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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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町村長達の処分

 レントに問い詰められても、レントの父スルト・コーカデス伯爵に訴え出ればなんとでもなると考えた町長達は、町の生産量を断固として修正しなかった。それ以外の町村長は、レントに数字で詰め寄られて言い逃れをする隙も閉ざされ、諦めを以て生産量の修正と追加の納税と追徴金を受け入れた。


「生産量の修正を受け入れたと言う事は、意図を持って虚偽の申告をしていたものと見做します」


 レントの声が冷たく響く。

 修正を受け入れた町村長達の多くは、諦めと共に項垂れた。

 修正を受け入れなかった町長達は、自分達の取った対応が正しい事に自信を持ち、頬を緩める者もいる。


「虚偽申告をした者は、一連の手続きが済んだ後に、後任に席を譲る事を命じます」


 項垂れていた町村長達は驚いて顔を上げた。


「お待ち下さい!後任に席を譲るとは」

「あなた達はコーカデス伯爵を騙したのです。今後その責任を問う為の裁判を行います。もちろん刑罰を受ける事になるのだから、あなた達がいなくなっても治める地域が混乱しない様に、引き継ぎを行う必要があるでしょう?」

「そんな・・・」


 質問を上げた者だけではなく、修正を受け入れた町村長は皆、顔色をなくした。

 一方で受け入れなかった町長達は、ホッと息を吐く。その者達は、スルトとレントの間では何らかの取り決めがされており、見せしめに何人かを罰するだけで、自分達は罰せらる事はないのだと考えた。


 修正を受け入れた町村長の内、中でも若い一人が声を上げる。


「わたくしは村長を嗣いだばかりで、密造などに関わっておりません」

「前任者を罰せよと言うのでしたなら、それは自分で裁判を起こし、誰に責任があるのかを明示すれば良いのです」

「それはもちろんですが、わたくしの息子はまだ幼く、万が一わたくしが有罪となりましたら村の運営が成り立ちません」

「あなたの有罪は確定しています」

「え?しかし裁判を行えと仰ったではありませんか?」

「村がどの様に運営されているのか、前任者から正しく引き継がなかったのは罪です」

「そんな」

「正しく引き継いでいたとしたら、密造に気付かない訳はありません。もし正しく引き継いでいて、それでもなお密造に気付いていないのなら、あなたには村長の資格はありません」

「そんな」

「それに何故、あなたの息子が幼い事が関係するのですか?」

「え?それは、村長を嗣がせるのには、息子がまだ幼いからで」

「それなら息子以外を後継に推薦すれば良いではありませんか」

「それは、だって、我が家は代々、村長を務める家柄ですので」

「その様な事をコーカデス伯爵は認めていません」

「・・・え?」

「村長にしろ町長にしろ、前任者の推薦を受けた人物に問題がなければ、推薦通りに領主が任命します。それはこの国の法に則った行いです。この様な事さえ知らないのでは、あなたには村長の資格などありません」

「いえ、もちろん知ってます!でも、それでも、代々、村長を務めさせて頂いていたのです!俺の代で他のヤツに村長を譲るなんて出来ない!」

「譲るも何も、村長の職はあなたの所有物ではありません」

「え?何を」

「村長の役職は、領主が任命するものです。その責務を果たす限りに於いて村長、あるいは町長への俸給が支払われますし、様々な権限も行使が許されます。だがあなたは責務を果たしていません。正しい引き継ぎを行わなかったのだとしても、村の実態を把握できていないのでは、村長失格です」

「しかし、俺は伯爵閣下に村長を任命された!それをあなたがどうこう出来るはずない!」

「そうです。つまりあなたとあなたの前任者は、伯爵を騙して適性のないあなたを村長に据えました。わたくしはそれを罪だと言っているのですし、村長にそぐわないと言っているのです」

「そんな・・・」

「血縁で村長や町長が決まる訳ではありませんが、もちろん血縁者を排除する意図はありません。あなたやあなたの前任者が不適格だからと言って、あなたの息子もそうだとは限らないのですから」

