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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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パノのお願い

 元王女チリンとその息子ディリオにお休みの挨拶をしたミリが、コーハナル侯爵邸内で宛がわれている部屋に戻って寝ようとした時、廊下でパノに声を掛けられた。


「ミリ?これから寝るの?」

「はい、パノ姉様」

「良かったら今夜は、私の部屋で一緒に寝ない?」

「え?良いのですか?」

「ええ。少しミリに話したい事もあるの。今日の説明会で疲れているかと思うけれど、少しで良いから話す時間も貰える?」


 パノの申し出にミリは、以前パノと一緒に寝た時の事を思い出す。あの時はレントとの文通を禁止されるかとミリは思っていたがそうではなく、交際練習に付いてのパノの思い出を色々と聞く事が出来た。

 もしかしたら今回こそ、文通を禁止されるのかも?と思いながら、ミリは「分かりました」と肯いた。


 レントと親しくなるなとバルとラーラに言われてからも、ミリはレントとの手紙の遣り取りを行っていた。

 それは脱税問題についてソロン王太子に命じられての部分もあったのだけれど、ディリオが生まれてからはその愛らしさを誰彼構わず伝えたいミリが、レントからの返信有無に関わらず、あまり日を置かずに手紙を送り続けていたのだ。手紙を受け取ったレントからすれば、「そうですか」と同意するくらいしか書く事がないので、返信出来る筈もなかったのだけれど。



 寝室に招かれて、ミリはパノと一緒にベッドに横になる。

 話が文通に付いてだと予想していたミリは、パノから緊張を感じる事に違和感を抱いた。

 考えてみたら文通を咎めるのなら、パノなら普通に注意をしてくる筈だ。わざわざミリを寝室に誘う必要はない。

 そして前回も話し始める前のパノが緊張していた事をミリは思い出した。

 それらに気付いたミリは、パノがミリに話そうとしている話題が、恋愛や結婚に関してなのかも知れないと思い至る。


「パノ姉様?」

「なに?ミリ?」

「今晩も手を繋いで良いですか?」

「ええ、もちろんよ」


 体をパノに向けて尋ねたミリは、パノが伸ばした手を両手で包んだ。


 ミリが知る限り、パノと交際練習をしていたラブラ・コウラとパノの間に、最近も接触はなかった筈だ。チリンの出産前後はミリはチリンに掛かり切りだったけれど、それはパノも同じ筈。その後のミリはディリオにかまけていたけれど、それも、ミリほどではないけれど、パノも一緒だった。

 コウラ子爵家からコーハナル侯爵家に出産祝いは届いていたけれど、ラブラ・コウラ本人からはなかった。そしてもし、コウラ子爵家からの贈り物に、ラブラからパノ宛のメッセージが忍ばされていたら、騒ぎになっていた筈だ。もしラブラ本人が出産祝いを届けに来たのだとしても、受け取ったのはコーハナル侯爵家の使用人の筈だから、その時にパノと会ったと言うのも考え難い。

 そうすると新たな縁だろうか?


 ミリはパノが結婚しないものだと勝手に考えていたけれど、そう決めているのだとは聞いていない。

 今回の脱税問題での国王からの召喚で、王都に各貴族家の当主やその代理が集まったけれど、どこかの家がパノへの縁談を持ち込んだ可能性はある。


 ミリはその様な事を考え始めてしまって、そもそも手を繋いだのもパノの緊張を(ほぐ)す為だった筈なのに、自分の方が緊張して来てしまっていた。


「どうしたの?」


 パノが顔を横に倒してミリを見る。


「大丈夫です。何でもありません」


 そのミリの返しに、何かがあったとパノは気付いたけれど、「そう」と微笑むとミリから目を離して、パノは上を向いた。

 そしてパノは目を閉じて、二呼吸置いて目を開けると、また顔を倒してミリを見る。


「ミリ」

「はい、パノ姉様」


 パノは、パノの手を握っているミリの手に、もう一方の手を被せた。


「私、遊学する事にしたの」

「・・・え?」

「お父様に許可を貰ったの」

「え?遊学って、なんで?何故です?パノ姉様?」

「昔、ソロン王太子殿下がご留学をなさる計画があって、その時に同行しないかと私は声を掛けられていたの。ソロン王太子殿下のご留学が取り止めになって、私も留学はしない事になったのだけれど、その後も他国に行ってみたいとはずっと思っていたの」

