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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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説明会後の説明

 国王に付いて部屋に入ると、室内には王妃がいた。


「終わったのですか?」

「ああ」


 王妃の問いに答えた国王は、王妃の隣に腰を下ろす。


「コーハナル卿も座って下さい。ミリ殿も」


 そう言って自分も腰を下ろしながら、ソロン王太子が二人に席を勧める。パノの父ラーダ・コーハナル侯爵とミリが腰を下ろそうとした時、バルの父ガダ・コードナ侯爵とバルが入室して来た。


 全員が席に付いたところで国王が命じ、従者が紙とペンを運んで来る。

 その紙とペンはミリの前に置かれ、国王がミリに向けて言った。


「ミリ。先程の問題の問題文と考え方と解答を書く様に」

「はい、国王陛下」

「序でに○×の方も書きなさい」

「はい。畏まりました」


 ミリが書いている紙を覗き込んで、王妃が国王に尋ねる。


「これは脱税問題に関係するのですか?」

「いいや。タランがミリを試すと言って出した問題だ」

「タランが?」

「ああ」

「あの子はこんな問題を()けるの?」


 王妃は甥に当たるタラン・コウグを子供扱いにした。


「問題は出したが、答えは分からんかったのだろう」

「1から10までの合計は、答えを知っていた様でしたね」


 王妃の問いに対する国王の答えに、ソロン王太子がそう補足をする。そこでミリが顔を上げた。


「あの、国王陛下」

「うむ?どうした?」

「タラン・コウグ様が出された全ての問題に付いての、記載をした方がよろしかったのでしょうか?」

「いや、○×と二百億の二つで良い」

「はい。畏まりました」


 頭を下げて、再び書き始めるミリの様子を見て、王妃はソロン王太子に顔を向けた。


「1から10までの合計は、ミリは答えられたの?」

「ええ」

「55よね?」

「そうですね」

「他にも何か問題を出していたの?」

「はい。1から100までの合計とか」

「10までで55だから、縦横10倍ずつで、5500くらい?」

「5050です」

「あら、惜しかったわね。でも450も差があるのね。どう考えたら良いのかしら?」

「え?どう?」

「ええ」


 王妃は小首を傾げて視線を中空に漂わせ、たまに「違うわね」等と呟きながら考え続けた。ソロン王太子には王妃の言う「どう」とは何なのか分からず、王妃が何をどう考えているのかも分からなかった。


 しばらくするとミリが顔を上げる。


「書けました」

「うむ。王太子」

「はい、国王陛下」

「ミリの書いたものを確認し、問題がなければ各家に配らせろ」

「畏まりました」


 ミリが紙を渡すと、ソロン王太子がそれを確認して肯く。そして複写する事と、説明会場に残っている各家に配る様にと、従者に命じた。

 王妃がミリに呼び掛ける。


「ミリ・コードナ」

「はい、王妃様」

「1から10まで並べると三角形になるでしょう?」

「はい。階段状の三角形の事ですね?」

「ええ。それをそのまま100まで並べたら、横も縦も10倍の長さになるじゃない?」

「はい」

「それなら1から100までを足したら、55掛ける10掛ける10で、5500になるのではないの?」

「そうですね。それではその階段状の三角形の、11から20までの部分を切り取って、頭に思い浮かべて頂けますか?」

「ええ、良いわよ。浮かべたわ」

「四角の上に三角が載っている様な形になっていると思いますけれど、三角の部分は1から10と同じ数になります」

「そうよね」

「はい。そして四角の部分は、二つの三角を合わせた様に見えますけれど」

「1から10までの三角と、それを逆さにした三角ね?」

「はい。そう見えますけれど、実は二つの三角より10少ないのです」

「え?そうなの?」

「はい。二つの三角の合計は、55足す55なので110ですが、四角の部分は」

「10掛ける10で100なのね?」

「はい。その通りです」

「なるほど、確かにそうね」

「はい。そして1から100までの中には、その四角が45個ありますので、5500から450個少ない5050個となります」

「そう言われたらそうなのだけれど、不思議ではない?」

「1個1個ではなく、三角形そのものでしたら、王妃陛下のお考えは正しく当てはまります」

「それはどう言う事?」

「底辺が10で高さが10の三角形の面積は50ですね?」

「ええ、そうね」

「ですけれど、1個から10個までを足すと55個です」

「確かにそうだわ」


 ミリは紙に、1個から10個までの四角形を階段状に並べた絵を書いた。そして階段の各段の一番上の四角形の、上の辺の真ん中それぞれを直線で繋ぐ。その線を1個目の四角を通り越させ、各段の一番下の四角形の下の辺から延ばした線と交わらせる。こうして階段状の四角形から少しずらして、直角二等辺三角形の図を重ねた。三角形の斜辺が、階段状に並ぶ四角形の上辺の中心を通っている。