「しかし、ですが、息子はまだ幼く」

「その息子と言うのがあなたの長男の事でしたら、面識はありませんが、幼いと言ってもわたくしよりは年上でしたよね?」

「・・・え?」

「しっかりと教育をされていて、村長の職務を熟せるのなら、次の村長に推薦をすれば良いのです」

「そんな、無茶な」

「何が無茶ですか。わたくしだって今日の様に、伯爵の代理を熟しているのです」

「それはあんたが特別だからで」

「わたくしはわたくしより年下で、わたくしより上手く領地経営を行えるであろう(かた)も知っています」

「年下って、サニン王子だって特別じゃないか?」

「確かに王子殿下は特別でいらっしゃいます。しかしそれを言うのなら、代々村長を務めた家の跡継ぎだって、特別になるのではないですか?」


 レントは町村長達を見回した。


「今述べた通り、血縁者だからと言って、後任を認めない事はありません。あくまで地域の長としての適性があるかどうかを判断します。そして後任には不適切なら、わたくしが適任者を選んで長として据えます」


 スルトではなくレントが後任を判断すると言っている事に、町村長達は同席しているレントの祖父リート・コーカデス前領主の様子を見る。そしてリートがレントの言葉を否定しないどころか動じてもいない様子に、レントの言葉に嘘がない事を町村長達は理解した。


「そして適性があるのなら、老若男女、誰でも構いません」

「女?女でも?」

「もちろんです。あなたの妻や母、あるいは姉妹でも構いません。もちろん血縁も何もない女性でも、その者が歳を召していても少女でも、適性がある限り後任に就く事を認めます」

「その適性はどうやって調べるのですか?」

「試験と面接です」

「え?試験?」

「村長を務めるのに、必要な知識を持っていなければなりません」

「でも、今まで試験なんて」


 若い村長が周囲を振り向くが、若い村長と目を合わせる町村長はいない。


「さて。修正を認めた者達には、早速村や町に戻って納税や後任の手配をする事を命じます。この場から退場して下さい」


 周りの様子を伺いながら、多くの町村長が立ち上がる。

 修正を認めなかった町長達も立ち上がった。


「我々もこれで帰ってよろしいのですな?」

「いいえ。領主代行であるわたくしに虚偽の発言をしたあなた達は、当然投獄します」

「は?」

「投獄?」

「え?何を?」

「そんな事!領主様が許す筈がありませんぞ!」

「その通り!私の娘は伯爵閣下の恋人ですぞ!」

「私の妹もそうだ!」

「私の娘もだ!」


 町長達の発言に、リートは眉間に皺を寄せる。しかしレントは町長達を冷たく見詰めていた。


「あなた達の娘や妹には、コーカデス伯爵の恋人の適性があるのでしょう。それはわたくしは問う事はしません。しかし伯爵の恋人の適性を持つ者の身内が、町長の適性を持つかどうかは別問題です」

「なんですと!」

「あなた達は領主代行であるわたくしに、虚偽の発言をしました」

「虚偽ではない!」

「嘘など言ってない!」

「弁明の機会を手放したのはあなた達です。領主代行に虚偽の報告をして訂正も出来ない者に、町長の資格はありません」

「なんだと!」

「そして虚偽報告の罪で、あなた達はこのまま投獄するのです」

「待て!」

「待ってください!」

「領主様に会わせてくれ!」

「領主様に聞いて貰えば私がどれだけ領地の役に立っているのか分かる!」

「そうだ!」

「その通りなんです!」

「今の発言は、わたくしにはあなたが領地にどれ程の事を行ったのか、理解できていないとの侮辱と受け取ります」

「え?そんな」

「同意した者も同罪です」


 修正を認めなかった町長達も、退出しようとしていた町村長達も、身動きも止める。会場には物音も立たなくなった。

 そこにレントの声が冷たく響く。


「コーカデス伯爵からの全権委任を受けているとの意味が、理解できていない者が町長の中にいるとは思いませんでした。それを以てもあなた達には町長の適性はありません。これからの取り調べや裁判でどの様な結論が出ても、あなた達が町長に復職する事はあり得ません」

「復職?」

「ええ。あなた達はこの場で罷免します」

「え?それは、どう言う?」

「密造などの修正申告は、領地の文官に代行させます。後任の町長もわたくしが決めます」

「待って!待って下さい!」

「後任を指名するのは町長の権限だ!」

「そうだ!」

「違います。町長は後任を推薦出来るだけです。町長の任命は領主の権限です」

「しかし」

「そしてあなた達は今、私の宣言を以て罷免されました」

「罷免?」

「罷免なんて」


 レントは修正を受け入れた町村長達を向く。


「修正を受け入れたあなた達は、修正を受け入れなかった町長達を助ける積もりなら、この場に残って構いません。しかし、巻き込まれたくないのであれば、直ちに退出しなさい」


 成り行きを見守って息を潜めて立ち止まっていた町村長達は、レントの言葉に慌てて先を争う様に会場を後にした。

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