「留学の話は聞いた事があります。今回はどなたかとご一緒に、あ!私を誘って下さっているのですか?」

「え?あ!ごめんなさい、違うのよ。ミリと一緒ではなくて、一人で行く予定なのよ」

「え?!一人で?!」

「あ、もちろん護衛とかは連れて行くわよ?これから募るのだけれど」

「あ、はい。でも一人でって、どうしてですか?」

「だって気楽じゃない」


 そう言って微笑むパノに、ミリは言葉を返せなかった。

 その顔を見てパノはミリの手から片手を離し、ミリの髪を撫でる。


「ミリと一緒でももちろん楽しいと思うけれど、こんな風にね?でもミリにはここでやる事が色々とあるでしょう?」

「それを言ったらパノ姉様だって、ここでやる事がたくさんあるのではありませんか?」

「ラーラとバルの事?」

「え?いえ、コードナ家に、その、そう、パノ姉様をコードナ家に縛り付ける積もりはありません。それはお父様もお母様も同じだと思います。もちろん二人も私も、パノ姉様にはこれからもずっとコードナ家にいて欲しいとは思っていますよ?」

「でも、ラーラとバルは最近、随分と良い雰囲気になって来たでしょう?」


 バルとラーラの距離が縮まっていっている事は、ミリの手柄だとパノは思っていた。しかしここでそれを口に出すと、自分がパノを追い出したとかミリが考えてしまいそうだと思い、パノは言わないでいる。


「・・・確かに最近は雰囲気が変わりましたけれど」

「私はラーラをフォローする為に、バルに雇われているの。それはラーラが人を恐れて、バルに触れられるのさえも緊張する様だったから。でも今はあんな感じでしょう?」

「ええ、まあ」

「それにコーハナル侯爵家にも、跡継ぎのディリオが生まれた。お父様は元々私の手なんか必要としないし、スディオもすっかり任せておける様になった。チリンさんがコーハナル侯爵家の女主人となる為には、お母様がいれば問題ないでしょう?」


 コーハナル侯爵家にも、ミリがいてくれれば自分はいなくても大丈夫だ、とパノは思っていた。もちろんこれも口にはしない。


「待って下さい。一つ一つを挙げればそう言えてしまうのかも知れませんけれど、でも、例えば、ディリオちゃんの成長には、パノ姉様の影響も必要です」


 影響の言葉にパノはくすりと笑いを漏らす。


「私が一緒に暮らしていれば私の影響はあるでしょうね」

「もちろんです」

「でもそれは必須ではないでしょう?」

「え?・・・でも・・・」

「私が遊学しても、コーハナル家もバルもラーラも大丈夫。だけれど、もちろん私も気にはなるわよ?」

「そうですよね?パノ姉様がいなければ、何かあったら皆が困ります」


 パノはミリがいれば大丈夫だと思っていた。しかしそれを口にすれば、ミリがパノを追い出す様に響いてしまう。ミリにはそう思って欲しくない。それなのでパノは遊学の話を自分からミリに伝えて、ミリがその様に思ったりする事がない様にと、誘導する積もりだった。

 しかしここでパノは作戦を変更する。


「そうね。もし私がいなくて誰かが困ったら、ミリが支えて上げてくれない?」

「え?」

「私がいてもいなくても、ミリはコーハナル侯爵家の皆もラーラもバルも、困っていたら助けてくれるでしょう?」

「もちろん、私に出来る事はやります」

「私が困っていてもよね?」

「はい!あ、あの、パノ姉様が困る事って、あるのですか?」

「もちろんよ。色々とあるわ」


 少し苦味を含む笑みでそう返すパノの言葉にミリは、パノの交際練習とそれに続く婚約問題の顛末を思い出す。普段のパノからは困っている姿など思い浮かばなくて、ミリは油断をしてしまったのだ。


「遊学の話も、ミリに助けて欲しいの」


 パノにそう言われて戸惑うミリの様子に、ミリの動揺に漬け込む様な形になってしまい、パノは心の中でミリに謝った。しかし謝りつつもパノは、最初からこの方向でミリを攻めれば良かったな、などと考えていた。


「お父様から許可を貰ったばかりで、まだ何も準備出来ていないし、そもそも行きたい国が多くて、どこにするのかも絞れていないから」

「そうなのですか?」

「ええ。ミリは様々な国の船と親しいでしょう?だからアドバイスして欲しいし、実際の準備も手伝って欲しいの」

「・・・養伯父(おじ)様が許可をしたと言う事は、パノ姉様が遊学するのは決定と言う事ですか?」

「ええ、もちろん」


 実際にはパノが提出する計画書を見て、パノの父ラーダ・コーハナル侯爵が納得したら、遊学出来る約束になっている。行き先も決まっていないのに、決定している筈がない。しかしパノはその説明を端折った。


「分かりました」

「協力してくれる?」

「はい。パノ姉様の安全の為にも、是非、協力させて下さい」


 パノはミリの髪から手を離し、もう一度ミリの両手を握った。


「ありがとう、ミリ。よろしくね」


 笑顔を向けるパノに、湧き上がって来るパノに行かないで欲しい気持ちを抑え込んで、ミリも微笑みを向けて肯いた。


「お任せ下さい、パノ姉様」

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