「三角形の斜辺で四角を切り取った場合、1個目から切り取った部分は0と1の間の小さな三角形を埋める事が出来ます」

「ええ、そうね」

「同様に、2個から10個までの切り取った部分は全て、その一つ前の不足分を埋めて、階段を三角形に合わせて滑らかにする事が出来ます」

「ええ、確かにそうね」

「そして10個の部分の縦に半分の部分が、三角形からはみ出すのがお分かり頂けますでしょうか?」

「この部分ね?」

「はい」

「この部分がはみ出すと言う事は、10個分の半分の5個分が多いと言う事で、つまりは1個から10個までを足すと、50個ではなくて55個になるのね」

「はい。その通りでございます」

「でも待って?そうしたら1個から100個の合計も、100の半分の50個が多くなるのではないの?」

「はい。底辺が100、高さが100の三角形の面積は5000。それより50個だけ多くて5050個になります」

「あ、そうだったわね。5500に更に50を足すのではなかったわね」

「はい」


 ミリの説明に納得した王妃が、明るい笑顔をミリに向ける。その横で国王も「なるほど」と呟きながら肯いていた。

 会話が一段落したのを受けて、ソロン王太子が口を挟む。


「国王陛下、王妃陛下。王妃陛下がこの場にいらっしゃる目的をお忘れなく」

「ええ、そうよね」

「忘れてなどないぞ」


 そう言うと国王は従者に命じ、箱を受け取った。国王はその箱をミリの前に差し出す。


「ミリ」

「はい、国王陛下」

「これは褒美だ」


 ミリは立ち上がると「ありがとうございます」と受け取って、頭を下げた。しかし、マナーとして対応をして褒美を受け取ったのだけれど、ミリの気持ちは落ち着かない。

 今回の説明はコーハナル侯爵であるラーダが引き受けたもので、ミリはラーダを手伝った形だ。ミリへの褒美をラーダが用意するのなら分かるけれど、国王や王宮からの褒美や礼は、ラーダが受け取るべきだ。それを頭越しにミリに渡してしまって、トラブルに繋がらないのかとミリは心配をした。

 そのミリの様子に気付いたソロン王太子が苦笑する。


「父上、母上。何に対する褒美なのか伝えないと、ミリ殿が勘違いをして困っていますよ?」


 ソロン王太子が自分の前で、国王と王妃を父上、母上と呼ぶ事にもミリは困惑した。


「うむ?そうか?」

「ソロンの言う通りですよ。ミリ?」

「はい、王妃陛下」

「ディリオをミリが取り上げてくれたのですってね?」

「はい。チリン様にご指名頂き、ディリオ様がお生まれになるお手伝いをさせて頂きました」


 王族に対してディリオをどう呼ぶのか、ミリは予め考えていた。ソロン王太子が父上、母上と言っていたし、王妃もソロン王太子をソロンと呼んでいたので、それならチリンは身内として扱うだろうし、ディリオも孫や甥の身内扱いだろうと考えたので、ミリは躊躇わずにディリオに様付けを出来た。


「ミリのお陰でチリンもディリオも無事でした。ありがとう」

「ありがとう、ミリ」

「ミリ殿、ありがとう」


 三人の王族に笑顔で礼を言われ、ミリも笑顔を返した。


「お役に立てました事、光栄に存じます」


 そのミリの答えに「やはり固いね」とソロン王太子が笑い、国王も王妃も声に出して笑った。



 その後はミリによる、ディリオが如何に可愛いのかの説明会になった。

 国王も王妃もソロン王太子も、出産後のチリンにも、生まれたばかりのディリオにもまだ会えてはいない。二人に会えるのは半年後の予定となっていた。

 それなのでミリの話すディリオやチリンの様子に付いて、三人とも熱心に聞いていた。

 ディリオのもう一人の祖父に当たるラーダも、ミリほどはディリオとの時間を過ごせていない。それなのでやはり、熱心にミリの話を聞いている。

 ガダはミリの様子を見て、バルの長兄ラゴの長女リドラをミリに、何とかして会わせようと決心をしていた。

 バルは、微笑みを浮かべてその場の話を聞いているけれど、ミリを見るバルの眉尻は僅かに下がっている。

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