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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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合っている?

 目を細めた国王はまるで、余計な事を言うな、とタラン・コウグを睨んでいる様にも見える。それに気付いた者達は、タランが余計な事を口にしないかと心配をした。

 しかし実際には国王はタランを睨んでいないし、王妃の甥であるタランも大して国王に注意を払っていなかったので、国王の様子には気付いていなかった。


「いや、そうだとしても、足し算は覚えてるかも知れませんが、掛け算は(おろ)か引き算も覚束なそうな年端もいかない少女に、税の何が説明出来ると言うのでしょうか?」


 タランの回りの何人かは、声を出さずにタランの意見に肯いた。


「何をどう説明する気なのか分かりませんが、何をどう説明されても、納得出来たりはしませんよ」

「では、コウグ殿。退場して貰って結構だ」

「え?王太子殿下?」

「これは任意の説明会だ。コウグ殿の意見に肯いていた者も、退場する様に」


 ソロン王太子の言葉に、場は静まる。肯いていた者達は、お互いに顔を見合わせたりしているが、退場しようとはしない。


「どうしたのだ?コウグ殿の意見に同意する者は、さっさと退場する様に。説明会が始められないし、途中で退場されても騒がしくて迷惑だからな」


 ソロン王太子がそう言うと、却って誰も動けず、身動(みじろ)ぎさえしなくなった。


「一人一人、名を挙げた方が良いか?」

「いいえ王太子殿下。他の者達は知りませんが、私は国王陛下主催のこの説明会を聞く為に、本日は参上したのです」


 タランの言葉に、先程タランに同調して肯いていた者達は驚きを顔に浮かべた。


「しかし常識的に考えてこんな子供に、難しい税制が絡む様な説明を熟せるとは思えないではありませんか?」

「だから、信じられないのなら、聞かずとも良いと言っているだろう?」

「いえ、王太子殿下。その子供を試させて下さい」

「試す必要はない」

「いいえ、王太子殿下。国王陛下や王太子殿下のなさる事は信じておりますが、子供が説明するなど、余りにも非常識ではありせんか?これを信じられないのは、わたくし達の所為ではありません。その子供がもし本当に説明できるのだとしても、わたくし達にそれを信じさせないその子供の所為です」

「信じさせるも何も、コウグ殿が信じないと言い張ったらそれまでだ。そう考えると、ミリ・コードナ殿の所為などではなく、コウグ殿の所為だ」

「いえいえ、王太子殿下。ですからわたくしに、その子供を試させて下さい」

「コウグ殿に何を試せると言うのだ?」

「簡単です。わたくしが出す問題に、その子供が答えられれば良いのです」


 国王もソロン王太子もラーダもガダもバルも、タランが出す問題に拠ってはタラン自身が試される事になると思った。しかしこのまま遣り取りしていても、タラン達は退場しなさそうだし、時間ばかり過ぎてしまう。

 ソロン王太子が国王を見ると、国王はソロン王太子に肯き返した。ソロン王太子が視線を巡らせると、ラーダもガダもバルもソロン王太子に肯き返す。

 最後にミリを見ると、ミリはタランを見ていた。ソロン王太子がミリの肩に触れると、ミリがソロン王太子を振り仰ぐ。


「ミリ・コードナ殿。こちらから依頼したのに試す様な話になってしまい、誠に申し訳ないが、タラン・コウグ殿が出す問題に、答えて貰ってもよろしいだろうか?」


 ミリに向かって必要以上に下手(したて)な言い方をするソロン王太子に対して、今のはミリを上げる事でタランを下げているのだろうし、先程バルに向かって言っていたのもやはり皮肉だったのだろうなと思いながら、ミリは肯いた。


「はい、王太子殿下」


 そう答えてミリはまたタランを見る。

 税制や税法、納税や収税、督促や減免に関した質問に、ミリは即答出来る様に心を構えた。



「では、1から10までを足すと幾つになるか答えよ」


 タランがそう尋ねてドヤ顔をするので、ミリは一瞬、質問を聞き間違えたのかと思った。


「どうした?こんな問題にも、答えられないのか?」

「1から10まで足すと、いくらになるか、と言う質問ですか?」

「ああ」

「55です」

「なんだ?知っていたのか?それにしては、答えるのに時間が掛かったな?答えを思い出せなかったのか?」

「・・・合格と言う事でよろしいでしょうか?」

「まだだ。それでは、1から100までを足したらいくらだ?」

「5050です」

「ふっ。単純に100倍になる訳がないだろう?」

「100倍にした訳ではありませんが、それでしたら正解はいくつなのでしょうか?」

「おい、いくつだ?」

「少々お待ちを」


 タランに命じられて、コウグ公爵家の文官が慌てて計算を始める。


「5050です」


 しばらく掛かってから答えたコウグ公爵家の文官の言葉に、「ほらな?」とタランがまたドヤ顔をした。


「どうですか?国王陛下?王太子殿下も?問題の意味も分からずに、単なる思い付きを口にする様な子供に、国政に関わる様な説明をさせようなどと言うのは、所詮は無理なのです」

「王太子」

「はい、陛下」

「今の問題、ミリの答えが合っていた様に聞こえたが?」

「ええ、合っています」

「え?合っている?」


 国王とソロン王太子の遣り取りにタランは眉間に皺を寄せる。


「その子供はただ、数字を100倍にしただけですよ?」


 そう言ってタランはコウグ公爵家の文官を振り向いた。


「おい?100倍ではないよな?」

「はい」


 コウグ公爵家の文官に肯くと、タランはまた王太子を見る。


「100倍ではないのですよ?王太子殿下?」

「ミリ殿が答えた5050は合っているし、55の100倍ではない」

「え?合っている?」


 タランが振り向くと、コウグ公爵家の文官は「合っています」と肯いて返した。

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