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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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問われる

 ミリを向いた国王は、質問を続けた。


「その計算方法をそなたは、今思い付いたのか?」

「いいえ」

「と言う事は、普段どこかで使う事があるのか?」

「はい。行商に向かう時には商品として何を持って行くのか、常に考えるのですが、その時に考えました」

「自分で考えたのか?教わったのではなく?」

「分かりません。覚えてはおりませんが、もしかしたら物心付く前に、習った事があるのかも知れません」

「ふむ。なるほどな」


 国王が肯いて二人の会話が途切れると、タラン・コウグが口を挟んだ。


「では次の問題だ」

「まだやるのか?タラン?」


 国王が眉間に皺を寄せるが、その表情に気付かないタランは「もちろんです」と言い切る。


「各種類10個ずつ10種類あるところから選ぶとしたら、何通りだ?」


 タランにそう問われたミリの眉尻が少しだけ下がった。


「それは、直ぐにはお答え出来ませんが」

「つまり降参するのだな」

「時間を頂ければ」

「直ぐに答えられないのだろう?自分の無能を素直に認めたらどうだ?」

「少し待て」


 国王がタランの言葉を止める。そして参加者達を見回した。


「この中に今の問題に回答出来る者はおるか?」


 その国王の言葉に領主や領主代行だけでなく、文官達も顔を見合わせたり首を左右に小さく振ったりする。コウグ公爵家の文官は顔を伏せ、国王と目を合わせない様にしていた。


「ふむ。では、タラン・コウグの出した問題の意味を理解できた者は、挙手をしろ」


 そう言って国王が手を挙げるとソロン王太子を始め、参加者の多数が手を挙げて返す。コウグ公爵家の文官も、顔を俯き加減のまま手を挙げた。


「タランよ」

「はい、国王陛下」

「答えは幾つだ?」

「それは・・・」


 タランはコウグ公爵家の文官を振り返ったが、文官は顔を更に伏せて細かく頭を振る。


「答えられないのでは、そなたも説明を聞く資格がないのではないか?」

「いいえ陛下!違います!説明を担う者の方が、より資格を求められるのです」

「ほう、そうか。だがこの場は、ミリ・コードナの持つ資格で構わないとする者だけが、説明を聞けば良い。先程王太子に退場を命じられた者達は、速やかに出て行け」

「いいえ国王陛下!それでは誤りを糺す者がいなくなります!」

「出て行かないのなら、口を閉じよ」

「しかし陛下!」

「何度も言わすな、タラン。出て行くか口を閉じるか、選べないのならば追い出すか喋る事が出来なくするぞ?」


 そこでやっと国王に睨まれている事に気付いたタランは、口を閉じてゴクリと唾を飲み込んだ。

 そのタランの様子を見て、その他の参加者達の事も見回して、国王は最後に視線をソロン王太子に移した。


「王太子」

「はい、国王陛下」

「そなたにこの場を任せると言いながら、口を出してしまったが、後はよろしく頼むぞ」

「畏まりました。お手を煩わせて申し訳ございません。ありがとうございました」


 ソロン王太子は国王に下げた頭を上げると、参加者達を振り返った。


「ミリ・コードナ殿の資質を問う質問は一切行わない様に注意し、説明内容に関しての質問のみとする様に」


 そうしてソロン王太子はミリに視線を向け、微笑んで小さく肯く。


「では、ミリ殿。よろしく頼む」


 ミリは頭を下げて、「畏まりました」と返した。

 ミリは頭を上げ、参加者達に顔を向ける。


「先程、ソロン王太子殿下に紹介して頂きました、コードナ侯爵ガダの三男バルの長女ミリです。本日の説明役を拝命いたしております。皆様。どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言って一礼し、顔を上げるとミリは微笑みを浮かべた。



「コーハナル侯爵領では、今も農耕地の拡大が進められています。その基盤となるのが水路です。他領と同じですが、コーハナル侯爵領でも水路の利用料として税金を徴収しています。水路がないところで農産物を作っても、労力に見合った収入は得られない為、密造は発生しておりません」


 ミリのその説明に、参加者の一人が「質問」と手を挙げる。


「既に水路がある土地なら収穫量を誤魔化す事で、不正な利益を得られるのではないか?」

「コーハナル侯爵領でも収穫率のランキングは作成しております」

「ランキング?」

「はい。どこの領地でも収税の際に、単位面積当たりの農産物の収穫量を元にして収穫率も算出していると思いますが、コーハナル侯爵領では畑毎の順位も併せ、それを領民にも公開しています。そして下位の畑には、収量を上げる為のテコ入れが()されます。また上位の畑には褒賞も与えられますので、モチベーションを上げさせる事で、領地全体での収量アップにも繋がっています」

「それは、余所から入手した作物で水増しが出来るではないか?」

「褒賞を受けた農地には、収穫量が多い理由を明らかにする為の調査が行われます。不正があればそこで判明しますし、その前に作物の流通には商人が介在しますので、商人の提出する売買資料からも、不正な生産が掴めます」

「商人もグルなら分からないではないか」

「商人が利益を過小報告した場合にも、役人がそれに気付かない筈がありません」

「役人が不正を行ったらどうする?」

「コーハナル侯爵家に勤める文官の皆様が、不正を働くとは思えませんが」

「そんなのは分からんじゃないか。不正をしていないと言う証拠が必要だ」

「その為に定期的な配置転換が行われるのではありませんか?」

「配置転換?」

「はい。文官の皆様を信じていない訳ではないと考えますが、不正も慣れによる不注意も入り込む事がない様にと、文官の皆様の配置を変えるのではありませんか?もしかして、御家ではなさってないのですか?」

「失礼な。たとえ配置転換など行わなくとも、不正などない」

「そうですか。配置転換は不正防止の為だけではなく、全体の情報平準化にも役に立ちます。低収量での躓きの発見にも、高収量のノウハウを領地に行き渡らせるのにも有効です。それは農業だけではなく、工業でも商業でも良い影響があると言えます。そして領地内で全体的に年々収穫率が上がっているのを見ても、生産能率や流通効率が年々上がっているのを見ても、不正は発生してはいない証拠となります」

「領地全体で不正をしていたら、なんとでも出来るではないか」

「それはさすがに、帳簿と領地を比較して頂ければ、一目で分かりますので」

「上手く隠せば不正は分からんだろう?」

「どうやって隠そうとしても少し調べれば、領地全体での不正は分かります」

「それが本当なら、今回の様な脱税騒ぎにはなっていない」

「今回の件に付きましては、領主に隠れて領民が密造をしていたからだと伺っています」

「だから、それがコーハナル侯爵領で起こっていないと、どうして言えるのだ」

「起こってはいない為、提示できる不正の証拠はありませんが、起こっていないからこそ、領地の実態と帳簿に矛盾がないのです。そしてその(かなめ)となる領地の生産量は、人頭税や利水税等から矛盾なく導かれ、工房や商家の収支にも一切の矛盾がない事で証明出来るのです。それを確認する為の資料が、今回コーハナル侯爵から提出されたこの報告書になるのです」

「仮にコーハナル侯爵領には不正がないとして、その報告書でどうやったら不正が発見出来るのだ?」


 その発言に、参加者の一割以上が肯いた。

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