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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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答える

「確かにこの報告書では、どこに不正があるのか見付けられないだろう」

「そうだな。この報告書では不足がある」

「これだけで脱税が見付かるなら、とっくに見付けているな」


 参加者の一部から上がるその言葉を耳にして、ミリは国王とソロン王太子に体を向けた。


「国王陛下、王太子殿下」

「うむ?」

「どうしたのだ?ミリ殿?」

「国王陛下より命じられてコーハナル侯爵閣下が提出なさいましたのは、領地の収税や納税に問題がない事の報告書だとわたくしは認識しておりましたが、異なりましたでしょうか?」

「いや、合っておるぞ」

「ミリ殿の言う通りだ」

「わたくしが本日命じられたのも脱税の証拠の見つけ方ではなく、脱税がない事を証明する報告書式の解説で合っておりますでしょうか?」

「ああ。それもその通りだ」

「うむ」

「御回答頂き、ありがとうございます」


 ミリは国王とソロン王太子に下げた頭を上げると、参加者達に顔を向けた。


「この場にいらっしゃる何人かの方は、つまり、この説明会の趣旨を勘違いなさっていらっしゃる模様です。領地に脱税などないのが当然であり、当然ではあっても証明が難しい事に付いて、どの様に報告をしたら良いのか。その点に付いての説明が、本日のわたくしに任じられた役目となっております」


 ミリの説明に批判的だった者達は、揃って唾を飲み込んだ。国王の前で、自領には不正があるかも知れないと言っていたのも同然だったと気付いたからだ。


「脱税の洗い出しも、この報告書に準ずれば可能かも知れませんが、その為には先程指摘を頂きました通り、文官の方達の不正がない事が前提となります」


 そう言いながらミリは、参加者全体を見回す。


「わたくしの説明は以上となりますが、ご質問などございますか?」

「それなら、脱税を見付けるのには、どうしたら良いのだ?」

「分かりかねます」

「それは、無責任じゃないのか?」

「この場でわたくしに言えますのは、コーハナル侯爵領には不正がないと言う事と、コードナ侯爵領も同様に不正がないと言う事だけです」

「我が領も見て貰えるのか?」

「わたくしに分かりますのは、帳簿や資料に不整合があるかないかだけです。それはこの書式で報告書をお作りになれば分かりますし、本日はその為の説明会ですので」


 ミリの言葉に会場の雰囲気は分かれた。その内の一つは領主や領主代行と文官が囁き合って明るい顔で肯き合う領地と、もう一つは領主や領主代行が心配そうだったり不機嫌そうだったりしながら、文官が顔を伏せたりミリを睨んだりしている領地だ。そしてもう一つは、微笑みを浮かべてミリを見ている、六侯爵家とそれに(くみ)する貴族家の者達だった。


 ソロン王太子が場を終わらせに入る。


「後で疑問や質問が出たら、王宮に問い合わせる様に。他に質問がなければこの場を締める」


 その言葉に声を上げる人はいなかった。


「国王陛下。何かございますか」

「うむ。皆にはないが、ミリ・コードナ」

「はい、国王陛下」

「良く勤めた」

「御言葉、光栄にございます」

「うむ」


 頭を下げたミリに国王が肯くと、ソロン王太子が声を掛ける。


「ミリ殿からは何かあるか?」


 問われたミリは顔を上げ、「では、一つだけ」と答えると、タランを向いた。


「先程の答えは25937424600でした」


 ミリの答えにタランだけではなく、参加者全員が眉間に皺を寄せた。

 それが何かに気付いたソロン王太子が「ぷっ」と声を漏らし、国王が膝を軽く「ぽん」と叩いた。


「先程のタランの問題か?」


 ミリは国王に向き直り、「左様でございます」と答える。


「種明かしをしてくれ」


 また言われた「種明かし」にミリはピクリとしながらも、「畏まりました」と頭を下げた。


「説明を簡単にする為に、10種類で10個ではなく、まずは2種類で9個を使わせて頂きます」


 そう答えたミリに国王はまた、参加者達を手で示す。ミリは参加者達に向き直った。


「2種類からの組合せは、0個と1個、0個と2個、と考えて、0個と9個まで来たら次は1個と0個、1個と1個、と考えていきます。そうしますと9個と9個までの全部で、99通りになるのはお分かり頂けるかと思います」


 国王が「ほう」と呟いたので、ミリが体を向けるとまた、国王は参加者達を手で示す。ミリは小さく肯いて、また参加者達を向いた。


「1種類9個の中から選ぶのは、選ばない0個から、9個全てまでの10通り。99と言うのは、10通りが2種類なので10を2回掛けて100、そこから一つも選ばない0個と0個の分の1通りを引いた値となります。先程の問題は0個から10個までの11通りの組合せを10種類に対して行い、そこから一つも選ばない1通りを引きますので、解答は11を10回掛けた結果から1を引いたものになります」

「それが先程の二百何億かになるのだな?」


 国王からの声にミリは振り向いて、再び「左様でございます」と返した。


「王太子」

「はい、国王陛下」

「先程の数値をミリ・コードナに書かせ、それをこの場に参加している各家に配れ」

「畏まりました」

「各家の者は、ミリの答えが正しいか否か、確かめたなら王宮に報告せよ」


 参加者達が揃って国王に頭を下げる。


「ただし、納税に不正がない事の報告が優先だ」


 そう言って国王は立ち上がった。


「それでは説明会はこれで閉会とする。コーハナル侯爵とミリ・コードナにはもう少し話があるから、付いて参れ」


 ミリ達と一緒にこの場に入場してから一言も喋らなかったラーダ・コーハナル侯爵は、ただ「はっ」と応えて国王に向けて頭を下げる。ミリもラーダに合わせて頭を下げながら、「畏まりました」と応えた。

 二人の様子を見て国王は、満足そうに「うむ」と肯いて歩き始める。その後ろに真面目な顔をしたソロン王太子が続き、ミリとラーダが続いて退場した。


 入場と同じ並びになる為にミリが先を譲った時に見えたソロン王太子の表情に付いて、胡散臭い、とミリはいつかの様にまた思う。

 ミリは先程ソロン王太子が吹き出した事に、しっかりと気付いていた。



 説明会には参加していない貴族家もあった。


 ハクマーバ伯爵家は脱税調査に付いての国王からの命令を受ける前日に、ハクマーバ伯爵本人が王都に来ていた。

 そして国王からの命令を受けたら直ぐに、王都を離れて帰路に就いている。

 その翌日の説明会開催に付いての王宮からの連絡も、ハクマーバ伯爵に届ける事さえ出来ていなかった。


 レントの父スルト・コーカデス伯爵はまだ王都にいたが、王都の土産物を買いに出掛けていた。

 国王からの命令に関しても、受け取った資料をレントに向けて直ぐに送らせていて、スルト自身は中身を良く確認したりはしていなかった。

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