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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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町村長達への疑義

 コーカデス領の商人達の取引に矛盾がなくなった事を以て、審問会は閉会した。

 しかしその実態は、正確な報告をしている商人は多くなく、取引に詳しくない代理人を審問会に送った商人と、審問会を欠席していた商人に追加納税を押し付けるものとなっていた。


 レントは直ぐに各商人へ、直ぐに納めれば追徴金を取らないとして、納税命令書を送った。

 国には追徴金も納めなくてはならないが、レントはそれをコーカデス家が支払う積もりでいる。それは素早い納税を促す事で、迅速に対応を進める事を狙ってではあった。

 しかし審問会に代理人を出したり欠席したりしていた商人は、誰一人として素直に応じたりはしなかった。身に覚えのない税金まで押し付けられた商人達は結束して、レントの判断を不当だと訴えた。

 それに対してレントは兵士を付けて文官を派遣して、追徴金を上乗せして商人の財産を差し押さえた。

 レントは反発される事を見越して、直ぐに納税するなら追徴金を取らないと伝えていたのだ。その為、コーカデス家で肩代わりする追徴金は、ほんの僅かな額で済んだ。


 多くの商人が財産の差し押さえを受けたので、領内の流通は滞る。

 元々正しい報告をしていたり、審問会で修正報告をして少額の納税で済んでいた商人達に対して、レントは流通を回復する様に命じた。そしてそれは差し押さえを受けた商人の取引相手を奪わせる事になった。


 そしてレントは、商人達の売買実績を直ぐに報告させる。

 その状況を実現してから、レントは各町村の長を召集した。



 町長も村長も全員がレントの召集に応じたのは、商人達がどの様な扱いを受けたのかに付いて、話が広まっていたからだ。

 中には、商人が差し押さえられた財産を返して貰える様に、レントと交渉する事を商人達に頼まれて来た者もいた。もちろんタダではなく、財産を取り戻す事が出来れば、商人から謝礼が貰える約束になっている。



 集められた会場に、レントに続いてレントの祖父リートが入場しても、町村長は驚かなかった。商人から審問会の話を聞いていたからだ。

 商人に頼まれている町村長達は、お互いの出方を窺いながら、レントに商人の財産返却を請願するタイミングを測っていた。


「わたくしがあなた達を召集したレント・コーカデスです。本日は各町村の生産量を説明して貰います」


 会場が(ざわ)めく。

 一人の町長が手を挙げた。


「レント・コーカデス様。質問がある場合はどの様にすればよろしいですかな?」

「質問をするのはわたくしです。ですがそうですね。せっかくですからあなたから答えて下さい」


 文官がレントの前に資料を広げる。


「あなたの町では、多量の農産物が売られました。これはどう言う事ですか?」

「どうも何も、現在領内の流通は大混乱をしています。流通が止まっている間に溜まった農産物を売ったまでです」

「量がおかしいのはどう言う意味ですか?」

「ですから、溜まっていた分です」

「つまり、これだけの量を生産していると言う意味ですね?」

「溜まっていましたので」

「この量、明らかに領主への報告されている何倍も生産されている事になります」

「そうですかな?」

「つまり報告をしていない密造分が含まれていると言う事です」

「ご冗談を。私の町の取引は、コーカデス伯爵閣下に認められております。密造などしておりませんよ」

「では密造を認めないのですね?」

「全てコーカデス伯爵閣下に認められておりますので」

「わたくしはコーカデス伯爵に全権を委任されています」


 レントは父スルト・コーカデス伯爵の委任状を参加者達に見せた。


「つまりコーカデス伯爵領への報告も、わたくしを納得させなければならないと言う事です」

「あ、いや、それでしたら閣下にご確認頂ければ」

「コーカデス伯爵はお忙しい。それより目の前にいるあなたが説明をすれば良いのです。さあ。この生産量の数字の不自然さに付いて、コーカデス伯爵を納得させたと言う密造以外の理由を今すぐ述べなさい」

「いや、しかし」

「密造を認めるのなら、納税は分割とする事も許します」

「あ、いや」

「言って置きますが、前年度の分だけではありません。現伯爵が領主に就任した時点まで遡って、追加での納税が必要です」

「え?そんな前からはやっておりません!」

「そうですか」

「あ!え、いや」

「わたくしが納得出来たら、出来た分は減免しましょう。しかしもし、わたくしをこの場で納得させられないのなら、領主代行に嘘を騙った罪も償って貰います」

「え?いえ!そんな!」

「なお、当然ですが、追徴金も払って貰います」

「え?ですが商人達は追徴金なしだったと」

「商人達は脱税だけです。あなたは密造の上に脱税です。同様の扱いに出来る訳がありません」


 別の町長が叫ぶ様に、レントに言葉を向けた。


「今すぐになんて無理だ!なんの資料もない!」

「資料ならあります。現伯爵が就任してから昨年度までの、各町村からの生産報告書と、各商人の売買報告書です」

「い、や、だが」

「商人の報告書は先日精査して、わたくしが納得出来る物となっています。それなのでそれを根拠に、各町村からの報告書に付いて、わたくしが納得出来ない点を説明して貰います」

「いや、そんな」


 多数の町村長達の顔色が、見る見る悪くなっていく。


「しかし、そうは言っても膨大な量です。一人一人と質疑応答をしていたら、かなりの時間が掛かります」


 顔色を悪くしていた町村長の何人かの表情に、希望が浮かんだ。レントの言葉から仕切り直しを想像し、戻ったら直ぐにスルトに直談判して、何とかして貰う事を考える。


「それなので、生産量の修正を申請する者は、別室で受け付けます。修正する者はいますか?」


 ほんの数人が観念をして手を挙げた。


「ではあなた達は、そちらの係官に付いていって下さい」


 文官に先導されて、手を挙げた町村長が退場する。


「さて。本日は領内の全ての町村の長に集まって貰いました。ですが、今この場に残っている者の中には、私から疑義のない町村の長もいます。その者達にはささやかながら、食事の用意をしています。正しい報告をしてもらった礼です。今からそちらの係官が名を呼んだ者は、係官に付いて行って下さい」


 レントはそう言って微笑んだ。

 その微笑みを浮かべたままレントは、問題のなかった町村長の退場を見送る。

 そして会場に残った町村長を振り向いた。


「さて。早く終わるかどうかはあなた達次第となります。まあ、長丁場になるでしょうけれど、あなた達の仕事はこれが最後となるでしょうから、我慢して貰いましょう」


 レントはまた微笑んだが、その声も表情も冷たかった。

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