりで身分保証チャームの返却を打診したところ、受諾されたと記されている。

 

「紛失したら怖いと思っていましたので、返納できて安心できました」


 そう言って微笑むミリのホッと力の抜けた表情をみたら、ガダもリルデも苦笑するしかなかった。



 コーハナル侯爵家で報告した時も、パノの父ラーダ・コーハナル侯爵にも母ナンテ・コーハナル侯爵夫人にも、やはり苦笑された。


「一番低ランクの身分保証なのだから、それ程大した物でもないのに」


 チリン元王女にはそう言われたけれど、ミリは首を左右に振って返す。


「いいえ、チリン姉様。しっかりとしまって置いても、紛失していないだろうかと、時々不安が心に沸き起こるのです。それの所為で集中出来なくて、他の何かに失敗してしまうかも知れない事も、私には恐ろしかったのです」

「ミリちゃんにも意外な弱点があるのね」

「意外でも何でもない、普遍的な恐怖だと思いますけれど?」

「そう?でも、私の手紙を運んで貰う事も、ミリちゃんにお願いしたりもしているでしょう?あれは私のサインや封緘があるから、あのブレスレットより保証力は上よ?」

「チリン姉様の手紙は離す事なく持っていますから、紛失する事は心配しません。折ったり汚したりしない様には細心の注意は払いますけれど」

「それならブレスレットも常に身に着けておけば良かったのよ」

「一日中、ブレスレットに注意を向けているのなど、それこそ私には無理です」


 そのミリの珍しく情けない表情をみたら、チリンもそれ以上は言えなかった。

 同じくその表情を見たパノとパノの弟スディオは、笑いを(こら)えていた。



 コーハナル侯爵家で報告した後、当然ミリはチリンとスディオの息子ディリオを愛でた。ミリの今日一日の疲れなど、ディリオが一瞬で消し去る。


 そして夕方。バルの帰宅時間を見計らって、ミリは実家であるコードナ邸を訪ねた。


「ソロン王太子殿下とのお茶会は、大丈夫だったの?」

「こんな時間に帰って来て、何かあったのか?」


 リビングのテーブルの向かいに座るラーラとバルの不安を抑える様に、ミリは微笑みを向ける。


「大丈夫ですので、お母様、心配頂く事はありません。ですけれど、お父様、色々とあるにはありました」


 ミリはブレスレットの受領書を二人に見せた。


「国王陛下と王妃陛下に頂いたブレスレットは、お返しする事になりました」

「なんだって?」

「王太子殿下が経緯を記して下さっています」


 ミリが指し示す受領書をバルは手に取る。そして経緯を読みながら、眉間に皺を浅く寄せた。

 ラーラはバルの様子から、ミリに顔を向ける。


「ミリは返してしまって良かったの?」

「はい。ホッとしました」

「それなら良かったけれど」

「ミリ」

「はい、お父様」

「サニン殿下に対して、ミリが何か申し上げたのかい?」

「いいえ。私が将来は平民となる事についての説明から、サニン殿下を避けている様に王太子妃殿下に受け取られてしまったのだと思います。それを問い質されて、将来サニン殿下の役に立たないのならブレスレットを返す様にと口になさいましたので、チャンスだと思ってお返ししました」

「チャンスって」

「あ、もちろん王太子殿下(がた)の前では、喜ぶ素振(そぶ)りは見せていませんから、不敬に取られたりもしていません」

「ミリはブレスレットを受け取りたくはなかったのね?」

「受け取らない事は出来ないと思いますので、中身を知っていても頂いたとは思いますけれど、扱いに困ってはいました」

「困っていたのか」

「両陛下に手づから下賜頂くなんて、名誉な事だと思っていたのだけれど」

「名誉だとは私も知っていますし、ですがブレスレットを返しても、頂いた名誉は変わりませんから」

「そうよね」

「そうか?」

「はい。下賜された剣を失くした騎士が、王に許された前例があります。その時に剣は単なる象徴なので、騎士の名誉を損なうものではないとの言葉が、王国記に残されています」

「その話は知っているが、それは戦闘中の紛失だった筈だよ」

「しかし戦闘中の紛失だから許すとは書かれていませんから、それを引き合いに出しても大丈夫です。そもそも私はブレスレットを失くしてはいませんし」

「いや、そうだけれど」

「バル?王太子殿下も大丈夫としてくれているのなら、大丈夫でしょ?」


 経緯を読み終えたラーラが不安そうな顔を見せながらもミリの味方をして、バルに問う。


「まあ、そうか」


 バルはラーラの手から受領書を受け取って、もう一度経緯に視線を向けながらそう返した。


 ブレスレットの話が一段落したので、ミリは用件を切り出そうとした。ソロン王太子と賭けをした、留学に付いてだ。

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